45:ぱんじーぱわー

 まぁ、一見すると普通のお花さんだよね。

  

 戦場予定地に華を添えたのはいつものパンジーだ。

 リリーさんのお好きな黄色いお花。

 ただ、その中身……特性は神性由来の特別性なのであって。


「……きゅ?」


 リリーさんは不思議そうにそう呟いた。

 んで、にぎにぎ。

 お手々を開いたり閉じたりして何かを確かめているご様子。


 リンドウさんもそうだ。

 この子はお手々は無いけど、びったんびったん。

 その場でしきりに跳ねていて……う、うん。

 何かを確かめていらっしゃるんだろうね。

 なにかこう、体の活きの良さとか。鮮度?

 

 んで、女の子さんである。

 目をまん丸にして俺を見下ろしてきた。

 こいつ、何かやりおったな?

 そんな雰囲気だけど、ふふふふ。

 そうです。

 この異変は俺が……いや、女神様か。

 女神様のおかげです。

 この戦いが終わって、人間さんたちが立ち直ってくれたらね?

 やはり神社? あるいは神殿?

 建立こんりゅうまった無しだ。

 サンキュー、女神様。

 心からサンキューでございます。


『花からは離れないようにね!』


 んで、忠告もさせてもらう。

 この異変は女神様のおかげであり、このパンジーのおかげであるのだ。

 離れたら多分、エライことになってしまうからね。

 本当、気をつけて欲しいし、気をつけたいところである。


 ともあれ、状況は動き出す。


 女の子さんがいることもあってか、俺たちは早々に敵認定を食らったらしい。


 灰色どもが津波のようにしてうごめき出す。

 静かであった黒カニどもが、やたらと活発に虚空に渦を描き出す。


 ただ、先鞭せんべんをつけるのは彼らでは無いらしい。

 

 前の戦いのことがあって、俺たちを要注意人物とでも思っているのかどうか。

 早速、最強戦力のご登場だ。

 闇ゴリラどもが前傾姿勢を取る。

 そして……爆発だ。

 以前に目の当たりにした通りの光景であり、迫力は単純にその3倍か。

 3体によっての地鳴りをともなった突撃が開始される。


「ぎ、ぎぃっ!?」


 初見のリンドウさんは悲鳴を上げていた。

 だ、だよね。

 怖いよね。

 ビビるよね。

 直撃したら、ひき肉では無くともオガクズだろうからね。

 防御態勢なのかな?

 可愛らしく丸くなっているけど、そりゃそうもなっちゃうよね。


 ただ、大丈夫なのだ。


『り、リリーさんっ!!』


 この方がなんとかしてくれるはずなのである。多分。

 超カッコよかった。

 リリーさんは強者の風格でスッと前に進み出た。

 3体の闇ゴリラの突撃に立ちふさがってくれる。

 そして、


「……っ!?」


 女の子さんの声にならない驚きの声が響いた。

 俺もまた驚きを禁じ得ない。 

 す、すごいな。

 期待した結果ではあるのだ。

 ただ、ここまでのことになるとは。


 ズシャ!! ゴシャ!! バグン!!


 そんな音が響いたような。

 生みの親はもちろんリリーさんだ。

 閃光のように躍動し、蹴って、殴って、頭突きをかましたって感じか?

 闇ゴリラのそれぞれに強烈な一撃をかましてくれたのだった。


 そして……残念ながら、あの連中は霧状になってのお帰りには至っていなかった。

 ただ、もはや死に体かな?

 数十メートルも吹っ飛んで、健在な闇ゴリラは一体もいない。

 2体はほとんど動きを見せず、一体は立ち上がろうとしてもがくのみだ。


「……ふきゅー」


 私、満足。

 そんな感じで息をつくリリーさんなのでした。

 うーむ、お強い。

 さすがだよね。

 ただでさえ、ステータスは俺の3倍をゆく高水準。

 それが今では、


 ───────《ステータス》───────

【種族】ツリードラゴン[聖獣]


レベル:121 

神性:0[+100]

体力:180/175[+5]

魔力:111/158[+3]

膂力(x2):292 + 200[+16]

敏捷(x2):282[+12]

魔攻:149[+3]

魔防:161[+5]


【スキル】[スキルポイント:98]

・光合成Lv30

・耐火Lv32

・魔力変換(膂力)Lv30

──────────────────────


 どうやら魔力変換を使用していたのかな?

 敏捷は300に迫り、膂力に至っては実質500超え。普段の3倍以上か。

 そりゃね。

 闇ゴリラを一撃って、そんな結果にもなるでしょうとも。


 俺は闇ゴリラから背後のパンジーに目を移す。

 この子がこの結果の立役者だ。

 もちろん、立役者足れる要因は俺が付与した特性にある。


 ───────《パンジー》────────

・生育速度向上Lv25

・強靭Lv25

・範囲膂力強化Lv25

・範囲敏捷強化Lv25

 ─────────────────────


 こんな感じの内訳となっております。

 

 注目すべき特性は2つか。

 範囲膂力強化。

 範囲敏捷強化。

 神性によって獲得出来た2種の特性だ。


 ──────《範囲膂力強化》──────

・範囲内において、生成者の認める対象の膂力を強化する。

※強化は重複しない。

・レベルの向上により、膂力の上昇率は向上する。

※レベル25時点において1.5倍

・対象に神性がある場合には、上昇率はさらに向上する。

※レベル25時点において、資格者には2.0倍。

・レベルの向上により、範囲は増加する。

 ────────────────────

 

 で、内容はこんな感じ。

 ちなみに範囲敏捷強化については、膂力が敏捷に変わっただけでほぼ同じ文言でした。


 まぁ、強いよね。

 誰でも1.5倍。

 俺たちにおいては2.0倍。

 膂力と敏捷に限ってはいるけど、破格の強化と言っても良いんじゃないかな?


 初見ではなんの比喩でも無く輝いて見えたっけなぁ。

 救世主に見えたのであり、実際俺の期待に答えて下さいましたね。

 まぁ、不安な点はあったけど。

 範囲は一体どの程度なのか?

 半径30センチとかだったら、ちょっとマズかったのだ。

 お一人様限定と言うか、ロクに身動きはとれなかったことだろう。


 現実は、実感としては半径5メートルぐらいはあるかな?

 人間の大人たちだったらどうかなと思うけど、平均身長が3桁に届かない俺たちであればまぁうん。

 気をつければ、なんとかなる範疇はんちゅうだろう。


 ともあれ……ふふふ。


 俺はパンジーのさらに向こうに目を移す。

 そこは墓地であり、人間さんたちがいる。

 彼らは唖然としていた。

 リリーさんによって闇ゴリラが瞬殺されたことを驚いているのだろうけど……良いね。


 彼らの目つきは明らかに変わりつつあった。

 そこには絶望しかなかったのだが、今は違う。

 生気のようなものが確実にそこに宿りつつある。

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