53:そしての難題
さてはてさて。
色々あって、見事炎ゴリラを撃破。
とりあえずのところ俺たちは安全を確保することが出来たのでした。
しかも……いや、こっちが本命かな?
人間さんたちは生きる気力を取り戻してくれたようなのだ。
よって、この状況で何が必要なのか?
それはもちろん1つしかなかった。
『がんばれー』
俺の応援の先はリンドウさんでした。
ここは墓場からちょいと離れた場所であった。
枯れ木の森のほど近くなんだけど、元々は畑だったりしたのかな?
それなりに開けた場所がありまして、そこの平らな地面をリンドウさんはバクバクムシャムシャ。
まぁ、土壌の吸収改良である。
なんのためかと言えば、それはもちろんアレだ。
勝利を祝しての記念のパンジーを……なんて、そんなわけが無かった。
『よろしくー』
俺は種をスポン。
射出するようにしてリリーさんに渡します。
んで、もちろんのこと埋めていただいて、あとは促成栽培っと。
この場には人間さんたちも集まっていた。
おぉーっ! なんて歓声が湧いたけど、うんうん。
良いね。
この光景に歓声が上がるっていうのが、なんかいい感じだね。
促成栽培の結果、生まれたのは木でした。
いつものセコイアでは無い。
果樹だ。
まぁ、リンゴの木ですね。
4メートルほどに成長した木の枝には、真っ赤なリンゴが鈴なりに実っている。
俺たちと違い、人間さんには食事が必要なのだ。
そして、彼らはお腹を空かしていたみたいだったからね。
こうして食料を生産することになっているのでした。
何故リンゴかと言えば単純に俺の好み……ということもあるけど、それだけじゃ無かった。
念頭にあったのはコスパである。
コストパフォーマンス。
促成栽培はそれなりに高コストなのだ。
一回の促成栽培でどれだけ彼らのお腹をふくらませることが出来るのか?
必然、それを考えざるを得ず、結果はコレ。
リンゴさんとなったのでした。
麦とかジャガイモとかも考えたのだ。
ただ、俺の促成栽培は種1つに1回の行使を必要とする。
麦の一株、あるいはジャガイモのひと苗だとちょっとね?
その点、果樹であれば。
俺の出身地ではリンゴの生産がそこそこ盛んだった。
一本の果樹でかなりの収穫が見込めることを、俺は知っていたわけでして。
しかしまぁ、不安な点もあった。
この世界ってリンゴって存在するの?
人間さんたちの口にはちゃんと合ってくれます?
どうにも
真っ先に手を伸ばしたのは女の子さんだ。
それはもう満面の笑みで手を伸ばす。
そして、手近な実りをつかむとクルリとひねって枝から離した。
ふーむ?
手慣れてるっているか、こりゃあるのかな?
リンゴないし、リンゴによく似た植物がこの世界にはありそうだね。
他の人間さんたちもまた動きを見せる。
彼らはまず俺を見つめてきた。
生産者の了解をって感じかな?
当然、俺は頷き的な動作を返す。
律儀な彼らは、これでようやく果実を手にし始めた。
「……っ!?」
んで、最初にかぶりついたのも女の子さんだったんだけどね。
上がったのは明らかに驚きの声だった。
似たような声は他の人間さんたちからも次々に上がった。
うっわ、マズ……っ!? って声じゃないはずだ。
女の子さんにいたってはとろけそうな笑顔を浮かべてくれている。
───────《リンゴ(果樹)》──────
・生育速度向上Lv25
・栄養価向上Lv25
・糖度向上Lv25
・収穫量増加Lv25
──────────────────────
みたいな特性が付与されているのでした。
少なくとも甘いよね。
んで、甘いは美味い……のはずなのである。
まぁ、その辺りは好みにもよるだろうけど、およそ満足していただけているようでした。
見事に笑顔の輪が広がっていた。
人間さんたちは皆笑顔であり、その瞳には未来への希望で輝いているような気も。
いやぁ、良かった良かった。
リリーさんにリンドウさんもね?
