第3章:ルルイエからの呼び声

58話:vs肉塊(楽)

 さてはてさて。


 皆さんのため、自分自身のため。

 ちょっと気合を入れてがんばらせていただきましょうかっ! ……みたいなことを思って、早一ヶ月?


 まぁ、30日ぐらいは経ったのかね。

 それで、うん。

 なんでそう意気込まなければいけなかったと言えば、多大な困難が予想されたからだ。

 世界は妙な怪物で溢れているわけで、そのせいでアホみたいな苦労を余儀なくされるはずで。


 そして、現状である。

 そんな苦難にあふれる世界において、俺が今どうなっているかと言えば、


『わっせわっせ』


 廃村から徒歩2時間。

 そんな立地の枯れ木の森に俺はいるのでした。


 んで、わっせわっせ。

 なんか久しぶりのような気もするかな。

 俺は灰色の土をバクバクムシャムシャ。

 せっせと土壌改良に励んでいたりした。


 そう。

 つまり、そういうことだった。


 無駄に気負った俺は盛大に空回りを連発。

 当然のこととして、あえなく追放。

 今はこうして、一匹寂しく草木を愛でようとしている……というわけではね?


 幸いなことに無いのでした。

 まぁ、以前と同じだ。

 俺の近くにはあの方がいらっしゃるのです。

 肉塊さん。

 灰色さんに黒カニ、それに闇ゴリラの旦那か。

 無数の化け物に囲まれた肉塊さんを、俺は間近にしていたりするのだ。


 肉塊退治。


 それが俺の目的だったりした。

 ちなみにリリーさんもリンドウさんもいません。

 なお、無様を晒した挙げ句に見放されたわけでは特にございません。


 あの子たちはお留守番だった。

 肉塊程度、今の俺であれば一匹で十分……ってわけでももちろん無いけど、あの子たちが出る幕は無いだろうからねぇ。


『……よしよし』


 土壌の改良も終わり、種子も無事に埋め終わったのでした。

 では、ほい。

 栽培促成。

 バフ盛りパンジーが黄色いお花を咲かせることになりましたとさ。


 途端にざわめきだした。


 緑の気配にってことかねぇ?

 肉塊がぎょろりと目を剥けば、大小の異形たちが一斉に行動を開始する。

 

 俺はうめかざるを得なかった。

 う、うおー。

 さすがに怖いな。

 視界一杯にひしめく異常なる化け物の群れ。

 この世の終わりって言うか、一瞬先が予想出来るような光景だよね。


 ただ、俺に焦りは無かった。

 大丈夫。

 この程度、あの人……いや、あの人たちが何とかしてくれるでしょうとも。


 そして、一瞬先。

 俺に迫りつつあった化け物どもは、その多くが一瞬で霧散した。

 

 理由は歴然である。

 後ろ姿も綺麗でカッコいいよねー。

 結い上げられた金糸の髪はキラキラと光輝いて見える。

 その細い背中はしかし凛として俊敏な力強さを予感させる。


 ということで、女騎士さん……ユスティアナさんのご登場なのでした。

 彼女は銀閃をひらめかせつつに、一度背後を振り返った。

 まぁ、俺の方向だよね。

 そして、叫んだ。

 青い瞳を、勇壮に鋭くして叫び上げる。


「敢闘せよっ!! 御使い様に我らが戦ぶりを示すのだっ!!」


 返事は無く、しかし応じる者たちがあった。

 数えて10人。

 武装した人間たちが、颯爽として戦場に突入してきた。


 剣か槍か、はたまた槌か。

 それぞれに得物を手にした彼らは蹂躙じゅうりんを開始した。

 気合の声は無く、だが眼差しには戦意をたぎらせ──圧倒する。

 異形のモノどもを熟練の武器さばきで消滅させていく。


『ほへー』


 俺はまぁ感嘆でした。

 すごいねぇ。

 やっぱ、プロはすごい。

 きっと、それぞれの立ち位置をそれぞれに把握仕切っているんだろうね。

 個人としての動きに無駄が無いのは当然として、全体としても無駄はさっぱり無い。

 人が成しているとは思えないほどの効率の良さで、敵さんを見る間に駆逐し続けている。


 なんか、うん。

 ボケーと見学しつつに思うのでした。

 場違いな感想には違いないのだけどさ。

 なんとも平和だよねぇ。


 決着はすぐに訪れることになった。


 肉塊は早速触手をうじょうじょ。

 熱線をバラマキつつの大暴れを始めたのだけど……あらまぁ。


 俺とリリーさんがあれだけ大騒ぎしたのが嘘のようだった。

 肉塊の攻撃は全てがあっさり空振り。

 で、楽々と肉薄したユスティアナさんが、えーと5撃ぐらい?

 連撃を叩き込んで、それで終わりでした。

 肉塊は黒色にぐちゃり。

 土に染み込むようにご退場となったのでした。

 南無ー。


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