51:vs炎ゴリラ(女騎士さん参戦ver)

(そう言えば……)


 俺は思い出していた。

 そう言えばだけど、女騎士さんの剣って枯れ木の森にあったんだよね。

 あの時──女騎士さんがその刃を自らに向けた時に、リリーさんがシュバン! って放り投げてくれたわけで。


 逃亡を選んだのではまったく無かったようだ。

 今、女騎士さんの姿は戦場にあった。

 人間さんたちの守護者として炎ゴリラと対峙してくれていた。


『お、おぉ……っ!!』


 俺はもうね?

 感動でしたよ。

 何故参戦を決意してくれたのかって、そこはちょっと分からないけどさ。

 ただ、本当にありがたい。

 希望が見えてきたかな?

 神格解放の残り時間は、わずかに2分とちょっと。

 この間に協力して戦うことが出来れば……いや?

 いるかな?

 俺たち必要かな?


 だって、ね?

 炎ゴリラ膝突いちゃってますよ?

 不意打ちではあっただろう。

 だが、女騎士さんはアレに対し十分の一撃を見舞うことが出来たのだ。


 やっぱり、うん。

 あの人、めちゃくちゃ強いのでは?


 俺が期待して見つめる中で、彼女は動き出す。

 おそろしく速かった。

 踏み込みは見えず、放たれた斬撃は虚空に銀影を残すほどだ。

 

 そして、その威力は見た目通りに凄まじいらしい。


 反撃など思いもよらない様子だった。

 紅蓮を切り裂かれ、炎ゴリラが選んだのは退避だ。

 膝を突いた状態から、俊敏に後方に飛び退る。

 あるいは俺たちを相手にしていた時と同じだろうかね?

 適当にいなしつつ、相手の疲労を待ちつつに反撃の機会をうかがう。

 そんな計算がアイツにはあるのかもしれなかった。

 だが……うおー。


 後退を予期していたのだろうか。

 彼女はすでに跳んでいた。

 一瞬で炎ゴリラに肉薄する。

 そして、一刀。

 また一刀。

 銀閃を炎ゴリラに浴びせ続ける。


「……きゅー」


 いつの間にか俺の隣にはリリーさんがいた。

 んで、目をまん丸にして女騎士さんの戦いぶりを眺めているのだけど……だねぇ。


(すっご)


 俺もまた目を丸くするような心地だった。

 素直に見惚れていた。

 すごいな。

 これがプロの戦闘か。


 俺たちとは格が違うよね。

 武人としての力量りきりょうが違う。


 多分だけど、能力値としてはリリーさんの方が上なんじゃないかな?

 女の子さんを参考にする限りだと、人間さんはあまり能力値に恵まれないみたいだし。


 ただ、女騎士さんの方がリリーさんよりも明らかに速く見えるのだった。

 鋭く、力強くも見える。

 きっと無駄が無いのだ。

 体の使い方に無駄が無く、その足さばき、そこから放たれる剣閃はたまらなく美しかった。


 逃げるばかりではどうしようもない。

 炎ゴリラはそう思ったのかも知れなかった。

 反撃に出る。

 炎剣を横殴りに振るうのだが──すごいな。

 彼女は逆襲を見透かしていたらしい。

 余裕をもって炎剣をくぐり、カウンター気味の一閃を炎ゴリラに叩き込む。


 ……オォォ……ッ!!


 それはきっと悲鳴だ。

 炎ゴリラは明らかによろめいた。

 女騎士さんはそれに決して満足などしない。

 すかさずの強烈な一撃を、目にも止まらない速さで次々に放っていく。

 

「きゅーっ!!」


 リリーさんが片手を振り上げて歓声を上げていた。

 かっこいい! やっちゃえー! って、そんな感じかな?


 俺もまたそんな気分だった

 もう観客気分で無邪気に応援していたい気分。

 だって、勝てそうだし。

 女騎士さんがこのまま炎ゴリラを斬り伏せてくれるって、そんな予感しか無いし。

 つーか、俺たちが変に介入したら邪魔だろうしねー。

 気楽に観客やっているのが一番のような気もするよね。


 ただ、うん。


 好事魔多しなんて言うけどさ。

 油断はしないでおく。

 こういう時に限って何か起こりやがるのが人生ってものだろうし。


 俺は待つ。

 リリーさんに攻撃の準備を促しておいた上で、その時に身構える。

 そして、悪い意味で案の定と言うべきかね?


「……ッ!!」


 女騎士さんの口から痛烈な舌打ちのようなものが漏れた。

 原因は明らかだ。

 砕けていた。

 パンジーのバフは武器にまでは効果は無いらしい。

 斬撃の結果として、彼女の細身の長剣は半ばから砕け散ってしまっていた。


 一転しての窮地であり、アレにとっては好機か。


 炎ゴリラは絶好機に慌てるようなことはまったく無かった。

 すかさず炎剣を振り上げる。

 そして、瞬時にして彼女へと叩きつけ……なんてさせませんけどね、うん。


 はい、ドーン。


 俺はすかさずのセコイアランスだった。

 絶好機に多少の油断はあったのだろうか。

 見事に命中。

 轟音と共に、炎ゴリラは本日2度目の空中遊泳へと旅立ってくれた。


 とは言え、やはりダメージはさほどでは無いらしい。


 炎ゴリラは平然として空中で姿勢を整えようとする。

 きっと、アイツに焦りなんて無いだろう。

 女騎士さんは武器を失い、俺やリリーさんの攻撃については回避は容易。

 優位は自分にあり、勝利も間違いなしと冷静に判断していらっしゃるのだろう。


 まぁ、もちろんである。

 アイツを無事に地上に下ろすつもりなんて、あの子には無いだろうけどねー。


「きゅーっ!!」


 ということで、リリーさんでございます。

 あの子はすでに全力で疾走していた。

 空中の炎ゴリラめがけて、パンジーの花畑を一直線。

 そして、跳躍。

 なんかもう弾丸? ミサイル?

 重力を感じさせない勢いで炎ゴリラに迫り行く。


 空中にあっては、さすがの炎ゴリラにも避けようは無い。

 初めてである。

 アイツは焦る様子を見せた。

 慌てた様子で防御にと炎剣を構える。

 ただ………遅いよねぇ。


 ゴシャアッ!!!


 全力ラリアットの結果は、色々なものが潰れ砕け散ったような破砕音でした。

 炎ゴリラは飛んだ。

 一撃の勢いそのままに猛然と宙を飛ぶ。

 そして、自重からかわずかに放物線を描くようになり──墜落。

 そこは枯れ木の森であった。

 土砂がしぶきを上げて巻き上がる。

 いくつもの枯れ木が割れ砕けて宙を舞う。

 

 リリーさんの一撃の威力がうかがい知れる光景である。

 ただ、それでもアレは消えていなかった。

 爆心地のようなそこにいて、確かに両の足で立っていた。

 しかし、無事とはほど遠いようだ。

 火勢は明らかに衰えている。

 炎ゴリラを包んでいた紅蓮は明らかにその勢いを失いつつある。


 もともとあった毛皮のようなものが、隠しきれず垣間かいま見えるようにもなっていた。

 限りなく、致命傷に近いダメージを与えることが出来た。

 そう理解しても良いんじゃないかな?

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