女の子さんによってリンゴの欠片を口に突っ込まれていて楽し……そう?
彼らは食物で生きるタイプじゃないし、多分味覚無いし。
リンゴをくわえさせられて、すっげぇ真顔なのでした。
ともあれ、うん。
良い光景だよな。
ここから先は良いことしかないって、そんな楽観をしたくなるような。
もう、良いよね?
楽観しまくっていいよね?
彼らの輪に加わって、あははうふふって無心でこの状況を楽しんでも……ダメだろうなぁ、そりゃあなぁ。
残念ながらと言うかなんと言うか。
何も問題が無いなんて状況と俺は縁が無いようでして。
目下のところは2つだ。
重要なものが1つ。
そして、
俺は問題を抱えているんだよねぇ。
「……?」
不意に、女の子さんは小さく首をかしげた。
彼女の視線が向かう先は──あの方である。
対炎ゴリラ戦のMVP。
素晴らしき剣さばきを見せて下さった女騎士さんであった。
その彼女は1人様子が違った。
リンゴに手を伸ばそうとは全くしていない。
だからこその、女の子さんの視線だろうね。
食べないの? って感じだろうけど、女騎士さんは力なく苦笑だった。
小さく首を左右にして、食事に加わろうとはしない。
笑顔の輪に入ろうとはしない。
(う、うーむ)
俺は思わず彼女を見つめるのでした。
すると、彼女もまた俺に気づいたようだった。
視線を返してくれるようなことは無い。
気まずそうに目を伏せ、俺の視線から逃れるように顔をそらす。
(……ぬーん)
これが、うん。
目下の問題だった。
2つの内の重要な方。
女騎士さんだけど、なんとも元気が無いんだよねぇ。
理由は多分アレだろう。
俺たちを罵倒した一件だ。
よほどアレを申し訳無く思っているらしく、彼女はひどく気落ちしていた。
食欲も湧かない様子で、かなり重症って感じである。
正直、共感は出来た。
俺もとことん失敗を引きずる方だったしね。
ただ、それじゃちょっと……いや、だいぶ?
困らざるを得なかった。
闇ゴリラと炎ゴリラは無事に撃退出来ました。
ただ、以前の経験通りであれば、多分肉塊がいるし。
その退治が必要であり、そして炎ゴリラよろしくと言うべきか。
奇々怪々な脅威がまた襲い来るかもだし。
この方には元気であってもらわないと困るのだ。
一応ねー?
俺は女の子さんには意思を伝えることが出来るのだ。
彼女経由で気にしないようにと伝えさせてはもらっていた
でも、現状はこれ。
となると、どうだかねぇ?
俺に出来ることは何かあるのか?
『……うーん』
そう、無い。
しょせんはヘタレザコスライム。
出来ることは精々リンゴをプレゼントするぐらい。
いや、うん。
これはこれでヤバいことをしている感はあるけど、ねぇ?
そうなのだ。
俺に出来ることはこれが精一杯……でも無かったりするんだよなぁ。
───────《ステータス》───────
【種族】グリーンスライム
【神格】地母神[第12級]
レベル:141
神性:1003
体力:116/146
魔力:113/145
膂力:56
敏捷:52
魔攻:57
魔防:53
【スキル】[スキルポイント:50]
・光合成Lv35
・種子生成Lv25
・土壌改良Lv15
・木獣使役Lv2
・形状変化Lv5
・硬化Lv10
・促成栽培Lv4
・神格解放Lv1
・聖性付与Lv1
──────────────────────
そう。
けっこうレベルが上がっているのである。
そして、スキルポイントが50。
50なのだ。
これが何を意味するのか?
いや、してしまうのか?
(……取れちゃうね)
スキル意思疎通。
必要ポイントは50ポイントなり。
ほんと、取れちゃうんだよなぁ。
これが、うん。
2つ目だったりした。
俺の抱える問題のくだらない方であるのだった。
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