26:決着。でも……?
『じ、時間稼ぎ! ごめん、よろしく!』
リリーさんは「きゅーっ!」だった。
我に任せるが良いと頷いて、闇ゴリラに向かって突撃を開始する。
俺はと言えば、毎度の土壌改良である。
一心不乱に土をモグモグする。
正直、不安はあった。
闇ゴリラの一撃にかかっては、さしものリリーさんでもただではすむはずがないのだ。
ただ、リリーさんは小柄も小柄だ。
体高で3メートル超える闇ゴリラにとっては、蚊とまでは言わないもののカナブン程度の大きさに映っているに違いない。
そして、そのカナブンは高度な意思をもっていて、俊敏自在に動き回る。
(だ、大丈夫でしょ)
蝶のように舞いではないが、きっと闇ゴリラをいなし続けてくれることだろう。
信じて、俺は自分の仕事に専念する。
さほど苦労はなかった。
作業としては肉塊戦の時の再現だ。
土壌の改良はすぐに終わり、それなりに手際良く穴を掘り終える。
そこに、生成しておいた種を──2つ。
吐き出す。
土をかける。
『リリーさーん!』
呼びかけた瞬間、リリーさんは巨大な腕による薙ぎ払いをかいくぐったところだった。
さすがリリーさん。
闇ゴリラの猛攻を見事にいなし切ってくれたようだけど、
「きゅ、きゅーっ!」
悲鳴に近い声を上げ、これ幸いと俺の元に走り寄ってくる。
是非とも、抱き止めてナデナデして上げたいところだった。
でも、ダメか。
リリーさんを追って、闇ゴリラもまた俺の元に迫ってきているのだ。
リリーさんに翻弄され、よほどストレスでも溜め込んでしまったのかどうか。
オォ……ッ!! なんて唸り声を上げていて、その勢いは猛然と評する以外は無い。
ちょー怖い。
ただ、都合の良い展開ではある。
大事なのはタイミングだ。
リリーさんが慌てふためいて俺に合流した時には、すでに闇ゴリラは目前だった。
俺が改良した土壌に足を踏み入れ……よし、ここか。
促成栽培。
土壌から湧いたのは、肉塊戦の時のMVPだ。
バラである。
巨大化させ、強靭化させたツルが闇ゴリラを見事に巻き取った。
グォォオォォ──ッ!!
叫びが上がったが、それは悲鳴とかではきっと無い。
せいぜい、「きぃぃーっ!?」って、うざがっているぐらいの感じか?
トゲにしてもツルにしても、苦にしている様子はまったく無かった。
トゲごとにツルを握っては……あ、千切れた。
いたって無造作にツルの
(つ、つよっ)
パワーだけなら、間違いなく肉塊よりも上だろう。
そして、そのパワーはすぐに俺たちに振るわれることになるに違いなかった。
よって、俺は急いで次の行動に移る。
こうして一時とは言え拘束出来たのだ。
これならば……上手いことクリーンヒットさせることが出来るだろう。
俺は再び、促成栽培。
残った魔力の全てを、埋めていたおいたもう1つの種子に注ぎ込む。
すると、
「きゅーっ!?」
リリーさんが驚いてくれたけど、俺もかなり驚きだった。
ズドンッ!! である。
一瞬で成長したとある植物が、天を鋭く貫いたのだ。
まぁ、竹です。
青々とした竹さんです。
一本では無く、数十本。
剣山のようになって、見事に青空を埋めていた。
けっこう壮観。
ただ、竹さんに見惚れている場合ではないか。
竹はパッと見で十数メートルの高さまで成長していたが、俺はさらにその上を見上げる。
あ、いた。
太陽を背にした小さな影が見える。
鳥にしては大きいように見えるが、鳥なんてこの辺りには存在しないのだ。
闇ゴリラである。
先ほどまで目の前にいたはずの怪物は、今は数十メートルを超えて、それ以上の高みに到達しているのだった。
(よーしよし)
俺は満足の心地で頷き的な動きをする。
狙い通りだった。
拘束した上での会心の一撃。
促成栽培による瞬時の成長を活かして、闇ゴリラを天高く打ち上げることに成功した。
このアイデアは、墓地近くのセコイアの成長から得られたものだった。
促成栽培を使って成長させたのだが、その時の勢いが本当にすごかったのだ。
セコイアの鋭いシルエットも相まって、巨大な槍が天を突いたように俺には見えた。
貫くまでは期待出来なくとも、空に打ち上げるぐらいは可能なのではないか?
そう思って、実際こうだ。
見事に成功してくれたなぁ、うん。
ちなみに、登場してもらったのが竹だったのは、セコイアよりは断然生成時間が短かったためだ。
それでいて成長が早く、柔軟で丈夫。
セコイアと同等かそれ以上に活躍してくれると俺は期待したのだった。
とにもかくにも大成功。
翼無き闇ゴリラさんには、もはや何も出来ることは無い。
上昇はさらに数秒続いた。
んで、不意に……ヒュン。
重力に引かれ、枯れ木の森にお帰りなさいである。
ゴシャッ!!
素晴らしい音が響いたけど、致命傷と理解しても良いのだろうか。
地上に帰還した闇ゴリラは、ひしゃげたままで動けないでいた。
俺は願った。
頼むから、このままくたばって下さい。
そうでなければマズイのだ。
闇ゴリラに少しでも動く元気があればマズイことになる。
なぜなら、
「……きゅー」
リリーさんが俺のことを見つめているからだ。
妙にそわそわして、お手々をわきわきさせているからだ。
簡単に察しがついた。
肉塊の時の再現がしたいのだろうね。
トドメの一撃として、スライムソードを振るいたくって仕方ないんだろうなって。
絶対、嫌です。
今の俺の体力は、色々あって現在……18?
死にます。
なんの疑いもなく死ねます。
闇ゴリラとの心中を間違いなく余儀なくされます。
だからまぁ、俺は闇ゴリラの旦那にはこのまますんなり退場していただきたいのだ。
幸いにして、彼は空気の読める方だったらしい。
じゅわり。
やはり灰色さんや黒カニと同類だったらしく、黒い霧となって虚空に消えた。
「……きゅうー」
リリーさんはがっくりと肩を落とした。
一方の俺は「ふぅ」とひと息である。
助かった。
いろんな意味で助かることが出来た。
んで、彼女を助けることも出来たわけだね。
俺は膝を突いている女騎士さんに目を向ける。
これで彼女自身も含めて、人間さんたちの安全は確保されることになったのだ。
きっと安堵の息をついているのだと俺は思ったけど……んー?
どうにも、そんな雰囲気は無かった。
彼女は俺とリリーさんをにらみつけていた。
一応俺たちが助けさせてもらったことにはなるのだが、信用されるにはほど遠いのかどうか。
その眼差しには、ありありと警戒の色が浮かんでいる。
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