8:ツリードラゴン
足を前に投げ出しているポーズのものを良く見たことがあるが、まさにそれだった。
テディベアだ。
15センチほどの大きさの、木彫りのテディベア。
まぁ、もちろんベアーでは無い。
背中には羽のような一対の葉っぱがあって、これがまずクマさんでは無い。
顔もクマさんでは無い。
どこか犬っぽい鼻の長い顔つきだ。
しかし、うん。
かわいい。
黒黒とした大きなお目々がついていてかわいい。
不思議そうに小首をかしげていて、そこが死ぬほどかわいい。
(……んぎゃー)
愛玩動物来ましたね、これ。
守りたい。
守り抜きたい意思が確かに俺に芽生えたのだった。
お父さんが君を灰色から守って上げますよー? って感じだけど……ふーむ?
ちょっと疑問が芽生えたのだった。
生まれてきてくれてありがとうって伝えたいのだけど、出来るの?
スキル名は木獣使役なのだ。
なにかしら意思を伝える手段がなければ、使役なんて出来はしないと思えるけど。
他にスキルを獲得しなければならないのかどうか。
分からなかったが、とにかく念じてみる。
『き、聞こえますかー?』
我が心の声よ届けーって感じだけど……ど、どう?
俺が見つめる中で、彼ないし彼女は動いた。
一度ぴくりと体を震わすと、俺をしっかりと見つめ返してきた。
(……にぎゃー)
かわいい、やばい。
語彙力が失われそう。
やばい。
『よ、よろしく! これから一緒にがんばろうね!』
絶賛歓迎の意思を伝えさせてもらう。
すると、ツリードラゴンさんはこくりと頷きを見せてきた。
かわいい。
というのはともかくとして、かなり知性が高いっぽい?
どうにも俺の言葉をしっかり理解している雰囲気があるよな。
使役というスキル名だが、飼い主とペットって関係性にはならない予感があった。
パートナー? 相棒? ともかく
もう人間なんていらなくね?
そんな考えが一瞬頭をよぎることにもなったが、それは違うか。
2匹ではやはり寂しいところはあるのだ。
あと、この子だ。
この子のかわいさを是非とも多くの人々と共有したかった。
あまねく人々にこの子のかわいさを届けたいよな、うん。
(がんばろう)
俺は緑の園を作る決意を一層固めるのだけど……あ、そうだ。
俺はツリードラゴンさんを見つめる。
この子とはきっと長い付き合いになるし、そうなると必要だった。
名前だ。
呼びかけるのに「おい!」とか「お前!」では、前世の俺の境遇をほうふつとさせるので無論無しである。
ちゃんとした名前を愛情をもって呼んであげたいよね。
しばし考える。
この子にふさわしい名前。
ツリードラゴン。
ツリードラゴンの……うーむ。
あ、これが良いかな?
『君のことだけど、リリーちゃんって呼んでもいい?』
かなりのところ、ツリードラゴンのリーの部分に引っ張られた命名だった。
ただ、確かリリーは花の名前であったのだ。
可愛らしくもありで、俺にしては良い発想ではないだろうか?
そして、この子も受け入れてくれるらしい。
こくりと頷きを返してくれた。
よーしよし。
じゃあ、この子はリリーちゃんだ。
ツリードラゴンのリリーちゃん。
『じゃあ、リリーちゃん。ついてきてもらっても良い? 周囲を案内したいから』
この水辺には近づかないようにだとか、ここには危ないくぼみがあるだとか。
教えておきたいことはそれなりにあるのだ。
リリーちゃんは頷いた。
そして、テコっと立ち上がったのだけど、マジで可愛いなぁ。
立ち上がると、ちょっとずんぐりむっくり。
お手々にお足がチャーミングに大きい感じ。
しかし、うん。
俺はリリーちゃんを不安の目で見つめることになる。
ずんぐりむっくりでかわいいけれど、ち、小さいなぁ。
身長は15センチ。
お人形さんみたいと言うべきか、ズバリそのもののサイズ感だ。
(大丈夫かな?)
あの凶悪な灰色と出会って、この子は無事でいられるのか?
まぁ、そこは俺の覚悟の見せ所だった。
灰色が何匹かかってこようが、俺は絶対にこの子を守り抜くのだ。
『……テケ……テケ……リ』
そして、俺の覚悟が試される時は早速やって来たらしい。
『ひ、ひぃ!?』
思わず悲鳴を上げてしまったが、俺は意思を強くして
枯れ木の合間から現れたのは、あの灰色だった。
別個体だとは思うが、アレとそっくりそのままのグレースライムだ。
(よ、よし!)
俺には成功体験があるのだ。
彼岸の岸辺まで追いやられることにはなったが、確かに一度アレに勝っている。
立ちふさがると、灰色は早速俺を敵だと認識したようだった。
『リ……リ……』
変な音を立てながらに収縮する。
飛びかかってくる前兆だ。
負けるつもりなど毛頭無い。
俺もまた収縮し、迎撃するための勢いを蓄え……って、あら?
『り、リリーちゃん!?』
じっとしているように言わなかったのが悪かったのかどうか。
リリーちゃんは俺の脇を抜け、灰色スライムに近づいていった。
その様子は、興味本意と言うべきか。
好奇心のままに近づく子犬さながらであった。
だが、その好奇心の代償は大きい。
とてつもなく大きい。
標的が変更されたらしい。
灰色はリリーちゃんへと勢いよく飛びかかった。
『リリーちゃん!!』
叫んだが、すでに遅い。
避けることなど出来るはずもなく、リリーちゃんは灰色の一撃を正面から……正面から迎撃?
そんな感じだった。
リリーちゃんはその大きなお手々をぶんっ! と横に一閃。
グシャ! と音がして、灰色は見事に吹っ飛んだ。
そして、ジュワである。
灰色はピクリともせずに虚空に溶けるように消えた。
(……えぇ?)
呆気にとられつつ、俺はとあることが気になった。
そう言えばだけど、そうね。
ステータス。
俺にはあるそれが、この子にはあるのだろうかね?
───────《ステータス》───────
【種族】ツリードラゴン
レベル:5
神性:0
体力:49/49
魔力:35/35
膂力:40
敏捷:25
魔攻:30
魔防:42
【スキル】[スキルポイント:8]
・光合成Lv2
──────────────────────
ありました。
自然と頭に浮かんできました。
ちなみに俺のはですが、
───────《ステータス》───────
【種族】グリーンスライム
レベル:13
神性:0
体力:5/18
魔力:9/17
膂力:6
敏捷:7
魔攻:6
魔防:8
【スキル】[スキルポイント:0]
・光合成Lv15
・種子生成Lv6
・土壌改良Lv6
・木獣使役Lv1
──────────────────────
比べると、なんというかその、うん。
り、リリー……さん?
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