61:へい……わ?

「それはそうでしょうとも。女子に生まれて、お姫様と聖女を夢見ない者はいないでしょうからな」


 それが元ノイズ源さんのご返答でした。

 俺はちょいと首をかしげる的に応じることになりました。


『えーと、憧れの存在だと?』


「まぁ、一般的には。あの方は聖女殿の近衛を担当されていたことがありましてな。それもあるでしょう。当代の聖女殿は立派な方でしたから」


 俺は『なるほど』であり、ちょっと物思いにふけることになりました。

 聖女様かぁ。

 ユスティアナさんが憧れるほどに立派な人だったみたいだけど、その人は今どうしているのか?

 はたして無事でいてくれるのか?

 

 是非ともそうであって欲しいところだけど……まぁ、考えたところで仕方の無いことだ。

 今考えるべきことはそうね。

 神域を広げ、神格を上げる。

 それはユスティアナさんのためだけでは無く、今後のためになることなのだ。

 よって、


『えーと、テッサさん?』


 ちょっと意味深に呼びかけさせてもらったのでした。

 あまり意地悪は良くないよーってことで。


 結局、優しい子なのでした。

 彼女は少しばかり気まずそうな顔をした上で、コクリとしっかり頷いてくれた。

 きっと、聖女権益を独占したかったんだろうけどねー。

 それは皆のためになることじゃないって思ってくれたんだろうね。多分ね。

 

 よって、ゴーゴーゴー。

 

 みんなで一緒にユスティアナさんを追いかけます。

 テッサさんにリリーさんとリンドウさん。

 肉塊退治に参加していた彼らも同行してくれるようでした。

 なんかもう、和気あいあいだった。

 誰ががテッサさんの意地悪をからかえば、そのテッサさんはむくれて見せたりして。

 んで、リリーさんにリンドウさんも彼らと交流しているのでした。

 普段通りに可愛がってもらっていた。

 抱き上げてもらったり、肩に乗せてもらったり。

 きゅーきゅー、ぎぃーぎぃーとなんとも楽しげに鳴き声を上げていた。


(……なんかねー)

 

 俺はぼんやりと物思いにふけることになった。

 なんか、うん。

 平和だねー。

 可愛い対立はあるものの、本当平和そのものだ。

 目立った脅威は何も無い。

 懸念していたクトゥグアの襲撃なんかも無い。

 そして、集落は順調に発展し続けている。


 この日々はきっといつまでも続いていく。

 そんな風にも思えるのでした。

 きっと、そうだった。

 今まで苦労してきた分、今後は幸せで一杯に違いないのだ。

 俺はもう、のほほんだった。

 ぼんやりとしてみんなと歩みを続ける。

 そして、


「あっ!!」


 突如響いた叫び声に、俺は盛大にビビり倒したのでした。

 ぼ、ぼんやりしていた最中でのこれだからね。

 び、びっくりしたなぁ。

 若干、意識が召されそうになったような。

 視界に例の白い空間がよぎったような気も。

 暫定女神様もちょろっと見えましたかね?


 ともあれ、えーと?

 叫び声はテッサさんのものでした。

 思い出したって感じだけど、実際はどうなのか。

 俺以外もまた目を丸くする中で、彼女は慌てたように声を張り上げた。

 

 「お、お客さん!! そうだ、お客さんだった!!」

 

 俺は『ふーむ?』でした。

 ふむふむ。

 そういうことか?

 つまり彼女が言いたいことは、


『また、ここにたどり着いた人たちがってこと?』


 そういうことになるのだろうか。

 この集落だけど、人口は絶賛増加中なのでした。

 あのセコイアが良い目印になっているみたいでしてね。

 続々と人間さんたちが集まってきていて、今ではもう100人を数えるぐらいになったかな?


 少し前を行くユスティアナさんも同じ理解をしたようでした。

 振り返ると、テッサさんに呆れの視線を向けた。


「はぁ。何を重要なことを忘れているのですか。分かりました。すぐに会いに行きましょう」


 この集落のリーダーは実質ユスティアナさんだからねー。

 きびすを返すと、家屋が立ち並ぶ方向へと早速足を向けた。

 俺もまぁ、彼女の背を追います。

 初対面の人へ挨拶とか、俺にはなかなかしんどいところはあるけどねー。

 ただ、いずれはしなければいけないし、これからは協力し合う仲になるわけだし。

 ちょっと震えちゃうところはあるけど、気合を入れてなんとか……


「あ、そっちじゃない」


 俺は『ん?』と止まることになりました。

 これもテッサさんの発言だったけど、そっちじゃない?

 ユスティアナさんも立ち止まりました。

 テッサさんを首をかしげて見つめられます。


「どういうことですか? 村の方でお待ちなのでは?」


「ちがう。あっち。森のほう」


 彼女が指差したのは言葉通りでした。

 枯れ木の森だね。

 俺は『はて?』とグネリでした。


『なんで森? 村にどうぞって案内はしたよね?』


 俺の問いかけに、テッサさんは小さくこくりでした。

 

「した。でも、いいって。上のたちばの人がくるまで待つって」


 俺はグネリ続けざるを得ませんでした。

 それこそ、なんで?

 今じゃ灰色とか黒カニの姿なんて見ないけど、いて楽しい場所じゃ全然無いよね?


 正直、俺にはさっぱり分からないのでした。

 ただ、ユスティアナさんは何かを察したようだった。

 途端に表情を険しくすると、テッサさんを鋭く見つめる。

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