14:……人間?
ということで、俺は久しぶりの遠征だった。
灰色さんの背後について、リリーさんと一緒にじゅるじゅるてってこ。
枯れ木の森を淡々と進んでいく。
(……どうかなぁ?)
俺はちょっと首をかしげる思いだった。
もう1時間ぐらい経ったのだが、今のところは何も変化は無し。
いつも通りの枯れ木の森が、いつも通りに広がっているのみだ。
正直、疑問に思えてきたのだった。
灰色さんの向かう先に巣などあるのかどうか?
俺たちは灰色さんの気まぐれな
(……どうしようか?)
リリーさんは飽きてきているようだった。
歩きながらに小さな小枝を拾っては捨てるを繰り返している。
俺はもう少し粘っても良かったが、これは切り上げ時だろうかね?
『リリーさん。じゃ、そろそろ……リリーさん?』
俺は不思議の思いでリリーさんを見つめることになった。
先ほどまでの退屈な様子は、今はどこにも無かった。
灰色の進む先に対し、大きなお目々をまん丸に広げている。
そして、
『あっ、リリーさん!?』
俺は驚きの声を上げることになったが、それはリリーさんがいきなり走りだしたからだ。
よほど興味をそそられるものを目にしたらしい。
灰色スライムを追い越して、前へ、前へ。
俺は慌ててその背に続く。
(な、なんなんだ?)
リリーさんは一体何を目にしたのか?
ほどなくして俺も気づくことになった。
あれは……
『家?』
少し近づくとよく分かった。
うん、家だな。
レンガ積みの古風で洋風な家屋。
1つでは無い。
大きさも様々のそれらが、枯れ木の合間に何棟も見える。
街とは呼べずとも村程度の規模はあるように俺には思えた。
(ま、マジで?)
俺は驚くと共に胸を高鳴らせることになった。
これはどうだ?
期せずしてのあれなのか?
『り、リリーさん! 人間! 人間がいるかも!』
俺が跳ね上がって叫ぶと、リリーさんも「きゅーっ!」と一緒に興奮してくれた。
まぁ、リリーさんは人間についてはよく分かってはいないのだけど。
一応説明はしたんだけど理解は難しかったようなのだ。当然、会いたいとも特には思っていないようだった。
今の反応は俺の興奮が伝染したってそれだけだろうね。かわいい。
ともあれ、俺の興奮は本物だった。
念願の人間がまさか目の前?
俺は興奮そのままに全力で家々に走り寄る。
だが、俺の興奮は近づくにつれ冷めることになった。
『……廃村か?』
どうにも生きた村には見えなかったのだ。
どの家も荒れ方は相当だった。
いや、明確に破壊されていた。
屋根や壁が無事な家はひとつとして無い。
どうにも俺が最初に目の当たりにしたものは、相当状態の良い方だったらしい。
中には、土台しか残っていないものもあった。
『……ふーむ』
俺は興奮を過去のものとして家々を見渡す。
残念ながら人間に会える可能性は無いだろうけど……なんでしょうかね?
この惨状は一体どういうことなのか?
咄嗟に思いつくのは地震だが、目に入る被害は空爆でも受けたのかってレベルだよな。
(そういう文明レベルの世界だったりするのか?)
可能性はあった。
この村自体は古式ゆかしい感じだが、俺の元いた世界だって生活水準の格差は地域で相当にあったからね。
この世界には空爆を実行出来る文明が存在して、この惨状はその文明によって引き起こされたとか?
まぁ、アイツらのせいじゃないよな。
俺は来た道を振り返る。
そこにはマイペースに這いずり続ける灰色さんがいた。
アレはともかく、同種であろう黒カニは間違いなく俺たちにとっては脅威だ。
ただ、俺の手助けがあったとしても、リリーさんがなんとか倒せるレベルではあるのだ。
人間がどうにか出来ないわけが無い。
多分だけど、この村の人々は人間同士の争いの結果、この村を捨てることになったんだろうね。
で、鬼の居ぬ間にと言うか、あの灰色たちがはびこることになったのだろう。
枯れ木の森が出来てしまうことになったのだろう。
まぁ、アテのない推測はともあれだ。
俺は『はて?』と周囲を見渡す。
あの子は?
リリーさんはどこに?
さっぱり姿が見えないのだが、まさか迷子になってしまったのかどうか。
俺は動揺することになったが、すぐにホッと安堵することが出来た。
どうやら勝手にお呼ばれしていたみたいだね。
廃屋の1つから、リリーさんはひょっこりと姿を現した。
良かった、良かった。
ただ、離れないようにと注意はしておく必要があるだろうけど……なに?
俺は注視することになる。
リリーさんはウキウキとして何かを引きずってきていた。
両手にはそれぞれ別のものがあった。
片手では丸っぽいものを、もうひとつでは棒っぽいものを掴んでいるようだが、
(……んん?)
俺は眉をひそめる的な気分だった。
見覚えがあるよな。
生物の授業とか、あるいは刑事ドラマでよく見る
つまりアレだ。
いわゆる人骨ってやつだね。
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