56:女騎士さんとのアレコレ(続)
俺は思わず『う、うーむ』でした。
返答に困ってというわけでは無かった。
いやまぁ、お前は何者かっていう疑問に関しては、正直答えるのは難しいけどね。
ヘタレスライムって言うのがパッと思いつくところなんだけど、スキルが使えたり神格なんてものを得ていたり。
一言で表現出来るような感じはさっぱり無いと言うか。
ともあれ、違うのだ。
俺がうならざるを得なかったのは、彼女の価値観が原因だった。
(ぜ、善意なぁ?)
善意で助けた。
困っているだろうから思わず手を差し伸べた。
そんな返答を彼女はまったく想定していないようだった。
善意で人は動かない。
もしくは動けない。
それがこの世界の現状なのだろうね。
まぁ、分かるような気はするけど。
彼女を含めた人間さんたちには、善意を発揮出来るだけの余裕はさっぱり無さそうだったし。
まぁ、俺みたいなスライム生命体に人情を期待していないだけかもですけどねー。
とにかく、返答か。
しっかり答えさせていただくとしましょうか。
『何者かっていう点は私にも正直ちょっと』
「分からないのですか?」
『え、えーと、説明が難しいと言いますか。ただ、外なる神とかそんなものじゃないと思います。それで、なんで助けたのかって方ですけど……』
俺はユスティアナさんから視線を外す。
そして向けた先には彼らがいた。
人間さんたちがいまして、女の子さんがいる。
リリーさんとリンドウさんもいる。
なんとも楽しげだった。
彼らは俺たちの様子をうかがっていたのだけど、女の子さんはもう興味を失っていたようでして。
リリーさん、リンドウさんときゃっきゃうふふ。
楽しそうに追いかけっこをしていたりした。
んで、人間さんたちもね。
その微笑ましい様子に、皆さん
(……良いよねぇ)
これが答えだよね。
俺はユスティアナさんに視線を戻す。
『……非常に寂しかったものでして』
「寂しい?」
『はい。気がついたら俺はここに1匹でして。途中で2匹には増えたのですが、あんな光景にはほど遠くて……うん』
俺は頷きだった。
自然と頷き的な動作をしていた。
『やっぱり良いですよね。正直、私はけっこう人間が苦手だったりします。でも、ああいうのは素敵だと思うんです。貴方たちには出来る限りで力を貸させてもらうつもりです』
あんな光景を間近に出来るんだったらね?
がんばりたいと思うよなぁ。
がんばって、こんな状況が続くようにしたいよなぁ。
「……
んで、彼女でした。
ユスティアナさんは、どこか真剣な表情をしてそんなことを呟いたのでした。
俺はもちろん『へ?』と不思議の思いで彼女を見つめることになった。
『な、なんでしょう? 御使い様?』
「正直なところ、貴方のおっしゃったことが理解出来たとは言えません。ただ、貴方は……あの名状しがたき者どもとはまったく違う。そう理解出来ました」
ま、まぁ、うん。
俺はそりゃ頷きでした。
名状しがたき者どもって、灰色とか黒カニとか闇ゴリラとかだと思うけどさ。
あんな連中とはさすがに違うと思うよ。
人間失格みたいな前世を送ったけど、アイツらよりはさすがに人情を解しているとは思うし。多分。
ともあれ、御使い様。
俺は今度は首をかしげる的にグニャリである。
『それで、えーと? 御使い様ですか?』
「はい。思えたのです。貴方は我らの真なる神が遣わして下さった存在なのではないかと。よって、御使い様です。天上よりの、慈悲と慈愛の使者様であると私には思えたのです」
彼女の表情はまったく真剣そのものだった。
心の底からの発言って、そう思わざるを得ないよね。
で、俺はと言えば、
『…………えぇ?』
困惑せざるを得ないのでした。
一応のこと、なんかそれっぽくは響いたのだ。
脳裏には、あのキツイ系の推定女神様の顔が浮かんでいたわけで。
真なる神ってもしかしてあの人?
だったら、うん。
経緯を考えると、俺はあの人の使者的な存在って言えないことも無さそうではあるかな。
ただ、じ、慈悲? 慈愛?
過言である。
そんな大層な言葉が似合う存在ではまったく無いのである。
『な、軟体ヘタレザコとかで良いんですよ……?』
名が体を表している良い名前だと思うんですけどねー。
ただ、彼女の表情に浮かんだのは濃い苦笑なのでした。
「なんですかそれは。御使い様。良いと思います。私は是非そう呼ばさせてただきたいです」
俺は『う、うーん』でしかなかった。
やっぱり違和感しかないと言うか、様付けとか俺にはふさわしくないよなぁ。
まぁ、いっかね。
その内にと言うか、俺はすぐにでも馬脚を露わにしまくるだろうし。
「おい、ザコっ!! ヘタレてんじゃねぇ!!」とかね。
そんな扱いにすぐに落ち着くことになるでしょう。
ともあれ、はい。
自己紹介はこれで大体終わったかな。
じゃあ、最後にこれだよね。
『ユスティアナさん。これからよろしくお願いします』
大いに頼らせていただくに違いないし、色々迷惑もかけるに違いないのだ。
この一言はそりゃマストだった。
貴女が大将ですので、これからどうぞお頼みします。
ユスティアナさんは笑顔でした。
おう、任しとけって感じかは定かでは無いけど、笑顔での頷きを見せてくれた。
「はい。こちらこそお願いします。このユスティアナ・セヴァ、非才の身なれど剣の腕には自信があります。戦場においては必ず貴方の信頼に応えてみせましょう」
俺は思わず『おお……っ!』と漏らすことになる。
た、頼もしいなぁ。
これはもう、全面的におんぶに抱っこですがらせていただく
期せずにだけど、次の話題に繋がりそうな感じかな。
これからについて。
これから襲い来るだろう脅威について。
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