5:初バトル(醜)
突如の
だって……えぇ?
お仲間?
俺のお仲間の登場なのか?
心臓が無いであろう我が身だが、ドキドキが止まらないような心地だった。
人間では無い。
だが、仲間が出来てしまうのだろうか?
寂しさを分け合えるような存在が、俺に出来てしまうのだろうか?
(ど、どうしよう?)
とにかく、必要なのは挨拶だろうか。
声を出す機能は無いため、代わりにペコリ。
お辞儀の真似事として、前向きにかたむいて見せる。
俺なりに友好の意思を示したつもりだったが、それが彼ないし彼女に伝わったのかどうか。
灰色さんは、不意に妙な音を立てた。
「……リ……テケ……リ……」
ちょっと驚くことになった。
俺とは別種なのかね?
グレースライムさんには声なのか音なのかを発する能力があるようだった。
しかし、本当に気になるのは何のつもりの声だか音なのかってことだよな。
彼もまた友好を示してくれたのであれば嬉しいところだった。
ただ……あら?
灰色さんは動き出したが、俺に近づいてくる様子は無かった。
じゅるじゅると俺の横を通り過ぎていく。
俺にはまるで興味は無い。
どうやらそうらしく、俺は正直がっくりだった。
どうにもアレだ。
仲良くなんて望むべくは無いらしい。
しかし、なんだろうか?
俺は不思議の思いで灰色さんを見つめる。
不意の登場だったが、彼は何のつもりでここに現れたのか?
答えはすぐに察することが出来た。
灰色さんは雑草畑へと向かっているようなのだ。
緑の気配を感じてここに現れたのだろうか?
だとすると、これは悪くないことであるように俺には思えた。
緑化に励んだ甲斐があったと言うべきか。
もちろん人間とは違うが、生き物の気配がそこにあるというだけで寂しさはやわらぐに違いないのだ。
俺が見つめる中で、灰色さんは雑草の緑に到達する。
周囲はどこまで広がるとも知れない枯れ木の森であり、この緑は彼にとって久しぶりのものであるだろう。
是非、
そんな気分で俺は微笑ましく灰色さんを見つめる。
だが、
(……へ?)
俺はすぐに温かな気持ちを忘れることになった。
だって、うん。
なにかおかしいのだ。
雑草の緑に妙な変化が現れていた。
灰色さんが触れると、雑草はみるみる
吸収?
そんな雰囲気だ。
雑草の生気だかを、灰色さんは吸収しておられるのでしょうかね?
よく見ると、彼の這った跡もおかしい。
土壌改良によって茶色になっていた地面なのだが、彼の通った跡ではもとの灰色に戻ってしまっていた。
(……うん)
俺は理解するしかなかった。
灰色さんに悪意があるかどうかは分からない。
ただ、間違いなく俺と
(に、にぎゃぁああっ!?)
俺は悲鳴だった。
そして、いてもたってもいられずに駆け出す。
意思の疎通は出来ない。
となると、肉体言語しかなかった。
俺は灰色さんに肉薄する。
押し出すようにして、雑草の緑から遠ざけようとする。
だが、これが灰色さんの逆鱗に触れたのかどうか。
灰色さんはなんか小さくなった。
収縮した?
そして、バネ仕掛けのようにして……ぐべっ。
俺は期せずして学生時代を思い起こすことになった。
ラグビー部でもないのに、背後からタックルを受けて笑えない怪我を負ったことがあったのだ。
衝撃はその時と瓜二つだった。
視界がきれいグルリとしたこともそっくりだったが……え?
攻撃?
これ、俺攻撃されました?
(す、ステータスっ!)
