10:甲殻類のお客さん

『……ここでいいかな?』


 緑化した範囲のほぼ中央だ。

 俺はリリーさんと共にそこにいた。

 ひとつの種を植えようとしていた。

 木の種だ。

 人目を引くための最終兵器として、背の高い木にご登場願おうというわけだ。

 

 もったいぶってきたが、そろそろ良いかなってなったのだ。

 現状の俺のステータスはと言えば、


  ───────《ステータス》──────

【種族】グリーンスライム


レベル:23 

神性:0

体力:28/28

魔力:25/27

膂力:10

敏捷:12

魔攻:11

魔防:13


【スキル】[スキルポイント:0]

・光合成Lv25

・種子生成Lv15

・土壌改良Lv6

・木獣使役Lv1

・形状変化Lv1

──────────────────────


 こんな感じだった。

 大事なのは種子生成かな。

 Lv15となると、付与出来る特性もまたLv15。

 生育速度向上もまたLv15。

 

 まぁ、まだ全然レベルは足りないのかも知れなかった。

 人の目を引くほどの成長には、10年も20年もかかるのかも知れなかった。

 ただ、現状の成長の程度を確認する意味でも、俺は一度植えてみることにしたのだ。


 ちなみに、選んだ木の種類はセコイア。

 ビルより高く育つってことで有名なアレだ。

 スギの仲間のような感じがするので、成長の早さも期待出来るかな?


 生成はすでに終わっている。

 俺はゴポッと種を吐き出す。

 リリーさんは手慣れたものだった。

 パッパと穴を掘り埋めてくれて、はい。

 これで完了っと。


『楽しみだなぁ……』


 わくわく感は相当だった。

 この種は一体どんな成長を見せてくれるのかね?

 リリーさんも楽しみにしてくれているらしい。

 埋め終わった場所を尻尾をフリフリしながらジッと見つめている。


 ともあれ、あとは待つだけだ。

 緑を広げたり、レベルを上げたりしつつに、ただ待つだけ。


(順調だなぁ)


 俺はちょっと違和感を覚えてしまうのだった。

 なんの邪魔も無く、ただのんびりと成果を待つことが出来る。

 前世の俺には、まったく期待出来なかった順風満帆さだ。


 なにか罠でもあるんじゃないか?

 そう疑ってもしまうのだけど、前世でアレほど苦労したんだしね。

 きっとご褒美だった。

 前世で苦労した分、今回は願っては叶うような一生を送ることが出来るに違いなかった。

 ご褒美と言えば、今日は俺たちの幸先を祝うかのような雲一つの無い晴天だ。

 花畑を散歩すれば、きっと素晴らしく心地良いに違いない。

 俺は笑みの心地でリリーさんに話しかける。


『ねぇ、リリーさん。今日は作業は無しで……リリーさん?』


 俺は首をかしげるような感じになっていた。

 原因はリリーさんの様子だ。

 リリーさんは今、埋めた種を見つめてはいなかった。

 何故か、遠くを見るように虚空を仰いでいる。


 俺は自然とリリーさんの視線の先を追うことになった。

 そこには枯れ木の合間に青空が見えるだけなんだけど、な、なに?

 何も無いよね?

 なんか妙に不安にさせられるんだけど……って、んん?


 俺は目を凝らす。

 なんか、こう……何?

 青空を背景に、黒点のような物が1つ見えた。

 それは徐々に大きくなりつつあったけど、近づいてきているのか?

 詳細な姿がだんだんと明らかになってきた。

 鳥でも飛行機でも無い。

 空を飛んでこちらに近づきつつあるアレは……


『か、カニ?』


 そうとしか見えなかった。

 カニ。

 ハサミをぎっちょんぎっちょんさせる、くだんの甲殻類。

 食べたら美味しいとかなんとかだが、俺に経験は無い。

 ちなみに飛べないはずだが、う、うーん?

 俺が不勉強なだけだったりするのか?

 

 とにかく、カニだ。

 妙に黒くてブヨブヨして気色悪い感じはするが、間違いなくカニだ。

 ハサミの目立つ甲殻類が、空を裂いてこちらに近づいてきている。


 唖然としている内に、間近で仰ぎ見ることになった。

 で、でかいな。

 奥行きで50センチ、横幅で1メートルぐらいはあるか?

 一見するところは脅威感がすごい。怪物にしか見えない。

 でも……ど、どうだ?

 色合いは似ているが、あの灰色の同類なんてことがあるか?

 これが俺たちの敵とか、そんなことある?

 きっと違うはずだった。

 俺たちの幸先さいさきを祝ってとかね?

 現地住人を代表して、俺たちを祝いに来て下さったとか……あ、違う?


 なんか既視感。

 黒カニさんは、恐ろしいスピードで俺たちの横を抜けていった。

 そして、花畑へダイブ。

 大きなハサミにものを言わせ、畑荒らしに精を出して下さるのでした。


 そんなことだと思ったけどさ。

 ご同類だろうね、うん。


「きゅ、きゅーっ!!」


 最初に動き出したのはリリーさんだった。

 お気に入りの花畑が荒らされて、いてもたってもいられなかったらしい。

 はるかに大きい相手ではあるが、一目散に迎撃に向かう。

 

 俺もまた同様だ。

 慌てて這う。黒カニへと向かう。

 正直、ためらいはあった。

 灰色とは比べものにならないほどに巨大で、さらには不気味な異様であるのだ。 

 関わらずにすむのであれば是非ともその道を選びたかった。

 ただ、黒カニが手にかけているのは、俺たちが手塩にかけて育てた緑の園なのだ。

 俺はリリーさんに続く形で、黒カニに接近する。

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