24:人間と類人猿(仮)

 落下の衝撃で死にかけたのは言うまでもないが、まぁ、そこも置いておくとしまして。


 リリーさんに引きずってもらって、わずかに数十秒。

 俺はついに念願の存在を、枯れ木の森に見つけることになった。


(……人間だ)


 それ以外に理解のしようは無かった。

 日本人には見えない。

 俺の視界に収まっている彼らは、誰もが青い瞳をして金色の髪を陽光に輝かせている。

 服装も和のテイストは皆無かいむだ。

 現代って雰囲気もさっぱりだな。

 せいぜい近世といった様子であり、麻か木綿かといった質感の素朴な衣服に身を包んでいる。


 ともあれ、人間だ。

 人間であることは間違いない。

 ただ……こうして間近にしてもなお、俺の胸中に喜びが湧くことは無かった。


 まぁ、思い出してしまったと言うか、なんと言うか。

 

 いないと寂しい、いると嬉しい……って、そんな単純なわけはねぇ?

 前世の俺の周囲にだって、それなりに人間はいたのだ。

 それでも、俺は生きてはいけなかった。

 1人でいるよりも孤独であって、ミジメで、苦しかった。

 

(こわっ)


 人の気配に対し、素直にそんなことを思ってもしまうのだが……ま、まぁ、うん。

 

 人間との出会いをさっぱり喜べていない現状だけど、だからと言って行動しないのは無しなのだ。

 やっぱり、黒カニは人間にとって十分な脅威らしい。

 一応、彼らは長剣や槍で武装しているようだった。

 ただ、対抗出来ている雰囲気は欠片も無い。

 彼らの表情にあるのは恐怖であり、悲鳴はひっきり無しだ。


 人間たちの中には老人も子供もいた。

 彼らの怯えている姿を目の当たりにすると、うん。

 やっぱり無しだ。

 動かない選択肢は無い。

 

『リリーさんっ!!』


 初めての人間に目を丸くしていたリリーさんだが、すかさず俺の意思をんでくれた。

 頷いて、黒カニに向かって飛び出す。

 俺もまた同様だ。

 非力な身ではあるが、血が流れないことに少しでも貢献せねば。

 

 途中、子供の1人と目が合った。

 金髪碧眼の少女であるが、やはり表情は恐怖に染まっている。

 まぁ、任せなさい。

 君たちのことは俺とおもにリリーさんが絶対に守って上げるから……って、


『ぐふっ』


 俺は宙を舞うことになったのでした。

 何故って、彼女の意を決した様子で放たれたキックが、俺にクリーンヒットしたからである。


(だ、だよねー)


 落下してひしゃげつつに、俺は納得だった。

 俺、スライムだからね。

 灰色さんとは瓜二つだし、化け物が追加で来やがったって思われても仕方ないよね。


 ということで、俺は行動で示すことにしたのでした。

 少女は「あっ!」と呆然と目を見開く。

 黒カニの一体が、少女に狙いを定めたのだ。

 猛然と迫り、その巨大なハサミで少女を断ち切ろうとしている。

 なので、バチコーン。

 俺は硬化しつつに形状変化。

 張り手をかますような感覚で、黒カニを弾き飛ばしたのだった。


 ───────《ステータス》───────

【種族】グリーンスライム


レベル:101 

神性:0

体力:32/106

魔力:101/105

膂力:45

敏捷:40

魔攻:42

魔防:45


【スキル】[スキルポイント:38]

・光合成Lv35

・種子生成Lv25

・土壌改良Lv15

・木獣使役Lv1

・形状変化Lv5

・硬化Lv10

・促成栽培Lv4

──────────────────────

 

 非力な身ではあるが、肉塊を打倒したこともあってレベルは101。

 上昇した能力値によって、黒カニを弾き飛ばすぐらいはわけはないのだ。


 しかし、道中で無駄にダメージを喰らいすぎでは?

 その辺りがちょいと気になるというか不安だけど、ともあれ目的は果たせたかな?


 少女は俺に驚きの視線を向けてきたが、そこには恐怖だとか敵意だとかは見受けられなかった。

 なんだ、コイツ? って感じはすごくあるが、蹴られることはもう無いだろう。


 とにかく、俺は働いた。

 リリーさんには獅子奮迅していただいて、俺は人間さんたちの防御に専念した。

 バチコーンし続けて、早5分ぐらいか?

 さすがはリリーさんと言う他無い。

 30体あまりいた黒カニは一体残らず消え失せることになった。


 やれやれ、これでひと安心……とは、なれない俺とリリーさんだった。

 だって、ね?

 そもそもの発端ほったんは、廃村で木が倒れるような音を耳にしたからだけどさ。

 どうにも黒カニのせいでは無かったようなのだ。 

 周囲には枯れ木が倒れているような様子はまったく無い。


 んで、その轟音は今もなお響き続けている。

 ドガン、ズシーンと地面を揺らし続けている。


 人間さんたちは怯えていた。

 俺たちを気にしつつも、必死に足を動かして音の方向から遠ざかろうとしている。


 なんか、ヤバいのが残ってそう。

 

 そう思わざるを得ず、俺も逃げたくなってきたけど、


『ぬおっ!?』


 俺はぴょこんと、リリーさんと一緒にその場で跳ねることになった。

 驚きのためだ。

 ドドン! と、轟音が今までに無く近くで響いたのだ。


(な、なんか来たっ!?)


 俺は慌てて音の方向に目を凝らす。

 そこにいたのは……あら、おキレイ。


 俺は拍子抜けだった。

 灰色、黒カニ、肉塊と来て、今度はどんな怪物を目の当たりにするのかと身構えていたのだ。

 しかし、実際に目の当たりにすることになったのは若い女性だった。


 俺はその彼女に目を奪われる。 

 素直にキレイだと思えたのだ。

 まぁ、外見の話では無いんだけどね。

 彼女は騎士様なのかな?

 薄くとも軽そうな金属の鎧を着込んでいていて、手には細身の長剣を握っている。

 そこには壮麗さも華麗さも欠片も無い。

 傷だらけで薄汚れ、ある種痛々しくも見える。


 顔もそんな感じだった。

 乱暴に後頭部でまとめられた金髪も、端正かもしれない相貌そうぼうも見事に土埃つちぼこりに汚れてしまっている。

 

 ただ、目だ。

 彼女は森の奥を鋭くにらみつけている。

 その紺碧の双眸そうぼうには強い光が宿っていた。

 何かしらの意思の光ってものだろうかね。

 前世の俺には、最後まで宿ることはなかったものだろうけど、それがなんと言うべきか。

 俺には眩しいぐらいに美しく見えたのだ。


 ともあれ、うん。

 現状じゃ、注目すべきは彼女じゃないのかもだよね。


「きゅ、きゅーっ!!」


 リリーさんが慌てた様子で森の奥を指差しているけど、はい。

 俺にも見えていますとも。

 なんかヤベェのがいるけど、アレは……ご、ゴリラ?

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