思わず確認することになる。
俺には体力があるのだ。
どんだけダメージを受けたのか、あるいはどれだけ
おおいに気になったが、その結果は、
───────《ステータス》───────
【種族】グリーンスライム
レベル:11
神性:0
体力:15/16
魔力:4/15
膂力:5
敏捷:6
魔攻:5
魔防:7
【スキル】[スキルポイント:4]
・光合成Lv15
・種子生成Lv6
・土壌改良Lv6
────────────────────
ちょっとホッとすることになった。
衝撃ほどのダメージは無いようだ。
この分であれば三途はまだまだ遠い。
ただ、灰色さんはまだまだやる気のようだった。
再び収縮する。
コイツの息の根を止めてやる。
そんな意思しか感じられないのであり、俺は決断を強いられるのだった。
(や、やるしかない?)
暴力には甘んじるだけの前世だったが、今回はそういうわけにはいかないらしい。
彼に理性は期待出来ない。
命までは奪われないという楽観はきっと通用しない。
(よ、よし!)
気合を入れ、そして真似をする。
収縮してみる。
勢いを溜め込んでるという感覚だった。
先手は灰色さんだ。
飛びかかってきた。
俺は慌てて応じる。
溜め込んだ勢いを解放し、灰色さんを迎撃する。
(ぐえ)
正面衝突ということで、先ほどよりも衝撃は強かった。
ダメージは2。
おそらくだが、負ったダメージは灰色さんの方が上だろう。
俺の方が後手だったはずだが、灰色さんの方がより遠くに吹っ飛んでいた。
レベル差でもあるのかどうか。
ともあれ光明だ。
これはきっと勝つことが出来るし、あるいは灰色さんも敗色を感じ取って逃げ出してくれるかもしれない。
ただ、灰色さんにそのつもりは無いらしい。
再び収縮して攻撃態勢をとってきた。
あとは、うん。
生死をかけてのぶつかり稽古だ。
俺のログでは色々とスキルが提案されていたみたいなのだが、気にしている余裕は無かった。
ドシャグシャと必死で灰色さんとたわむれることになる。
そして、
(お、おぉぅ?)
俺がふらふらしながら見つめる中で、灰色さんは動きを止めた。
んで、じゅわ?
溶けるようだった。
灰色さんは黒い霧のようになって消えた。
(……はひぃぃ)
俺はベタリである。
緊張から解放されて、その場でベタリと広がることになった。
疲れた。
よく分からないけど、めちゃくちゃ疲れた。
(す、ステータス)
ちょっと確認する。
一連の攻防で、俺は一体どれほどのダメージを受けたのか?
───────《ステータス》───────
【種族】グリーンスライム
レベル:13
神性:0
体力:2/18
魔力:6/17
膂力:6
敏捷:7
魔攻:6
魔防:8
【スキル】[スキルポイント:8]
・光合成Lv15
・種子生成Lv6
・土壌改良Lv6
──────────────────────
まぁ、うん。
見事に死にかけてましたね。
(……ひぃ)
恐怖しかなかった。
ほ、本当、マジでやばかったな。
なんかレベルが上がってるし、灰色のあんちくしょうは良い経験値を持っていたのかもしれなかった。
でも、2度と会いたくないな。
あの灰色のいないところで、ひっそり静かに一生を過ごしたい気分だ。
ただ……俺は雑草畑を見つめる。
被害は最小限と言っても良いだろう。
偶然だけど畑は主戦場にはならなかったのだ。
灰色になってしまった土や、しなびてしまった雑草はごくわずかだ。
そこは良かった。
そこは良かったのが、そうである。
あの灰色の目的って、間違いなく雑草だったよね?
緑がある場所にあの灰色は現れる。
そんな予想が成り立つのだった。
(……また来るか?)
あの灰色は唯一無二の存在で、もう世界中を探したってどこにもいない。
そうであれば嬉しいのだが、それは楽観が過ぎる気がするのだ。
また来る。
また戦うハメになる。
そう思っておいた方が良さそうだった。
緑化をあきらめ、1匹の寂しい一生を甘んじて受け入れる。
そうすれば2度と会わずにすむかもだが、それは無しなのだ。
となると、うん。
至急対策を考える必要がありそうだよな、うーん。
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