27:任せた、リリーさん

(う、うーむ)


 現状に、俺は内心でうなるしかなかった。

 まぁ、予定とは違うよね。

 俺とリリーさんのがんばりで、なんとか闇ゴリラを撃破することに成功したのだ。

 だからこう、ね?

 歓迎していただけるのかなー? って、俺は楽観と言うか下心を抱いていたのだ。

 

 ただ、現実は厳しい……って、良いのか?

 そんな理解で良いのか、この状況?


(なにこれ?)


 戦闘後、俺とリリーさんは自然な流れとして人間さんたちと対面することになった。

 ただ、その人間さんたちの様子が……うーん。


 まぁ、半数の人たちは良いのだ。


 20人ばかりの内の半数は、俺に理解出来ないこともない態度を取っていた。

 警戒だ。

 子供や老人を背で隠しながらに、俺たちに疑惑の目つきを向けてきている。


 行動で味方だと示したつもりだけど、まぁ、仕方がないか。

 人間さんたちは怪物に襲われた直後であり、俺たちもどちらかと言えば怪物寄りの容姿であり。

 さらには、彼らは辛い目に会ってきたって感じがするしね。

 俺にも大いに覚えはあるけど、摩耗まもうした精神で誰かを信用するってのは難しいのだ。


 と言うことで、理解は示せるのだった。

 そう、半数の人々には。

 

 問題は残りだ。

 彼らは……ほんと、何?

 正直、不気味だった。

 残りの10人ばかりにおいて、目の焦点が合っている者は1人もいない。

 虚空をボケーと見つめている。

 口の端から、よだれを垂らしてそのままにしている者もちらほらといた。


 心ここにあらずがかなり極まった様子とでも言うべきか。

 なんかヤバい。

 まぁ、もっとヤバい人もいるけど。

 目の焦点が合っていないのは同様として、なにごとかブツブツと呟いている人もいるのだ。

 いや、呟いているのか? 声なのか?

 テレビのノイズのような音にしか聞こえないけど、本当なに?

 何か別の世界と交信していたりしない?

 大丈夫? 

 人間の皮をかぶった誰かならぬ何かだったりしません?


 ともあれ、うん。

 そんな人間さんたちの様子なのでした。

 

 ちなみにだけど、闇ゴリラと渡り合っていただろう女騎士さんは警戒組に属していた。

 背に子供を隠しながら、俺たちを鋭くにらみつけているが……俺たちも彼女を警戒しないとかなぁ。

 

 闇ゴリラが撃破された後も、彼女は長剣を鞘に収めることはなかった。


 俺たち向けの行動で間違いないよね。

 何か怪しい行動をすれば、その時にはすかさず叩き斬る。

 そんな意思が、彼女の目つきと剥き身の長剣からはひしひしと伝わってくるのですよね、はい。


(……う、うーん)


 俺は苦悩せざるを得なかった。

 このままだと、生存を賭けての第2ラウンドって可能性も十分にあるな。


 では、どうするか?

 そこが問題なのだ。

 意思の疎通が出来ればそれが一番良かった。

 ただ、そうは問屋が下ろしてくれなかったのだ。


 我に人類と交流するすべを与えたまえ。


 そう願ってはみたものの、ログ先生はうんともすんともだった。

 少なくとも現状では、俺は念話的な便利スキルを獲得出来ないようなのだ。無念。


 となると、俺に出来ることは何か?

 どうすれば敵では無いと伝えることが出来るのか?

 正直、さっぱり何も浮かばない。

 黒カニを殲滅し、闇ゴリラを撃破したこと以上のアピールなんてなかなかねぇ?


 となると、頼れるのはやはりこの子か。

 リリーさんである。

 この子のかわいさで彼らを悩殺する。

 なんの冗談でもなく、それが一番勝率が高そうだが……そう言えば、この子もアレだな。


 俺は人間さんたちから、隣に立つリリーさんへと意識を移す。


 リリーさんもまた、人間さんたちほどでは無いが不思議な様子を見せていたのだ。

 腕組みをして、「んー?」て感じで首をひねり続けている。


 俺もまた『んー?』だった。

 一体どうしたんだろうね?

 現状について俺と一緒に悩んでくれているんだったら嬉しいけど、残念ながらそうではないだろう。

 

 なにか忘れているような気がする。

 そんな表情に思えた。

 眉間みけんに可愛らしくシワなんか寄せちゃって、がんばって何かを思い出しているようにしか俺には見えない。


 がんばれ、リリーさん。


 現実逃避もかねて、俺はリリーさんを胸中で心から応援する。

 すると、


「きゅっ!」


 リリーさんはそんな声を上げて、パンと手を叩いた。

 かわいい。

 ただ、少なからずびっくりしたかな。

 主に、女騎士さんに与える影響的な意味で。

 不意に響いた声と音に、彼女は長剣を剣呑けんのんに構えたのでした。怖い。


 ただ、リリーさんは気にしていないようだ。

 ウキウキとした様子で、廃村の方を指差したのだった。

 んで、人間さんたちを手招きした上で駆け出した。

 止まる。

 振り返る。

 戸惑いを見せる人間さんたちに対し、早く! と言わんばかりに再びの手招き。


(……あぁ、なるほど)


 人間さんたちは顔を見合わせているけど、俺は納得だった。

 そういうことか。

 あるいは、人間さんたちを初めて見た時からかな?

 あの子はきっとこうしたいと思っていたんだろうねぇ。


 そして、うん。

 これはけっこう良い結果を生むんじゃないか?


 俺もまた手伝わせてもらうことにした。

 矢印のように形状変化。

 リリーさんと同じように廃村の方向を示してみせた。


 それでも人間さんたちは動かなかった。

 ただ、リリーさんが「きゅーっ!!」と声を張り上げたのが効いたのかどうか。

 女騎士さんはいぶかしげであっても周囲に1つ頷きを見せた。

 これで動きが生まれた。

 人間さんたちはリリーさんの背を追い始める。

 

 さて、これが吉と出るか凶と出るか。

 

 俺もまたリリーさんの後を追いかける。


 

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