50:彼女たちの葛藤
女騎士さん、激怒。
その対象はといえば俺たちなのだけど……ま、まぁそうか。
正直、気持ちは分かった。
半端に希望など見せるな。
さっさと負けろ。
安心して絶望させろって、そんな感じでしょうかね?
よって、まったく無さそうだった。
彼女が参戦してくれる未来は本当に無さそう。
ど、どうしましょう?
残り時間は……3分ちょっと?
そろそろ絶望が見えてきたような。
俺に次は無い。
神格解放が切り札であり、二の矢は無い。
これで時間が切れちゃったら?
まぁ、その先は火を見るよりも明らかと言うか、間違いなく熱い思いをするわけであり、
(ど、どうかお願い……っ!!)
俺は祈った。
女騎士さんに祈りを捧げる。
どうか、心変わりしてはいただけないでしょうか……?
もちろん祈って何かが変わることは無い。
彼女は相変わらず怒声を上げるばかりで……え?
不意に怒声が止んだ。
口をつぐんだ女騎士さんは明らかに動揺していた。
眉根にシワを寄せた表情で、露骨にうろたえている。
多分、あの子の視線に気づいたからだよな。
女の子さん。
リンドウさんを抱きしめている彼女は、女騎士さんをじっと見つめていた。
そこにある表情はと言えば、うん。
失望の表情だった。
非難の色も確かにあった。
参戦してくれないからって、そういうわけでは無いだろうね。
大人たちが引き止めた時には、彼女はこんな表情をしては無かったのだ。
戦わずに生を諦めた大人たちに対しては、こんな表情を見せてはいなかった。
戦っている者たちへ
多分、ここじゃないかな?
それはきっと違ったのだろう。
女の子さんにとっての女騎士さんはそんなことをする人物では無かったのだろう。
他の人間さんたちも、女の子さんたちと同じような表情をしていた。
失望であり、非難の顔つき。
中には、制止らしき言葉を投げかける者もいた。
それを受けての女騎士さんだが……まぁ、そうなるよな。
彼女の顔に浮かんだのは怒りの表情だった。
彼女は再び怒鳴り始めた。
自らの胸を叩きながらに、居並ぶ人々を指差し怒声を張り上げる。
これまた分かるような気はした。
お前たちに非難される筋合いは無いってね?
彼女はきっと人一倍どころでは無く苦労してきたのだ。
力を持つ者として、彼らのために身を削り続けてきたのだ。
言ってしまえば、非力な人々のせいで心身を摩耗し続けてきたのだ。
その非力な人々から非難なんかされちゃったらねぇ?
彼女もそりゃ
私をここまで追い詰めたのはお前たちだろうってさ。
もちろん、やや理不尽な物言いには違いない。
女の子さんたちだって、好きで弱者であったわけでは無いだろうし。
だが、彼らには刺さったらしい。
誰もがうつむく。
女騎士さんに対して、返す言葉は何も無いって様子だ。
女の子さんも同じだった。
うつむき、腕の中のリンドウさんと視線を交わす。
そして……ん?
なんでしょうかね?
彼女は頷いた。
ひとつ力強く頷いた。
女の子さんはリンドウさんを優しく地に下ろした。
そうして歩き出す。
棍棒を握りしめ、力強い足取りで絶望渦巻く戦場へと……って、ちょっと?
『い、いやいやいや待った!!』
俺は炎ゴリラへ注意を払ってはいられなくなった。
注目先は当然女の子さんだ。
もしかして、参戦しようとしてます?
棍棒片手に、炎ゴリラとバトってやろうとしてます?
いやいや、無理でしょさすがに。
俺とまったく同じことを思ったに違いなかった。
女騎士さんは「え?」とでも言いたげな唖然の表情を見せた。
次いで、叫び出す。
女の子さんに向けて、おそらくは制止を呼びかける。
女の子さんは一度立ち止まった。
そして、笑みだ。
わずかに笑みを見せつつに、女騎士さんに拳をぎゅっと握って見せたのでした。
多分、うん。
安心しろってことかな?
これからは貴女だけに負担はかけない。
自分も戦うからってことかな?
