54:意思疎通
ぶっちゃけ、うん。
孤独を癒やすため、俺は人間さんとの出会いを望んではいた。
ただ、人間らしいと言うべきか。
人間と意思を
人間と野良猫。
野良猫のところは、
そのぐらいの交流で十分だったのだ。
正直なところ、女の子さんとの一方通行の交流すらねぇ?
若干俺には過剰と言うか。
ストレスを感じる領域に片足突っ込みかけていると言うか。
ただ、現状維持ってわけにはいかないのだ。
ちゃんと交流出来る必要はあるよなぁ。
スキル意思疎通を取る必要は今にこそある。
女騎士さんは、俺に取った態度について気に病んでいる風であるけどさ。
女の子さん経由では無く、俺が
直に気にしてないって伝えた方が効果は高いだろうし。
本心から気にしていないのだって、ちゃんと伝わると思うし。
それにこれからのこともある。
彼女は炎ゴリラを指してクトゥグアと呼称していた。
俺の知らない現実、あるいは脅威について彼女はご存知であるに違いないのだ。
これからのためにもね。
しっかりとした情報共有を図ることは、間違いなく必要なはずだった。
(……ぬ、ぬぉぉ)
だが、俺は思わずぐにゃりである。
嫌なんだよなぁ。
前世のことを思うと本当にそう。
本当、嫌な思い出しかないし。
人間さんとの人間らしい交流には
でも、嫌だからって意思疎通を取らないのは……なんか無責任だよな。
仕方ない。
これは本当に仕方なかった。
よって、
───────《ステータス》───────
【種族】グリーンスライム
【神格】地母神[第12級]
レベル:141
神性:1003
体力:116/146
魔力:113/145
膂力:56
敏捷:52
魔攻:57
魔防:53
【スキル】[スキルポイント:0]
・光合成Lv35
・種子生成Lv25
・土壌改良Lv15
・木獣使役Lv2
・形状変化Lv5
・硬化Lv10
・促成栽培Lv4
・神格解放Lv1
・聖性付与Lv1
・意思疎通Lv1
──────────────────────
取ってしまいましたー。
ひー。
効果はすぐに現れやがったのでした。
声……聞こえちゃうね。
人間さんの言葉が意味のあるものとして聞こえてしまっているね。
彼らは女騎士さんを心配しているようだった。
今までロクに食べていないのだから、貴女こそ食べなければならない。
そんな声をかけているけど、女騎士さんは変わらず苦笑だった。
果実に手を伸ばす様子はさっぱり無い。
さて。
おそらくではあるが、俺も女騎士さんに対する説得に加わることが出来るのだ。
出来るようになっちゃったわけだ。
ためらいは大いにある。
ただ、もはや今さらだよなぁ。
(よ、よし!)
俺は気合を入れる。
では、説得陣営として参戦するとしましょうか。
俺はなんとかかんとか。
ブルブル微振動しながらにだけど、なんとか意思を作る。
『……あ、あのー?』
おそるおそるの参戦希望だったけど、返ってきた反応はわりと劇的だった。
声も無く意思が響いてきたのだろうし、そりゃそうなるだろうね。
誰もがピタリと動きを止めた。
今のは一体なんだ?
そんな感じで、誰もが目を丸くして視線を左右にする。
発生源に最初に気づいたのは女騎士さんだった。
俺を見つめてくる。
眉をひそめた表情をして唇を開く。
「今のは……貴方が?」
あらためて思うのだけど、凛々しくも澄んだ綺麗なお声だよねぇ。
ともあれ、はい。
俺は動き出す。
枯れ木の森へ。
そして、洞の暗がりにすかさずイン。
『ふぅ……』
女騎士さんを含め、人間さんたちは「はい?」って感じだけど……すみません。
限界なんです。
MPがですね。
マジックの方じゃなくて、メンタルポイントの方が空っぽなんです。
よってちょいと休憩……ってわけにもいかないか。
向こうさんがそれを許してくれそうに無かった。
代表してということなのかどうか。
周りを軽く制した上で、女騎士さんが俺にへと近づいてきた。
「……あの?」
眉根を八の字にしての、困惑感たっぷりの呼びかけでした。
ただ、うん。
あと10日ぐらい待って下さい。
俺の正直なところはそれだった。
でも、ダメだよなぁ。
女騎士さんたちを困惑させてしまった責任はちゃんと取らないとだよな。
『……はい。聞こえております』
なんか頭が真っ白だけど、とにかくとして言葉を返す。
すると、彼女は分かりやすく目を見張った。
「……驚きました。意思を交わすことが可能だったのですね」
俺はちょいと考えることになった。
正確には、可能だったのでは無く、可能になっただよね。
ただ、その辺りに
スキル
『ま、まぁ、はい。そんな感じで』
とりあえず、こう返答させてもらいました。
大事なのは、気にしないようにと伝えさせてもらうことだからねぇ。
俺たちを罵倒した件について、彼女がこれ以上引きずらずにすむようにしなければ。
その上で、情報の共有を図っていく必要があるだろうけど……へ?
俺はちょっとビクってなりました。
一瞬であるが、彼女はスッと目を細めたのだ。
その時の彼女に瞳にあったのは……警戒?
これまた一瞬だが、彼女は自らの腰の辺りに目を落としたようだった。
そこにあるのは長剣だ。
折れた長剣の代わりにと、彼女は他の人が持っていたものを腰に差しているのだが……
(ど、どゆこと?)
俺は意思疎通にまつわるストレスを忘れることになった。
代わって
な、なんだろうね?
修羅場とまではいかないけど、うん。
なんともシリアスムードだよね、これね。
彼女は真剣そのものだった。
真剣そのものの眼差しをして口を開く。
「……貴方は神でしょうか?」
『へ?』
「自らを神と称されますか? 私たちを救って下さるのでしょうか?」
言葉
俺を超常の存在であると望み、その力にすがろうとしているように思えた。
ただ、ち、違うよね?
彼女には懇願の雰囲気は欠片も無い。
剥き身の刀身のような鋭さが、彼女の眼差しには確かにあった。
俺の返答次第じゃ、うん。
なんかヤバそうじゃね?
なんかヤバいことが起きそうじゃね?
(な、何故に……?)
俺は混乱するしかなかった。
無事炎ゴリラを撃退したのに、なんでこんな空気になっているんですかね?
ともあれ、返答か。
返答しないとダメだよな。
でないと前に進めない気配があるし。
だ、大丈夫だよね?
返答次第じゃバッサリ成仏とかそんな展開無いよね?
『ち、違いますよ?』
とにかくと返答する。
女騎士さんは再び鋭く目を細める。
「……貴方は神ではないと?」
『そ、それはもちろん。神なんてそんな大層な存在じゃないですし、救うとかも全然ですし』
「そうなのですか?」
『そ、そうですとも。逆にと言いますか、貴女に助けてもらわないとどうにもならないぐらいですし』
なんか情けない物言いになったけど、これで正解だったのかな?
数秒の沈黙をはさみ、彼女は表情を変える。
ホッとしたような笑みを頬に浮かべた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます