59話:へいわ
よって、うん。
なんかすごい平和なのでした。
『いやー、すごいですねー』
帰路である。
枯れ木の森をジュルジュル進みつつに、俺はそんな感心の声を上げさせてもらうのでした。
もちろん感心の対象はこの方たちである。
俺と共に帰路についているユスティアナさんたちだ。
誰もが笑みを浮かべてくれて、ユスティアナさんが代表して俺に応じてくれた。
「ありがとうございます。ただ……」
『ただ?』
「あの……やはり調子が悪いので?」
歩を進めつつに、彼女は心配そうに俺を見つめてこられたのでした。
理由はと言えば、うん。
俺が這いながらにブルブル震えているからだろうねぇ。
ちょっとね?
集団の中に異物が一匹。
この状況が前世によくあったシチュエーションを彷彿とさせるわけでね?
行きもそうであったが、帰りもやっぱり微振動が止められないわけで。
(い、意思疎通なぁ……?)
アレを獲得していなければここまでのことは無かっただろう。
この震えは、彼らと人間同士っぽい付き合いをしているからだろうし。
ペット的な気分でいられたらここまでじゃ無かったに違いない。
まぁ、それも今さらであり、それなりに慣れては来ました。
人間さんたちは、誰もが本当に良い人ばかりだったのだ。
んで、良い点もあるのでした。
意思疎通があるからこそ、彼女たちに伝えられることがあるからねー。
『お、お気になさらずに。しかし、本当すごいですね。まったく敵無しって言うか』
こうして称賛の言葉を伝えさせていただけるのだ。
心配の目つきをしていた彼女だけど、誇らしげな笑みを浮かべてくれたのでした。
「はい。あの程度ではまったく。もとより劣性なるニグラス程度、我らの敵ではありませんので」
俺は『おぉ!』と感嘆の声を上げることになった。
きっと過言では無い事実なんだろうね。
事実、さっきの一戦はそうだったし、この前も……えーとその前もか。
この一ヶ月ですでに5体。
肉塊を退治したけど、苦戦はまったくだったしなぁ。
『すごいですねー。カッコいいですねー』
称賛の言葉は尽きないのでした。
ただ、んー?
ユスティアナさんが誇らしげに笑みを深める一方で、苦笑を浮かべる男性がいたのでした。
「しかし、それも御使い様のおかげですがね。私などはさっぱり役に立ってはいませんでしたからなぁ」
彼の発言に対し、俺は『あー』と曖昧に理解を示すことになった。
彼はアレである。
虚ろな目をしてノイズ製造機になっていた人がいたけど、彼はその当人さんだった。
そして、他の人たちも似たような過去をお持ちでした。
ユスティアナさんを除いた全員がかつて正気を手放していた当人たちだった。
ヤバい連中の中には精神攻撃が得意なのが存在する。
そんなことを以前に聞いたけど、まぁ、だからだよねー。
俺は周囲を軽く見渡す。
そこにあるのは、見渡す限りの枯れ木の森だ。
こうも強い彼らが何故この光景を許してしまったのかってね。
その辺りが理由で間違いないよね。
ともあれ、現状は違う。
神域の
彼らの精神に異常はさっぱり無い。
実力を余すことなく発揮していだたけているわけで、それはまったく敵なしの様子なわけで。
(平和だなー)
戦闘に関しては問題を見つけ出す方が難しいぐらいだ。
そして、うん。
こっちについてもそうか。
くだんのバカでかいセコイアを目印に進むことしばし。
見えてきたのでした。
我らが根城とする廃村……ではもはや無いよな。
『……村だなぁ』
思わず呟くと、彼女が応じてくれました。
ユスティアナさんが目を細めた笑みで頷きを見せた。
「はい。かなり形になってきましたね。良い光景です」
まったくもってその通りなのでした。
そこにあるのは、うん。
村だ。
穏やかな人里の光景だ。
木目の素朴な家屋が立ち並び、合間合間に植わった樹木、草花の緑がなんとも目に眩しい。
外縁部には農園が広がっていた。
区画分けされたそこにおいて、一方では果樹の森が広がり、一方では小麦が黄金の
トマト、じゃがいも、キャベツにナス。
実野菜、葉野菜が豊作を競う光景もあった。
つまり、はい。
安全が確保されていることもあって、こっちも順調なんだよね。
生活環境の整備が見事に進んでいるのでした。
(……良いねー)
俺は思わず動きを止めて眺めることになった。
何が良いって、人間さんたちの様子だよね。
もちろんのこと、この光景の主役は彼らなんだけど、みんな生き生きとしていた。
新たな家屋のためにと材木を運ぶ人々も。
畑にて作物の面倒を見る人たちも。
誰もが表情に活気をたたえている。
瞳に気力をみなぎらせている。
そして、ちなみにと言うかなんと言うか。
以前はちょっと無理している感のあったあの子だけどね。
今はもう、心の底からって感じでありまして、
「あ、来ましたね」
ユスティアナさんが楽しげに呟きましたが、そうみたいですねー。
畑の方向から、すんごい勢いで接近してくるトリオがあったのでした。
その内の2匹はあの子たちだ。
リリーさんにリンドウさん。
てってこ、ずるずる……なんて速さじゃないけど、ともかくそんな感じだね。かわいい。
で、残りの1人がくだんの彼女でした。
闇ゴリラ戦でも奮戦してくれた、将来期待のあの子だ。
キキーッ!! って感じでした。
俺たちを目前にして、彼女たちは見事に急ブレーキ。
そして、
「おかえりなさいっ!! ごぶじでなによりですっ!!」
元気一杯の背伸びをしたお出迎えをしてくれたのでした。
ということで、女の子さんですね。
青いお目々はまったくキラキラしていまして、本当ねー。
(平和だなー)
あらためて思うよねー。
本当平和だなー、わーい。
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