それは彼女だけの意思では無いらしい。
人間さんたちが動き出した。
くたびれた槍や剣を手に、眼差し鋭く黄色の花畑を目指し始めた。
もちろん、ね?
俺がこの光景に何を思ったかと思えば、
(ひ、ひぃぃぃっ!?)
そりゃうん。
止めてーっ!! って感じですよ。
気持ちは分かるし、その
でも、む、無理でしょ。
パンジーのバフがあったとしても、彼らには無理だ。
炎ゴリラによって、虫けらのように焼き殺されて終わりだ。
『り、リンドウさんっ!! お願い、止めてっ!!』
呼びかけて、俺も意識する。
狙うは、バリケードの構築だ。
バラを茂らせて、彼らがこちらに来れないようにしたいわけだけど、
『ぬ、ぬおっと!?』
俺は慌てて平たくなる。
アホみたいな熱量と共に、頭上を炎剣が通り過ぎたわけで、せ、セーフ!
よそ見している内に炎ゴリラの接近を許してしまったようだった。
幸いにして、リリーさんがすかさず追っ払ってくれたのだが……あ、あかん。
ちょっと人間さんたちを意識していられない。
油断したら死ぬ。
ただ、何もせずにいたら人間さんたちは……?
(だ、誰かぁ……)
ちらりと視界に映ったリンドウさんは、うん。
ちょっと無理そう。
がんばって人間さんたちを止めようとしてくれているのだけど、軽く
だから、女騎士さんだ。
炎ゴリラをセコイアランスで追っ払いつつに、俺は彼女を見つめる。
もう参戦してくれなんて贅沢なことは言いません。
でも、どうか。
お願いします。
どうか人間さんたちを止めて下さい。
彼女は葛藤している様子だった。
何かを叫びかけ、それを飲み込み、焦燥感たっぷりに頭をかきむしる。
俺は納得だった。
ま、まぁ、それはそうだよね。
女の子さんたちを止めたい。
だが、止めたところで、結局は全滅の未来しかない。
だが、自分は戦いたくは無い。
もはやそんな気力は無い。
そりゃあね。
葛藤もするでしょうって話で。
ただ、俺としてはせめて人間さんたちを止めてもらいたいのだけど……ど、どうでしょう?
一瞬である。
確かに目が合ったような感覚があった。
不意に彼女は目つきを鋭くした。
かつて見た目つきだ。
それは彼女が闇ゴリラと対峙していた時のものか。
眩しいほどの意思の光が、再び彼女の双眸に宿ったように思えた。
すかさず彼女は駆け出した。
向かう先は周囲に広がる枯れ木の森だ。
彼女の姿は、おそろしい速さで枯れ木の合間に消えていった。
(……なるほど?)
俺は頷きだった。
頷き的な動作を思わずしてしまう。
なるほど、こうなったか。
まぁ、仕方ないかね。
多分、限界だったろうし。
葛藤の末に、この場からの逃亡を選んだところでね?
俺には責められないかなぁ。
まぁ、困るけど。
正直、俺的には超困るけど。
いよいよ人間さんたちは近づいてきていた。
女の子さんを先頭として、戦場に足を踏み入れてしまっていた。
炎ゴリラもそれに気づいたらしい。
んで、彼らを優先するつもりになってしまったらしい。
リリーさんの飛び蹴りを軽くいなした上で……あ、マズイ。
俺は咄嗟にバラのツタを巡らせる。
セコイアの槍とも
だが、止められない。
炎ゴリラは軽く跳躍し、女の子さんたちの前へ。
あっ、と女の子さんが目を見開く。
炎ゴリラは炎剣を振りかざす。
次の瞬間に何が起きるのか?
立ちすくむ人間さんたちへ、その炎剣は轟然として──
『へ?』
俺は唖然と呟くことになった。
何故と言って、炎ゴリラがドスリと膝を突いたのだ。
その原因は明らかだった。
いつの間にか、1人の女性が炎ゴリラと対峙していた。
間違いない。
女騎士さんだ。
長剣を振り下ろした格好でそこにいる。
戦意を
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