25:vs闇ゴリラ(怖)
一見するところは、まさにゴリラさんって感じだった。
特徴的な前傾姿勢に、ひときわ目につくたくましい腕部。
そして、いかめしい顔つきには、しかし穏やかで知性的な眼差しがあり……となると本物のゴリラの旦那なのだが、
(……なにあれ?)
よく分からなかった。
顔に当たる部分では、黒い霧が濃く渦巻いているのみ。
黒カニや灰色の
動物園のスターにお会い出来たわけじゃなさそうだ。
つーか、本物はここまで大きくは無いだろう。
体高だけで、3メートルを超えそうなぐらいに大きくは無いはずだ。
爪もあんなでは無いんじゃないか?
獲物を仕留めて引き裂くのが趣味ですなんて、本物の旦那はそんな
敵です。
そう断言しても良さそうだったが、向こうさんにとっての俺たちはそうじゃない?
闇ゴリラの興味は女騎士さんにあるようだった。
彼女に対し、静かに前傾を深める。
突撃の前触れって感じか。
攻撃を仕掛けようとしている雰囲気がプンプン漂ってくる。
一方で、女騎士さんは不意にその場で膝を突いた。
今までの轟音の最中で、相当のダメージでも負っていたのかどうか。
苦悶の表情を浮かべ、立ち上がるのにも苦心している。
はたして次の瞬間に何が起きるのか?
そんなことは想像力を働かせる必要も無いことであり、
「きゅーっ!!」
リリーさんが気を利かせて叫んでくれたのでした。
そして、
「……きゅ?」
これで良かったの?
そんな感じで、首をかしげて俺を見つめてきた。
俺は思わず形状変化だ。
リリーさんの頭をいい子いい子となでさせてもらう。
本当、賢い子だね君は。
動揺してヘタれている俺に代わって行動してくれたんだね。
本当、良い子。
えらい。素敵。
称賛しようと思えばいくらでも言葉を重ねられた。
ただまぁ、リリーさんを褒め称えさせてもらうのは後にすべきだろうかね。
リリーさんの叫びによって、闇ゴリラさんの興味を引くことに成功したのだ。
黒い霧にまみれた顔が俺たちへと向けられる。
そして、
(ぬ、ぬお!?)
俺はリリーさんと一緒にビクリと体を震わせることになった。
オォ……ォォオォ……ッ!!!
こんな響きが、不意に闇ゴリラから発せられたのだ。
俺が見つめる中で、闇ゴリラは再び前傾を深めたのだ。
そして、爆発だった。
轟音が鳴り、土砂がしぶきとなって舞い上がり……怪物の突撃が開始されていた。
『ひ、ひぃぃっ!?』
猛然と迫りくる闇ゴリラに、俺は悲鳴を上げざるを得なかった。
いやまぁ、悲鳴を上げている場合じゃないんだけどさ。
くっそ速い。
俺がどうがんばったところで、独力で回避することは不可能だろう。
身を守るためには何かしらの策を実行する必要があった。
よって、ペタリ。
俺は咄嗟に、隣に立つリリーさんのお手々にひっつかせてもらう。
『と、飛んでっ!』
俺の叫びにリリーさんはすかさず応えてくれた。
バシュン! と、横にひとっ飛び。
さすがは枯れ木からセコイアの枝に飛び移ることを可能とする跳躍力だ。
見事に俺を安全圏まで運んでくれた。
『ぐべ』
なお、着地まではなんともかんとも。
勢いを殺して見事に態勢を整えたリリーさんを尻目に、俺は見事に転がって石に直撃しましたとさ。痛い。
ただ、この程度のダメージですんだことを神様に感謝すべきだろうか。
標的を外した闇ゴリラは、勢い余って枯れ木に直撃していた。
で、ゴガンッ!!
とんでもない衝突音が響き、木くずが盛大に空に舞う。
枯れ木は哀れ、根本からぽっきりとへし折られてしまったのだった。
もちろん、へし折れた枯れ木はそのまま地面に横たわることにはならない。
猛烈な勢いで吹き飛びつつに、ガンッ!! ゴゴンッ!!
進路上の枯れ木を砕き折り、地面に触れれば盛大に土砂を舞い上げる。
(……ひぇぇ)
俺はゾッと背筋を凍らせるような心地だった。
仮に、闇ゴリラの突進が俺に直撃していたらどうなったか?
想像する必要も無いか。
大型のトラックや重機であっても、あの一撃に耐えられるとは思えない。
強力無比と言って、これ以上の存在は無いだろう。
俺は思わず女騎士さんに意識を向けることになった。
彼女は突如登場した2匹のちんちくりに目を丸くしているようだったが……あの人、こんなのと渡り合ってたんだな。
間違いなく強い。
体も心も。
やっぱり、あんな目つきが出来るぐらいだからすごい人なんだろうねぇ。
可能であれば、是非とも手助けして欲しいところだった。
俺もまぁ、色々と小細工を
協力出来れば、光明が見えてくるかもしれなかった。
ただ、やはり彼女は苦しい状況にあるらしい。
膝を突いたままで動けずにいる。
となると、頼れるのは我が身とリリーさんか。
突撃を終え、闇ゴリラは
さーて、どうするか。
こういう時には、我が身の不出来さが逆に都合が良かった。
出来ることなんて大して無いので、悩む必要があまり無いのだ。
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