60:へいわ(女の子さんvs女騎士さん)

 本当ね。

 心はぽっかぽかですよ、ぽっかぽか。

 

 俺は思わずでした。

 ちょっと馴れ馴れしくですが、


『ただいまー』


 なんて女の子さんに返したりするのでした。

 当然、この行為にはそれ相応の報いが……って、うん。

 いやまぁ、前世であればね。

 少しでも調子に乗れば悲しい結末が待っていたのものでしたが、現状では全然ねー


 女の子さんはにこーでした。

 顔一杯に笑みを浮かべて、俺の前にしゃがみこんできました

 そして、


「おかえり、ミーさん」


 もうね?

 そりゃ、ぽっかぽかですよ。

 ぬっぬくで溶けちゃいそう。


 本当、優しいよねー。

 嬉しいよねー。

 ちなみに、ミーさんとはちゃんと俺のことです。

 彼女にとって御使い様は無しだったのだ。

 リリーさん、リンドウさんと来たのだから、俺もその流れの中で呼びたかったらしい。

 ミドリ色のミーさん。

 俺は本当好きかなぁ。

 だって、なんかペットっぽいし。

 若干人間的扱いをされていない感じが、なんとも居心地良いよねぇ。


 しかし、うん。

 この扱いにですね、異存をお持ちの方がいらっしゃったりしまして。


「……テッサ」


 俺は内心で『ひぃ』と小さく悲鳴だった。

 なんとも冷たい声音でしたが、その主はユスティアナさんだ。

 ちなみにテッサは女の子さんの名前なのでして。

 ユスティアナさんは女の子さん──テッサさんを冷たくにらみつけた。


「何度言われたた分かるのですか? ミーさんなどと、まったく不敬な。御使い様に失礼だと思わないのですか?」


 俺はもう縮こまるしか無いのでした。

 こわい。

 こういうの俺ダメなの。

 魂に刻まれているレベルで耐性無いの。


 ただ、幸いと言うかなんと言うか。

 テッサさんが叱られて泣き顔みたいな?

 そんな展開はあり得ないんだよねー。


 ふん、でした。

 テッサさんは薄い笑みと共に鼻を鳴らした。

 んで、人差し指で自らを指差したのでした。


「聖女。わたし、聖女」


 彼女は得意げに胸をそらしていた。

 かわいいけど、はい。

 そうなんだよね。

 テッサさんには、スキル聖性付与の対象にしてあることを伝えてあった。

 聖女なんて称号が付いていることもまた伝達させていただいていた。

 で、こんな感じだった。

 ここ最近のところ、彼女の聖女アピールが非常にはかどっているのでした。


 聖女だから許されてしかるべきって感じかな?

