67:神性稼ぎと疑問の思い

 よって、はい。


 俺はリンドウさんと共に戦場を脱したのでした。

 逃げたわけではございません。

 本当の本当にそうではありません。

 

 戦場から離れた枯れ木の森だ。

 そこに俺たちはいました。

 わちゃわちゃしていました。

 2匹だけじゃない。

 集落の人間さんたち、総勢100人ちょっと。

 彼らと一緒にね?

 こう、必死にね?


『す、すいませんすいません!! 急いで!! 本当、がんばって!!』


 俺はもはや、そういう機械だった。

 土壌を改良しつつに、種を間断かんだん無く吐き出し続けている。

 んで、人間さんたちはてんやわんやだ。

 種を受け取っては右往左往。

 リンドウさんが縦横無尽に土壌を改良しまくってくれているのだけど、その後を追い続けている。

 種を必死に埋め続けてくれている。

 

 つまり、そういうことでした。

 種はパンジーであり、特性として神域のしるべが付与されている。

 神性稼ぎだ。

 神性を稼いで、神格を上げようってがんばっているのだ。


 だって、勝てないもん。

 現状だと、化け物イカに勝ちようが無いもん。 

 新たなスキルなり特性に期待を寄せるしかないんだもん。


 ちなみに時間的な余裕はさっぱり無いのでした。

 俺はチラリと元いた場所を……500メートルほどの距離にある戦場を見つめる。

 まるで間近にしているかのような迫力だった。

 20メートルを超える化け物イカが轟然と荒れ狂っている。

 もはや大怪獣だよな。

 凶器は一抱えもあるような巨大な触手だ。

 一本が一度振るわれるたびに、枯れ木の盛りが少なからずその風景を変えていくのであり……い、急がないとなぁ。


 無論のこと、戦闘中なのだ。

 ユスティアナさんたち10人とリリーさんだね。

 彼女たちがアレを必死に押し留めてくれていた。

 俺が神性を上げるための時間を稼いでくれていた。

 

 そして、これまた無論のこと劣勢だ。

 だって、いくら攻撃したところで回復されるし。

 何度も何度も触手は千切れ飛んでいた。

 しかし、触手の総数はさっぱり減らない。 

 次から次へと復活して、彼女たちを嵐にように襲い続けている。


 最初に息切れするのは、間違いなく彼女たちだろう。

 だから、俺も必死だ。

 必死で土壌を改良して、種を吐き続ける。

 なお、現状のところはですが、


 ───────《ステータス》───────

【種族】グリーンスライム

【神格】地母神[第12級]


レベル:161

神性:87,988

体力:166/166

魔力:164/165

膂力:63

敏捷:57

魔攻:64

魔防:58


【スキル】[スキルポイント:35]

・光合成Lv35

・種子生成Lv30

・土壌改良Lv15

・木獣使役Lv2

・形状変化Lv5

・硬化Lv10

・促成栽培Lv4

・神格解放Lv1

・聖性付与Lv1

・意思疎通Lv1

 ──────────────────────


 こんな感じでした。

 重要なのはもちろん神性の数値だ。

 炎ゴリラと戦った時には1000ちょっとだっけか?

 今は普段の作業の甲斐もあって、9万に手が届きそうになっている。

 格段に上がってはいた。

 しかし、神格に変化は無し。

 次は10万かなと期待はしているが……ま、まぁ、うん。

 

 正直、次が100万だったらどうしようという不安はあった。 

 だが、やるべきことは変わらないのだ。

 とにかく神域を広げ続ける。

 俺は無心だった。

 無心で土壌を改良し、土壌を改良し続け、


(……来ないんだな)


 そんなことを思ったのでした。

 いや、はい。

 無心になれてないね。

 でも、仕方が無いのだ。

 どうしても気になるのだった。

 俺は再びチラリと戦場をうかがう。

 遠目にだけど……あっ。

 今、あくびしたよね?

 手のひらで隠しつつの上品なものだったけど、あの人めちゃくちゃヒマそうにしてるね?


 俺が注目しているのは彼女だった。

 偽聖女さん。

 ユスティアナさんのご友人と同じ顔をした、邪神の信徒さんだ。


 しかし、本当来ないんだな。

 俺の行動を邪魔するつもりなんて……本当、心の底から無さそうだよねぇ。

 その点がね?

 俺は心底気になっているのだ。

 邪魔しようと思えば、さほど難しくは無いはずなのだ。

 ユスティアナさんたちは、化け物イカ相手で手一杯であるし。

 俺を邪魔しようと思えば。

 また、俺を殺そうと思えば。

 あくびをしている時間で、簡単に完遂出来そうなものだよなぁ。


(……なんでだ?)


 疑問に思わざるを得なかった。

 何故、彼女はそれをしないのか?

 彼女は俺を殺したがっていたわけだしね。

 しない理由はさっぱり思いつかないけど……いや?


 俺はとある光景を脳裏に浮かべることになった。

 あの人、変な目つきをしていたっけね。

 時折、俺を値踏みするような目つきを見せていたような。

 今もそうか。

 あくびを終えた彼女は、じっと俺を見つめてきていた。

 ユスティアナさんたちの戦いぶりに興味は無いらしい。

 神性稼ぎに奔走ほんそうする俺をじっと観察してきている。


 なんか、うん。

 彼女なりに何か理由があるって感じか?

 その何かはさっぱり分からないけど、とにかく僥倖ぎょうこうか。

 その何かのおかげで、こうして無事に作業に専念することが出来るのだ。

 

 急ぐ。

 とにかく急ぐ。

 んで、まぁ色々とありました。

 がんばりすぎて、リンドウさんがグデリと抱き枕になってしまったりとか。

 我らが聖女さん──テッサさんが大活躍されたりとか。 

 彼女にはステータスがあり、すでにスキルを獲得されていたりした。

 豊穣の光だったっけか?

 土地の改良に貢献するスキルを持っていらしたのだ。

 リンドウさんに代わって魔力の限りを尽くしてがんばってくれたのだ。

 ただまぁ、魔力はまだ少なく、スキルレベルは低くて効率は悪いので。

 あっという間にダウンでした。

 リンドウさんを抱き枕に寝込まれることになりましたとさ。


 なんか、うん。

 もう、俺しか残っていないね。

 土壌を改良出来るのは俺だけと言うことで。


(ひ、ひぃぃっ!?)


 必死どころじゃなかった。

 俺は一心不乱に土壌を改良し続ける。

 な、なんとかなってくれー。

 今、神性値はどんなもん?

 怖くて確認もしたくないけど、どうかお願いします。

 どうか神格の上昇を……っ!!


 ──────――《ログ》──────―

・神格の上昇が確認されました。

 ────────────────―――

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