40:女神さま、ごめんなさい

(……ぬおー)


 俺はどうしようもなく認識せざるを得なかった。

 簡単じゃないよな。

 彼らに立ち直ってもらうのはまったく簡単なことじゃない。

  

 なんか良さげな雰囲気だったんだけどね。

 異常な人たちが正気に戻ってハッピーって感じで。

 でも、なんか気づいてしまったって感じだよな。

 過去には絶望しか無く、この先にもまた絶望しかあり得ない。

 そのことにあらためて直面してしまった感じがそこはかとなく。


 俺は墓場の片隅を見つめる。

 そこでは女騎士さんが変わらず膝を抱えていた。


 呆然と空を仰いでいた彼女だが、今は不思議な笑みを浮かべていた。

 冷笑……ってヤツかねぇ?

 未来には絶望しかないのに、何を無駄に喜んでいたのか?

 そんな冷ややかな胸中にあるように俺には見えた。


(となると……うん)


 俺の脳裏には闇ゴリラの姿が浮かんでいた。

 彼女たちの絶望の原因となっているのは、おそらくはあの連中なのだ。

 となると、これしかなかった。

 アイツらを楽々蹴散らしてみせる。

 この先において、アイツらは脅威では無いことを示して見せる。

 このぐらいしないと、人間さんたちに立ち直ってもらうのは難しいかねぇ?


(う、うーむ)


 人間の時であったら、俺は激しくしかめ面だったことだろう。

 それが簡単なこととはまったく思えないのだ。

 どうだろうね?

 種を植えて、神性を増やして。

 その先に、俺達はそんな強さを得ることが出来るのか?

 俺もたいがい楽観とは無縁なのだ。

 現状、神性の可能性を信じるしかないんだけど、ねぇ?

 神性稼ぎを再開する気力がちょっと湧かないと言うか……


(あら?)


 俺はちょっと驚きだった。

 不意に近づいてくる人影があったのであり、それは女の子さんだった。

 彼女は鎮痛な面持ちをしながらに俺に近づいてきた。

 そして、俺を目の前にすると、すかさず手のひらを広げてきた。

 その意味を理解するのは簡単だった。

 種の催促。

 そうに違いなかった。

 そうに違いないのだが……

 

(何故?)


 俺は疑問に思わざるを得なかった。

 この子もたいがい傷心の最中だったと思うけど、何故こうして種を植えにやってきたのか?

 理解しているわけじゃあ無いよね。

 この行為が未来につながるかもなんて彼女が理解しているわけは無いだろう。


(現実逃避……なのかな?)


 この子は、他の人間さんたちほどに絶望しきれてはいないようなのだ。

 未来を諦める決断も彼らほどには出来てはいないだろう。

 怖い……だろうねぇ。

 生きたくても、それが叶わないだろう現実はね。

 何かしていないと押し潰されてしまいそうなぐらいには、もしかしたらね。


 俺に感謝と謝罪を告げに来てくれたのも、現実逃避の一環だったのだろうか。

 まぁ、全ては俺の妄想かもしれないが……うん。

 じっとしている場合じゃないよなぁ。

 可能性があるんだったら、動かないのは無しだよな。


『リリーさん、リンドウさん』

 

 人間さんたちの一幕ひとまくに目を丸くしていたあの子たちだけどね。

 俺の呼びかけを受けて、早速作業を再開してくれた。

 んで、俺は女の子さんに種をスポポポンとさせていただいて、よし。

 俺もまた作業に移る。

 種子を生成しつつに、穴を掘っては種を埋めてを繰り返す。

 

 途中、願わざるを得なかった。

 稼いだ神性が、この子たちを救う結果につながりますように。

 でも、ど、どう?

 俺は不安の思いを抱くことになる。

 ステータスで神性をちょっと確認したんだけど、現在の神性は300をとっくに超えていたのだ。


 リンドウさんの存在に、リリーさんと女の子さんの尽力があっての素晴らしい成果だ。

 ただ……変化なくない?

 獲得出来るスキルにも、付与出来る特性にも変化がなくなくない?


(ど、どういうこと?)


 0から1に増えて、スキルにも特性にも変化が出たわけだからね。

 すぐにでもまた変化があると思ったのだが、ところがの現状である。

 め、めっちゃ焦る。

 大丈夫?

 これ、本当に大丈夫?

 希望さんは、この道の先に本当に待っていらっしゃるので?

 

 不安が芽生えたが、とにかく作業を続ける。

 順調に神性は貯まり続け、比例して俺の焦燥しょうそうつのり続ける。


 一時間もがんばって、神性はもう800を超えた。

 ただ、なんの変化も無し。

 俺はちょっと疑ってしまうのだった。

 もしかして……罠か?

 神様謹製きんせいのトラップか?

 少しだけ期待を見せて、あとは何も無し?

 俺が哀れにあがくさまを楽しんでいらっしゃるとか?


(ち、違いますよね……?)


 俺は白い空間での彼女を思い浮かべる。

 常に不機嫌そうであって、かなりヒステリックな方であったが……あるな。

 そういうことしそうな雰囲気が正直否めないな。

 ちょっと性格が悪そうと言うか。

 俺が苦しむ様を見てほくそ笑んでいても、何もおかしくはなさそうだよな。

 

 だが、それでも俺は神性にすがるしかないのだ。

 1000が間近になる。

 俺は正直怖かった。

 1000にもなって、何も変化が無かったら?

 い、嫌だなぁ。

 あるいは絶望であって、その時が来るのが怖くて怖くて仕方ないけど……って、


 ────────《ログ》────────

・神格の獲得が確認されました。

 ────────────────────


『……ん?』


 俺はログさんの突然の登場に驚くと言うか違和感だった。

 なんか、珍しいと言うか初めてですね?

 貴方様が自ら存在を主張されるのは。

 

 ともあれ、うん。

 神格?

 神性とは違うっぽいけど、こういう時はアレだね。 

 ステータス。

 まずは確認すべきだよね。


 ───────《ステータス》───────

【種族】グリーンスライム

【神格】地母神[第12級]


レベル:111

神性:1003

体力:116/116

魔力:113/115

膂力:47

敏捷:43

魔攻:45

魔防:47


【スキル】[スキルポイント:52]

・光合成Lv35

・種子生成Lv25

・土壌改良Lv15

・木獣使役Lv2

・形状変化Lv5

・硬化Lv10

・促成栽培Lv4

──────────────────────


 俺はステータスをしげしげと眺めることになる。

 注目すべきはここ以外には無かった。

 種族のその下だが、ログさんがおっしゃった通りのワードがあった。

 神格。

 そして、地母神? 第12級?


 なーに言ってだかさっぱりだが……1000を超えたから現れたのか?

 神性が1000を超えたからってことで、どうだ?

 もしかしてアナウンスだったりする?

 つまりその……十分に溜まりましたよー的な?


 俺はとっさに願った。

 神性が1000に到達したことによって取得出来るようになったスキルを教えて下さい。

 すると、


 ────────《ログ》─────────

※スキルポイントが52あります。


・『候補』意思疎通Lv1[必要:50ポイント]

・『候補』神格解放Lv1[必要:25ポイント]

・『候補』聖性付与Lv1[必要:25ポイント]

──────────────────────


 結果はこうなったのでした。

 とりあえず、俺は土の上でベタリと平たくなる。

 土下座のつもりだった。

 女神様、疑ってしまい真に申し訳ございませんでした。

 

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