 まぁ、ぶっちゃけ聖女だからなんじゃいってのが俺の感覚なんだけど、これが有効なんだよねー。

 ユスティアナさんは「ぐっ」でした。

 眉間にしわを寄せて、明らかにたじろぐ様子を見せた。


 この世界ではと言うか、この地域ではと言うか。

 ノイズ音を出していた彼に尋ねたことがあるのだけど、聖女ってのはかなり大層な称号であるのだとか。

 神意を体現すべき聖なる巫女。

 すごい力があるとかでは無いそうなんだけどね。

 権威的なものはかなりのところがあるって話だったかな。


 んで、ユスティアナさんは俺のことを神様の使者的なものと思ってくれているのだ。

 だから、ダメみたいだった。

 そんな俺のお墨付きということで、どうにもテッサさんに逆らうのが難しいようなのだ。


 ということで、うん。

 ユスティアナさんは恨めしい目で俺を見つめてくるのでした。


「……何故? 何故、あの子などを聖女に……」


 実際、恨み節がついてきたのでした。

 俺はなんとも言葉に迷うことになった。


『え、えーと、何故とおっしゃられましても、成り行きと言いますか……』


「成り行きならば、私ではダメだったのですか?」


『そ、その時の貴女はえーと……』


 ユスティアナさんは今度は「うっ」でした。

 申し訳なくもだけど、罵倒だったりの過去を思い出させてしまったようだ。


 一方で、テッサさんはより一層自慢げに胸を張るのでした。

 この集落において、彼女はただの聖女様では無かったりした。

 1人御使い様に……俺に先んじて協力したとあって、先見の聖女様として尊敬を集めているんだよねぇ。


 このこともまぁ、ユスティアナさんが彼女に強く出られない理由の1つだろうか。

 ただ、ユスティアナさんはこのまま下風に立ち続けるつもりは無いようでした。


「……なれるのですよね?」


 どこか据わった目をしてのユスティアナさんの問いかけでした。

 俺は慌てて頷き的に動くことになった。


『は、はい。神格が上がれば、多分』


 彼女の問いかけはもちろん「私は聖女になれるよな?」ってものに違いなかった。

 色々説明させていただいてあるのだ。

 聖女とは、聖性付与の結果であること。

 神域を広げ、神格が上がれば、おそらくは聖性が付与出来る対象は増えること。


 ユスティアナさんは頷きでした。

 んで、リリーさんにリンドウさんをちらりと一瞥いちべつ


「……手伝っていただけるのか、お尋ねいただいても?」


 俺に対する通訳のお願いのようでした。

 手伝いってのはアレだ。

 神域を広げる手伝いだろうね。

 リンドウさんは言うに及ばずであり、リリーさんも萌芽生成なるスキルを獲得しているのだ。

 そして、萌芽生成においては神域のしるべを特性として付与出来たりした。

 

 あの子たち2匹がいれば、神域を広げることは十分に可能なのだ。

 ということで、尋ねてみました。

 ユスティアナさんが神域を広げたいみたいだけど、大丈夫?

 リリーさんとリンドウさんは一度顔を見合わせた。

 んで、


「きゅ」


 短く鳴いて、リリーさんはペケでした。

 両腕で可愛らしくバッテンマークを作った。

 リンドウさんはといえば、ぐるり。

 冬眠スタイルでその場で丸くなったのでした。


 まぁ、拒否ってことですね。

 ユスティアナさんは、それはもう顔を真っ赤にされたのでした。ひぇぇ。


「な、なんですかそれは!? そんなに私を聖女にしたくはありませんか!?」


 俺はビックビクせざるを得ないのだけど、う、うん。

 きっと、あの子たちにはそんな意思は無いのでした。

 ただ……テッサさんはひそかにニヤリと意味深な笑みを浮かべていたわけで。


 どうにもである。

 聖性が付与された者たちの間では、ある程度の意思疎通が可能のようなのだ。

 ということで、うん。

 まぁ、良からぬ企みがあったんだろうなぁ。


 ユスティアナさんはちらりと俺を見つめてきた。

 手伝いを要請しようと思ったみたいだけど、御使い様を手伝わせるのは主義に反するって感じかな?

 彼女は「くぅ」と口惜しげにうめき声をもらす。


「わ、分かりましたっ!! では、良いです!! 1人で励まさせていただきますから!!」


 肩を怒らせながらにいずこかへと向かわれるのでした。

 ひ、1人で励むって、どうやって……?

 そう疑問に思わざるを得ず、俺はさすがに手伝わせていただくつもりだけど、それにしても、


(そ、そんなになのかな……?)


 俺はそんな疑問を抱くことにもなりました。

 ユスティアナさんは聖女にご執心しゅうしんのようだけど、そこまでなりたいものかねぇ?

 レベル制度が導入されるのはけっこうなメリットだろうけど、どうだ?

 彼女の様子は強くなりたいからって感じには見えないような。


『聖女って、そんなになりたいものなのでしょうか?』


 よって、俺は尋ねることにしたのでした。

 その相手は、元ノイズ源さんである中年の熟練兵さんだ。

 彼は「ははは」と愉快そうな笑い声を上げた。

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