16:ちょこっと思案

 今日は逃げてばっかりの気がしたが仕方なかった。

 勝利などまさかあり得ないのだ。

 灰色や黒カニも動き出したようだが、とにかく無視。とにかく逃げる。

 

 俺はリリーさんと一緒に必死に走った。

 結果としては、廃村から抜け出す頃には俺たちは追跡から逃れることになった。

 やはり基本的にアイツらは俺たちに興味が無いらしく、その事実に助けられた格好だ。


 ともあれ……つ、疲れた。

 俺はべたりとその場でひしゃげる。

 肉体的にはともかく、ひどいのは心労だ。

 濃厚な死の気配に、俺の精神はガリガリと削り尽くされてしまったのだった。

 

 一方で、リリーさんである。

 この子も相当の心労があったはずだが、俺のように死に体にはなっていなかった。

 何故か、じっと村の方を見つめている。

 

 その視線が、不意に俺へと向いた。

 そして、えーと?

 リリーさんは村の方を2、3度指差した。

 んで、ぶんぶんと何かを叩き潰すような仕草を見せる。

 さらには、種植えか?

 土を掘って、種を埋めるような仕草も見せてきた。


 俺は思わず感心することになる。

 やっぱり、この子は賢いね。

 あの肉塊大目玉を倒さないと、再びの花畑なんて出来やしない。

 そのことをちゃんと理解しているみたいだ。

 リリーさんは最後に両の拳をぎゅっと握って見せてきた。


「きゅー!!」


 鳴き声もついてきたが、間違いなく催促だろう。

 あの肉塊野郎をぶっ倒そう!

 そう俺に呼びかけているに違いない。


 俺は即答出来なかった。

 黒カニどころでは無い真正しんせいの化け物。

 立ち向かう勇気が正直湧かなかったのであり、そして、


(……人間なぁ?)


 はたして、この世界に人間は健在なのだろうか?

 そんな疑問を抱いているためであった。


 健在でなければ、もう必要は無いのだ。

 緑を広げる意味は無い。

 人間をおびき寄せようなんて、試みたところで何の意味も無い。


「……きゅー?」


 ただまぁ、いずれにせよリリーさんには関係無い話だよね。

 リリーさんは不安そうに首をかしげていた。

 花畑を作りたいのに、このヘタレスライムは賛成してくれないのだろうか?

 そんな胸中にあるのだろうね、多分。


(……そうねぇ?)


 保護者気取りとしては、否を告げるのも有りだった。

 何もしなければ敵視はされないのだ。

 危ないことは止めて2匹でひっそり生きていこう。

 そう伝えるのは、十分に俺の選択肢にあった。


 ただ……うん。

 俺はくだらない前世を通して、いくつかの学びを得ていた。

 だれかの顔色をうかがい、ただただ息を殺しておびえ続ける。

 それだけの一生をはたして生きると呼べるのか?

 俺はまぁね。

 前世の自分を生きていたとは間違っても表現出来ないし、良い人生を送ったなんて欠片も思うことは出来ない。


 そして、他にもちょっと思うところがあるのだった。

 俺はリリーさんから廃村に目を移す。

 あそこに暮らしていた人々は、きっと肉塊を始めとする化け物たちによって殺されたのだろう。

 まぁ、俺も端くれとは言え人間であった時期があったのだ。

 代わりに一矢を報いて上げたいって思いは少なからず湧いてくるのだった。


『……やってやろうかね』


 リリーさんは待ってましたとばかりに猛烈な頷きを見せた。

 俺もまた頷き的な動作を返す。

 そうだね。

 いっちょ気合を入れてやってやるとしようか。

 ただ、早速打って出ようというわけにはもちろんいかなかった。

 返り討ち必死なわけで、どうせなら勝ちたいのだ。

 緑の園を荒らされた恨みと、殺された村の人々の無念を晴らしたいのだ。


 俺はリリーさんを見つめる。

 申し訳ないけど、主戦力はこの子だよね。

 この子の働きが勝敗に直結することになるだろう。


 ───────《ステータス》───────

【種族】ツリードラゴン


レベル:30

神性:0

体力:84/84

魔力:67/67

膂力:76

敏捷:57

魔攻:61

魔防:75


【スキル】[スキルポイント:40]

・光合成Lv20

──────────────────────


 だだ余りさせておいたスキルポイントが鍵になるだろうか。

 40ポイントもあるのだから、肉塊を一撃で粉砕出来るスキルも期待したいところだけど、あれ? 40?


 俺は虚空を仰いで思い返す。

 40もあったか?

 俺の記憶では、確か30。

 レベルも35だった覚えが。


(ふーむ?)


 俺は今日の出来事について思い返す。

 楽しい思い出はさっぱりだけど、あぁ、そうか。

 黒カニをなんとか一体退治出来たのだ。

 俺はステータスをしげしげと眺める。

 黒カニって、相当経験値が高かったんだな。

 灰色を倒しても最近はほとんどレベルが上がらなかったのだが、それが5である。

 経験値的にも黒カニは灰色とは格が違うって感じだよな。


 で、んん?


 そう言えば、黒カニの退治には俺も貢献したよね?

 ということは?


 ───────《ステータス》───────

【種族】グリーンスライム


レベル:35

神性:0

体力:40/40

魔力:39/39

膂力:14

敏捷:16

魔攻:15

魔防:18


【スキル】[スキルポイント:24]

・光合成Lv25

・種子生成Lv15

・土壌改良Lv6

・木獣使役Lv1

・形状変化Lv1

──────────────────────


 ざっこ。

 

 そんな感想を禁じ得ないステータスだったが、おぉ?

 レベルが12も上がってる。

 能力の値についてはもはや何も言うまいだが、スキルポイントが24。

 かつて保有したことの無い量のポイントだ。

 もしかしてだけど、俺にも活躍する余地があったりするか?

 木獣使役を獲得できた時の再現と言うか。

 多量のポイントが必要なスキルを新たに獲得して、肉塊に目にものを見せてやれたりする?

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