38:新人さんとリリーさんとか
かわいいとはなかなか表現しにくかった。
やっぱりまぁ、虫さんだからねぇ。
顔つきはけっこう哺乳類っぽい感じがあるのだ。
鼻の長い顔つきをして、ちょっと犬っぽい?
あるいはドラゴン?
小さいけどキバっぽいものもついていて、けっこうカッコいいんじゃないかな?
ただ……目かなぁ。
蜘蛛さんとか似て、いわゆる複眼だった。
大小6つの赤いお目々がバランスよくお顔についている。
多分、評価は分かれるだろうね。
特に女性ウケは良くなさそう。
胴体のフォルムは明らかに虫で、お目々の感じも虫さんそのものであって。
生理的にうんちゃらって、前世の俺に対する評価めいた感想を抱く人もいるだろうか。
でも、俺は好き。
かっこいい。
なんか俺の中の男の子的な部分が刺激されるような。
妙にロマンを感じる。
良いね。
君はきっと強くなるよ。
進化とかしそう。
最終的には地を呑む巨龍ちっくな何かに成り上がりそう。
まぁ、俺の心のトキメキはともかくとしまして。
彼ないし彼女は俺に気づいたらしい。
かわいらしく首をかしげながらに、6個の複眼でじっと俺を見つめてきた。
リリーさんの時とは違うのだ。
今の俺には形状変化があるわけで、思わずナデナデさせてもらっちゃう。
そして、
『これからよろしくね』
挨拶もさせていただいたのでした。
すると、ワームさんは……お?
なんか可愛いかも。
口角を上げて、にへりって感じの笑みっぽい表情を見せてくれた。
「ぎぃーっ!」
んで、こんな風に鳴いてくれたのでした。
なんかもう、愛おしい。
守っちゃうからねー。
君のことはしっかり俺が守るからねー。
最初から君の方が強い可能性は否めないけどねー。
なんか、うん。
ドラゴンっぽい顔立ちからしてけっこう強そうだし。
んで、おっと。
俺は気づくことになる。
ちゃんとあの子に紹介しないとね。
この子の兄だか姉だかに当たるであろうリリーさんだ。
俺はかなり楽しみだった。
リリーさんとこの子は、一体どんな心温まる交流見せてくれるのか……って、
(あら?)
俺は首をかしげる思いだった。
俺の隣に立つリリーさんなのだが、新入りさんをじーっと眺めたままでピクリともしていなかった。
ふーむ?
この子であれば、真っ先に自分から挨拶に行きそうなものだけどね?
ちょっと予想外の状況だった。
そして、これも予想外かな?
歓迎会に参加してくれている女の子さんなのだが、緊張の面持ちを見せつつも新入りさんの前にしゃがみこんだのだ。
女の子だしどうかなぁ? と俺は思っていたのだ。
ただ、子供であれば虫を嫌いでは無いのか、新入りさんの木目の肌が良い意味で虫っぽく無かったのか。
女の子さんは、新入りさんの頭にそっと手を伸ばした。
到達する。
あとは俺がしたことと同じだ。
優しく撫でる。
新入りさんは、女の子を見上げつつにじっと撫でられ続けた。
んで、にへり。
俺に向けたのと同じような笑みを女の子に返す。
「ぎぎぎぎ」
なんか笑っているような鳴き声つきだった。
女の子もパッと笑顔だ。
良いねー。
心温まる交流であって、さてはて。
俺はリリーさんを見つめることになる。
残るはこの子だけど、本当にどうしたのかな?
ただただ、じーっと見つめていらっしゃるけど。
虫っぽい生き物を初めて見るはずで、ちょっと苦手に思ったのかな?
でも、それにしては嫌悪している感は無いと言うか。
はたして、一体どんな胸中にあるのか?
俺は思案することになり……ん? まさか?
すぐに1つ思い当たる節を得たのだった。
俺は人の親であったことは無いので、詳しいことは知らないんだけどさ。
年長さんにとっては、弟や妹が出来ることは必ずしも嬉しいことじゃないらしいんだよね。
親の関心はどうしようも無く年少さんに向かうのだけど、そのことに嫉妬?
愛情を奪われたって感じで、軽く敵視しちゃうこともあるのだとか。
これは……そういうことか?
この子はまさか、新入りさんをライバル視しちゃったりしてます?
『り、リリーさん?』
俺が呼びかけたからなのかどうか。
リリーさんは動き始めた。
新入りさんに淡々として近づいていく。
そして……あ、あら?
俺は驚愕するしかなかった。
リリーさんはひょいっと新入りさんの背中にまたがったのだ。
ドラゴンライダーって感じで可愛らしくもかっこいいけど……や、やだ。
リリーさんが……あのリリーさんが、まさかマウンティング?
俺の方が上だぞって新入りに思い知らせていらっしゃる?
思わぬ事態に俺はピクリとも出来なくなったわけだけど、えーと、実際どう?
リリーさんは新入りさんの顔を上から見下ろした。
新入りさんもまた見上げる。
2匹の視線がバチリと結ばれる。
そして、
「きゅーっ!!」
リリーさんは前方のはるか彼方をズバシッ! と指差したのでした。
えーと、ごめん。
一体何をしていらっしゃるのかな?
俺は困惑だし、新人さんもね。
さぞかし困惑していることだろう……って、ん?
どうなんだ?
新人さんはあの表情を浮かべた。
にへりとした笑みを浮かべ、すると、
「ぎぃーっ!!」
ひと声を上げて、ずーるずる。
リリーさんの指差す方向に
えーと、うん。
心が通じあった的な理解でオッケー?
女の子さんもまた、彼らに笑顔で加わった。
2匹と1人で、和気あいあいといずこかへと向かい始める。
非常に微笑ましかった。
夕ご飯までには帰ってくるのよー! って気分ではあるけど……ごめん。
ちょっと今は大変なのだ。
彼らの冒険譚はまたの機会にしていただくとしましょうかね。
ということで戻って来ていただきました。
俺はあらためて、リリーさんを乗せたまんまの新人さんを見つめる。
重くはないの?
そう思わざるを得ないけど、かなり
これは期待だよなぁ。
よって早速ステータス……と、その前に。
名前だ。
まず名前をつけてあげないとね。
ツリーワーム。
そう、ツリーワームとなると……り、りり……あかん。
俺の貧相な発想力だと、どうしてもリリーさんと同じ筋道を辿ってしまう。
俺は新人さんをジジーっと見つめる。
リリーさん2号とか、そんな愛の失われた名前は無しだしなぁ。
この子らしい名前。
ドラゴンっぽくて、カッコかわいいこの子らしい名前……あぁ。
あるかも。
リリーさんと同じお花由来だしね。
これにさせていただきましょうか。
『……リンドウさん。君はそう呼ばせてもらっても良いかな?』
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