62:危急と聖女
「テッサ。その客人の人数は? どんな人たちでしたか?」
ユスティアナさんが険しい表情で問いかける。
テッサさんもまた真剣そのものの表情で応じた。
「じゅ、10人? でも、あとはわかんない。フードかぶってた」
「そうですか。では、集落の皆に伝令を。作業を止め、すぐに中央に避難するようにと」
もはや和気あいあいとした雰囲気はどこにも無かった。
テッサさんは眉間に力を込めつつに頷いた。
駆け出す。
すると、ノイズ源であった中年さんだ。
緊迫の
「6名を連れていきます。よろしいですね?」
「分かりました。周辺の警戒をお願いします」
彼らもまた駆け出して行き、次が俺だった。
ユスティアナさんが緊迫の表情で見つめてくる。
「御使い様。神格解放の行使は可能でしょうか?」
『は、はい。使えますけど……そういうことですか?』
何か良からぬことが起こりつつあるのか。
彼女はどこか悩ましげに眉をひそめる。
「正直、分かりません。ただ、警戒は必要かと。神域によって我らの一部が正気に戻った件を覚えておいでですか?」
『それはあの、もちろん』
「神域に立ち入れば、何かしらの支障を得る。そんな輩がやって来たのかと私は
俺もまた眉をひそめる心地だった。
つまり、そういうことか?
ヤバい連中のどなたかが、ここを訪ねて来た可能性があるってことか?
正直……ねぇ?
非常にガクリと来るところがあった。
平穏でこれからも平和だろうなんて思ったもんだけどさ。
そんなことはあり得ないんだろうね、この世界ではね。
ただ、心のどこかでは覚悟していた未来なのだ。
よし、だ。
俺は心中でひとつ気合を入れ直す。
『戦闘……ですよね、えぇ』
その心構えを俺は当然するのでした。
ただ、ユスティアナさんは引き続き悩ましげな様子を見せてきた。
「先ほども言いましたが、そこは正直分からないところです。集落の襲撃が目的であれば、何故待つ構えを見せているのか。我々が居ない間に攻めかかることも出来たはずですから」
俺は頷き的な動きを返すことになった。
そう言えばそうだよね。
彼女の言う通りだった。
なんでわざわざ待っているのかって、その理由はさっぱり理解できないよなぁ。
ともあれ、異変であることには間違いないか。
ユスティアナさんは緊張の表情で口を開く。
「いずれにせよご覚悟を。少しでも怪しむべきところがあれば、即刻排除にかかります」
俺はもちろん『はい』でした。
正直、排除って言葉の冷たい響きに
その覚悟はさすがにあった。
肉塊はもとよりクトゥグアもそうだった。
あの連中との間には、殺るか殺られるかの関係しかあり得ないのだ
ただ、うん。
正直なところとしては、いなければって思うよね。
行ってみたところで、そこがもぬけの殻であればって。
さして間違った考えでは無いような気もするのでした。
危険が無いのであればそれに越したことは無いだろうし。
よって、俺は祈った。
そこには誰もいませんように。
そうして、俺はユスティアナさんたちと共に枯れ木の森へ……って、早いね。
早いですね。
もう祈りが無駄になっちゃいましたね、えぇ。
ちょうどテッサさんが指差していた方向からである。
枯れ木の森を背にして、歩み寄ってくる集団があったのでした。
かなーり異様でした。
全員がフード付きのマントを羽織って、そのフードを
そして……暗い?
いや、空気が重たい?
何かこう、五感以外のところで圧迫してくる不思議な違和感があると言うべきか。
俺はなんか納得でした。
ヤバいね。
この人たち、絶対ヤバい。
『り、リリーさん。リンドウさん』
同行してくれていたあの子たちに、俺はすかさず警戒を促すことになった。
リリーさんは両のお手々でファイティングポーズ。
リンドウさんは小さなキバをむき出しにして闘志を示してくれた。
そして、ユスティアナさんだ。
彼女は当然、彼らの異様さに気づいていたらしい。
すでにして長剣を引き抜いていた。
彼らに対し、長剣の切っ先を突きつける。
鋭くにらみつける。
「止まれ。人外で無いとあれば
すでに敵認定している感じだけど、それが妥当だろうね。
ユスティアナさん以外の4人もそれぞれに武器をかまえていた。
あとは激突するのみ。
そんな緊張感が濃厚に漂い……不意のことだ。
対面する集団に動きがあった。
先頭に立つ小柄な人影が自身のフードに手をかけた。
どうやら顔を見せてくれるらしいが、 俺は当然身構える。
肉塊じゃないけど、フードが外れた途端に熱線がビシュンでもおかしく無いからなぁ。
フードが外れる。
俺は『え?』と拍子抜けだった。
そこにあったのは女性の顔だ。
普通の……と言っても良いだろうか。
ただただ美しくて穏やかさそうな女性であった。
金の長髪はふわりとして眩しく光輝いている。
翡翠色の
そんな彼女はどこか楽しげに口を開いた。
「お久しぶりです、ユスティアナさん。お元気でしたか?」
当然、俺は隣に立つユスティアナさんを見つめることになった。
彼女は普通の様子では無かった。
唖然と見開かれた蒼の
──聖女様。
そして、彼女はそう呟いたようだった。
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