55:女騎士さんとのアレコレ

「……すみません。妙なことを尋ねました」


 女騎士さんは深々と頭を下げてきたのでした。

 俺は『は、はぁ』と返すしかなかった。

 まぁ、うん。

 妙なことでしたね。

 ただ、気になるのは理由だよな。

 彼女は何故、俺が神だとか妙なことを尋ねてきたのか?


『え、えーと、どうされたので?』


 尋ねると、彼女は苦笑を表情に浮かべた。


「少し警戒させていただきました」


『へ? 警戒?』


「はい。貴方が外なる神のたぐいではないのかと」


 俺は『へ?』だった。

 えーと、外なる神?


『それは……あの?』


「超常的な力を見せつけ、救いをほのめかしては深淵へといざなう。そのような存在に心当たりがあったもので」


 俺は今度もまた『は、はぁ』でした。

 正直、よう分からんですね。

 深淵に誘うってなんぞ……?

 ただ、うん。

 彼女が何故俺を警戒したのか?

 その点については理解が示せるような。


 救うようなフリをして、なんかヒドイことをする。

 そんな存在がいたってことなのかな?

 で、俺はまぁ異常な存在寄りであり、一応彼らの助けになろうとしている存在でもあり。

 彼女は人々を救う意思を取り戻したようなのだ。

 そりゃあね。

 念のためにも警戒しようって気にはなるだろうけど……ふむ?

 

『じゃあ、うん。違ったんだ』


 独り言みたいなつもりだったけど、し、しまった。

 今は聞こえてしまうんだったか。

 女騎士さんは不思議そうに首をかしげた。


「あの、違ったとは?」


『い、いえ。てっきり貴女は罵倒の件で落ち込んでいるのかと思っていたので。そうじゃなくて、疑っておられたんですねー』


 リンゴに手をつけなかったり、俺と目を合わそうとしなかったり。

 それらはきっとそういうことだった。

 俺を警戒しての態度だったのだろうね、多分ね。


 まぁ、良いことだった。

 気落ちしていたのでは無く、疑っていたって方が断然良い。

 とても頼り甲斐があるし。

 油断なくって感じであり、味方としては本当に頼りになるよなぁ。


 しかし、彼女は一体どうしたのか。

 女騎士さんは不思議な様子を見せた。

 罵倒……? と不思議そうに呟き、そして、


「……あ」


 今、思い出した。

 そんな雰囲気の呟きだったけど、お、おう?

 いきなりだった。

 彼女は目に見えて慌てふためき始めたのでした。


「そ、そうです!! すみませんっ!! その件についてはお詫びせねばなりませんでしたっ!!」


 なんか、うん。

 この人って芯から良い人なんだろうねぇ。

 何度も何度も頭を下げてこられて、全身これ誠意って感じ。

 貧乏くじを引いてもきたんだろうなぁって推測も出来て、なんだか同情もしてしまうような。


 ともあれ、俺も大慌てだ。

 だって、頭を下げられるようなことは何も無いし。

 いっそ、こっちが申し訳なくなるし。


『い、いいです!! いいですから!! あんなの貴女の立場であれば当然でしょうし!!』


「そ、そういうわけにはとても……っ!」


『本当にいいです!! そんなことをされても私が困りますから!!』


 ありがたくも俺の思いを彼女を受け止めてくれたらしい。

 女騎士さんは申し訳無さそうにはしつつも、頭を下げるのを止めてくれた。


「そ、そうでしょうか? そうしていただけると私も助かりますが……ふふ」


 俺は首をかしげる的な気分だった。

 彼女が不意に漏らした笑い声の意味は何なのか? 

 俺の心中を察してくれたらしい。

 女騎士さんは苦笑で口を開く。


「いえ、変わってしまったものだと思いまして」


『変わってしまった?』


「はい。私も以前はここまででは無かったのですが……無様ぶざまに変わってしまいました。平気で罵倒を飛ばせてしまい、醜悪なほどに疑い深くもある」


 彼女はどこか遠い目をしていた。


 きっとあったんだろうね。

 彼女が穏やかで純真でいられたような日々がね。

 

『……大変だったんですね』


 月並みに過ぎる俺の言葉に、彼女は薄く目を閉じた。

 そして、こくりと切なげに頷きを見せた。


 ということで、はい。

 今後のための交流の時間がやってくるのでした。


「私はユスティアナ。ユスティアナ・セヴァと申します」


 まずは自己紹介ということで、彼女はそう名乗ってくれた。

 ユスティアナさんね。

 これからはそう呼ばさせていただくとして、彼女は自身の出自に関しても色々と説明してくれました。

 聞き覚えの無い国において、貴族の娘さんであったとか。

 んで、やたらと剣術に優れていたため、騎士団的なところに所属されていたとか。


 まぁ、うん。

 色々とそのまんまって感じかな。


 女騎士ってところは俺の印象そのまんま。

 貴族のお嬢様だってことにも違和感はまったく無い。

 口調だったり立ち振舞いには気品がたっぷりであるし。


 ただ、その彼女が今ではこうも薄汚れてこんな場所にいる。

 経緯が気になるところだけど、まずは俺か。

 こちらも名乗るのが当然の礼儀ってもんだろうけど……あっ。


『…………』


「あ、あの?」


 黙り込む俺に彼女は困惑の眼差しを向けてきてるけど……すみません。

 よく考えたら、俺の名前ね?

 いや、あるのだ。

 半ば忘れかけてはいたが、俺には前世の名前がしっかりある。

 ただ、良い思い出はさっぱりであり……い、嫌だなぁ。

 異世界でまで前世の名前に縛られたくは無いよなぁ。

 ということで、


『て、適当に呼んでいただければ』


「はい?」


『名前とかありませんので。その、お好きなように』


 そういうことにさせていただいたのでした。

 申し訳なくも、丸投げということで。

 彼女は変わらず困惑だった。

 困惑のままで、1つ頷きを見せてくれた。


「わ、分かりました。それでは、あの……か、考えておきます」


『す、すみません。お前とかそれでも一向に構いませんので』


「そ、そんなわけにはいきませんが……いくつか尋ねさせていただいても?」


 俺はちょっと首をかしげる的な感じだった。

 なんでしょうね?

 前世に関する言及だったら、うん。

 うろにて貝のようにならざるを得ないけど、まさかそんなはずが無いだろうし。


『えーと、はい。なんでもお聞きいただければ』


「では、端的に失礼します。貴方は何者ですか? そして、何故です? 何故、貴方は私たちに手を差し伸べて下さったので?」


 前回とは違った。

 今の彼女には警戒の空気は無い。

 ただただ分からないといった様子で首をかしげており、


「特に気になるのは後者です。貴方に私たちを助ける理由があったとはまったく思えません。無駄な苦労をされたのではとしか思えないのです」


 そんな注釈ちゅうしゃくも追加して下さったのでした。

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