39:リンドウさんの実力

 リンドウさん。


 竜胆りんどうさん。


 我ながら安直ではあるよなぁ。

 竜がついているからって、命名理由の9割はこれである。


 ただ、名前の雰囲気は悪くないんじゃないかな?

 あとは本人が気に入ってくれるかどうかだ。

 新人さんはジッと俺を見つめ続けた。

 そして、


「ぎぃーっ!」


 新人さんの顔にあるのはにへぇとした笑みだった。

 これは、うん。

 肯定してくれたってことで良いのかな?

 じゃあ、君はリンドウさんで。

 これからよろしくね。


 では、早速だ。

 ちょっとリンドウさんについて、色々と確認させてもらうとしましょうか。


 ───────《ステータス》───────

【種族】ツリーワーム


レベル:1

神性:0

体力:52/52

魔力:38/38

膂力:42

敏捷:32

魔攻:35

魔防:49


【スキル】[スキルポイント:0]

・土壌吸収改良Lv2

・栄養貯蓄Lv1

──────────────────────

 

 パッと見で分かるけど、かなりのところ立派な能力値だよね。

 敏捷と魔攻がやや低いものの、他は総じて高水準。

 生まれたてのリリーさんと比べると、体力と魔防に秀でているような。

 ちなみに、俺と比べ……る必要は無いか。

 グリーンスライムがザコだって、そんな結論を得られるだけだしね。悲しい。


 ともあれ、大事なのはスキル欄だ。

 あるね。

 それっぽいのがバッチリとあるね。


 土壌吸収改良。


 俺のとはちょっと違うよな。

 間に吸収とあるけど、これはアレか?

 俺やリリーさんの光合成に該当がいとうしたりします?

 土壌を改良がてらに体力や魔力を回復可能?

 で、余った分は栄養貯蓄スキルで文字通り貯蓄って感じ?

 

 どうにも、うん。

 俺やリリーさんとは、ちょっと仕組みが違う生き物って感じだな。

 なんとも興味深かったけど、大事なのはそこじゃないか。

 とにかくこの子は土壌が改良出来るんだよね?

 

『……リンドウさん? 土をモグモグしていただいても?』


  これで伝わったようだった。

 リンドウさんは『ぎぃーっ!』でした。

 ひと声鳴いて、早速モグモグ……じゃないな。


 バクバクだ。

 リンドウさんは猛然として土をかっこみ始める。

 俺は目を見開くみたいな心地になった。

 ちょっと驚いたのだ。

 あの子、魚のエラみたいなのあるね。

 そこから土壌の改良が終わった土がじゃんじゃか排出されている。


(なるほどねぇ)


 俺はなんとも納得だった。 

 ツリーワームって、そんな生き物なんだろうね。

 俺みたいな土壌改良も出来る生き物では無くって、リンドウさんは土壌改良で生きる生き物なんだろうねー。


 まぁ、それはともかくとしまして。


 速い。

 くっそ速い。

 とんでも無い速さで改良された土壌が広がっていく。


『り、リリーさんっ!』


 俺は種を生成した上でスポーン。

 リリーさんへと供給させてもらう。

 すげぇ……みたいな感じで目を丸くしていたリリーさんだけど、すかさず動き出してくれた。

 んで、女の子さんもね。 

 ほへぇ……みたいな顔をしていらっしゃったけど、俺に手のひらを差し出しくれた。


 あとはもう、すごい勢いだった。


 リンドウさんによって、茶色の大地は見る間に広がっていく。

 そこにリリーさんと女の子さんによって、ドンドコ種子が埋められていく。


 これは神性もガシガシ稼げてるだろうねぇ。


 俺は種子を吐き出しつつにホクホク顔的な気分だけど、なんか……んん?


 俺は動きを止めることになる。

 ちょっとね、気になるものを目の当たりにしたのだ。

 

 リンドウさんは特に人間さんたちを気にしてはいなかった。

 うずくまる彼らの間を縫うようにして、土壌を改良していった。

 よって、俺たちも人間さんたちの間を失礼して、種子を埋めていくことになったのだけど……その途中で目にしたのだ。


 明らかに正気を失いかけていたり、電波を受信している気配があったり。

 20人の内の半分はそんな感じだったけど、その人たちに不思議な変化が起きていた。


 明らかに顔つきが変わっている。

 濁っていた青い瞳には……意思の光かな?

 正気のような気配がにじみ始めていた。

 そして、


「…………?」


 不意に、彼らは不思議そうに周囲を見渡し始めたのでした。

 目覚めた? 

 あるいは正気にもどった?

 何が起きたのかと俺はビックリだったけど、人間さんたちは俺どころでは無かった。


 正気であったろう半分の人たちは唖然と目を見開いた。

 そして、何事かを叫びつつに、不思議そうにしている彼らに駆け寄っていく。

 女の子も同じだった。

 目を見開けば、彼らの輪に加わっていく。


(う、うーむ?)


 俺はなんとも首をかしげる思いだった。

 これ、何が起きましたかね?

 おそらくは種子を埋めた結果かな?

 彼らが神域の範囲に入ったために生じたことだとは思うけど。


 本当、なんなんだろうね?

 

 神域って心を癒やす力とかある?

 心身喪失している人を現実に戻すほどの力が?

 でも、どうだ?

 俺は特に癒やされて無かったけど。

 今までの焦燥感によるダメージは、確かに俺に蓄積されているけど。正直、しんどいけど。


 とにかく、何故こんなことになったのかは不明だ。

 ただ、これは良い状況かもね。

 泣いている人もいた。

 きっと嬉し泣きだ。

 正気を取り戻した人に抱きついて、涙をこぼしながらに安堵の笑みを見せている。


 女の子もまた、目を潤ませた笑みを見せていた。

 これは……ね?

 彼らは多分、漫然とした死を望んでいた。

 でも、これでさ?

 彼らが生きる気力を取り戻す結果になったりしないかな?


 俺は期待を込めて彼らを見つめ続ける。

 

 どうやら本格的に正気にもどってきたのかな?

 どこか眠たそうにしていた彼らは、涙を浮かべている人々に何事かを尋ねたようだった。


 そして……ど、どうしたのかね?

 一気に雰囲気が変わった。

 多くの者たちが鎮痛な面持ちで黙り込む。

 その後、いくらかのやりとりがあり……号泣だった。

 正気に戻った彼らは身をもむようにして泣き伏せった。


 そして、全ては元に戻った。

 誰もが無気力にその場で動かなくなった。

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