21:vs肉塊(きゅー)

 あまり動揺せずにはすんだが、俺は大いに迷うことにはなった。


 まぁ、そりゃあね。

 肉塊殿は健在であり、目玉も復活して、触手という新たな武器も追加されてしまったのだ。


「……きゅー?」


 リリーさんは首をかしげて見せてきた。

 これ、どうすんの? ってことなんだろうけど、うん。

 これ、どうしようねー? わははは。


 残念ながら、肉塊は考える時間を与えてはくれないようだった。

 目玉に血色がにじんでいく。

 そして、触手が同時に動き出した。

 数としては20を超えるだろうか。

 人の胴ほどの太さを持つそれらが、風切り音と共に俺たちに迫ってくる。


 あ、死んだわ。


 そう思わざるを得ないけど、俺はともかくリリーさんを殺させるわけにはいかないのである。

 逃げ切れる気配はさっぱり無い。

 となると、俺はどんな決断を下すべきなのか?

 もはや消去法だった。


『ま、前へ!!』


 選ばされたのは前進だ。

 リリーさんと共に、必死で触手の渦中に飛び込む。

 意外なことに悪い決断では無かったようだ。

 長い触手にとっては、懐に入られた方が戦いにくいものらしい。

 俺たちはなんとかかんとか触手の嵐をかいくぐることに成功した。


 熱線についても、ある種同様だった。

 ふところに入ったことで目玉の視界から逃れることが出来たらしいのだ。

 熱線は放たれることなく、俺たちはなんとかドロドロにならずにすんだ。


 俺、やるじゃん。 

 なんて自画自賛している場合では無かった。

 俺たちは今、触手に囲まれてしまっている。

 生き残るためには何かを考えなければならなかった。

 この状況を切り抜けるための一手を、何とかひねり出さなければならない。


(……ぬ、ぬおー)


 実際、無理だった。

 俺にはそんな機転は存在しない。

 だから、うん。

 今回も消去法だ。

 そもそも、俺に出来ることなんて大して無いのである。


『ごめん! しばらく守って!』


 そう伝えて、俺は早速地面をモグモグする。

 慌てて土壌改良を進める。

 リリーさんは頷きも無く従ってくれた。

 迫る触手どもを殴り、蹴り。

 なんとか安全を確保してくれる。

 

 俺は感謝の思いを抱きつつ、とにかく作業を進める。

 土壌の改良と平行して、俺は種子を生成してもいた。

 さほど時間はかからなかった。

 種子生成のレベルは今や25であり、木のように時間のかかる種子を生成しているわけでも無い。

 残りはえーと、10秒?

 短い。

 だが、長い。

 リリーさんは必死に対応してくれているが、いつまで保つか。

 もちろん穴を掘ってもらえる余裕は無いだろう。

 俺は形状変化を用い、なんとか穴を掘る。

 そして……き、きたっ!!

 

 俺は急いで種を吐き出す。

 ぺっぺと手荒く土をかぶせる。

 あとは促成栽培だ。

 ユーカリで一度使用したため、俺の残りの魔力量はおよそ半分。

 十分にいける。

 ちょいと巻き込まれるおそれはあるけど……仕方ない。

 ここはためらっていられる場面じゃない。


『ありがとう! いくよ!』


 必死のリリーさんに届いているかは疑問だったが、かまわず行使する。

 促成栽培。

 変化は瞬きの内だ。

 

 ……オォ……ォ……ッ!!


 不意に響いたそれは、はたして声なのか音なのか。

 悲鳴だと俺としては嬉しいかな。

 触手はほぼほぼ動きを止めていた。

 膨大な量のツルに巻かれて、身じろぎしか出来ないようだった。


『い、痛だだだっ!?』


 まぁ、それは俺も似たようなものだったけど。

 動きがとれないことは無かった。

 俺は軟体生物であり、拘束に対してはわりと強いのだ。

 ただ、問題としては非常に痛い。

 黒カニを捕られた時のクズとは違い、今回はトゲがあるんだよね。


 ────────《バラ》─────────

・生育速度向上Lv25

・強靭Lv25

・油分貯蓄Lv25

・巨大化Lv25

 ─────────────────────


 色々と思うところがあってバラなのだ。

 よって、痛い。

 トゲが刺さって超痛い。


 リリーさんも巻き込まれてしまっていた。

 ごめんね、本当痛いよね。

 きゅーきゅー悲鳴を上げながらに、必死にトゲの檻から逃げ出そうとしている。

 

 幸いにして、痛みはあれど脱出自体はさほど難しい話では無かった。

 特性として巨大化を付与してることもあって、ツルの間にはそれなりに隙間があるのだ。

 俺はもちろんズルズルと這い出ることに成功し、リリーさんにしても小型な体躯を活かしてすぐに抜け出すことが出来た。


 そして、俺は肉塊の現状を観察することになる。

 ツルに巻かれて動きが取れなくはなっているが……まぁ、それだけか。

 トゲがあるとは言え、ダメージがある様子は無い。

 さらには、きっと長くは保たない。

 強靭があっても、すでにして千切れそうになっている。 

 ミシミシと破砕音がしきりと鳴っている。


 よって、すぐさま次の行動に移る必要があった。

 俺は形状変化する。

 矢印のようになって、とある物を指差す。


『リリーさん! それ! ツルに向かって投げて!』


 それは触手によって弾き飛ばれたユーカリの破片だった。

 油分貯蓄の効果は相当であって、いまだに盛んに燃え続けている。

 俺じゃあ近づくことも難しい。

 だが、耐火のスキルを持つリリーさんであれば出来る。

 投げることが出来る。

 次の展開を起こすことが出来る。


 リリーさんは飛び出した。

 俺の呼びかけ通りに、ユーカリの破片を拾おうとしている。

 だが……だ、だよねー。

 

 その破片は、目玉の視界の内にあった。

 リリーさんに肉塊の視線が向かう。

 目玉が赤らんでいく。


 次の瞬間には、きっと熱線が走る。

 ただ、俺はなにも無責任にリリーさんを死地に追いやったわけではないのだ。

 よって、ブスー。

 硬化し、針のようになった上で、俺は目玉に下から突き刺さったのでした。


 俺は見事目的を果たしたのだった。

 リリーさんへの熱線は阻止した。

 ただ、代わりに……あぁ、私ですかね?

 目玉が俺を見下ろしてくる。

 瞳が急速に赤らんでいく。

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