4:灰色のお客さん

(……ふふふふふ)


 俺は思わずほくそ笑むことになった。

 緑地化を志してから早5日。

 それなりにそれっぽくなってきたのだ。

 俺は倒木の上から周囲を見渡す。

 大体テニスコートの半面ぐらいだろうか。

 その程度の面積が、雑然とした緑に覆われていた。

 

 俺はひとつ頷く。

 今日は穏やかな好天だけど……良い。

 いいね。実に良い。

 緑が眩しくて素晴らしくて癒やしだね、うん。


 これが5日をかけての俺の成果だった。

 スキルを発展させた上で得ることになった成果だ。


 ───────《ステータス》───────

【種族】グリーンスライム


レベル:11

神性:0

体力:15/16

魔力:4/15

膂力:5

敏捷:6

魔攻:5

魔防:7


【スキル】[スキルポイント:4]

・光合成Lv15

・種子生成Lv6

・土壌改良Lv6

 ────────────────────


 やはり魔力を使うスキルは経験値が多かったらしい。

 順調にレベルは上がり、俺は多くのスキルポイントを得ることになった。

 そのポイントの多くは、スキル光合成につぎ込まれた。

 結果はかなりのものだった。

 5日前は、魔力を1回復するのに20分かかっていた。

 それが今では10分だ。

 単純に倍の効率になっていた。


 そして、種子生成と土壌改良もそれなりにレベルアップしていた。

 もちろん、それぞれで進歩があった。

 消費魔力はどちらともに軽減。

 土壌改良に関しては、一連の動作で0.6程度の消費になっていた。

 種子生成に関しては光合成並に劇的だった。

 ドクダミで2程度必要だったのが、今では1だ。

 生成時間も60分ぐらいから30分に短縮されている。


 総じて、緑化の効率は3倍以上にはなっただろうか?

 正直、まだまだ休憩時間の方が長く、もどかしいところは確かにあった。

 でも、5日でこれだ。

 あと10日も経てば、魔力が足りないから休むという状況は無くなるだろうかね?


 種子生成に関してはまだ成果があった。

 以前は雑草しか作れなかったが、多くの植物を選択出来るようになったのだ。


 多様な花々に、スギやブナなどの樹木も選べるようになった。

 重要なのは樹木だろうか。

 大樹を育て上げれば、人目を引くことが出来るに違いないのだ。

 人間をおびき寄せる目的に大きく貢献してくれることだろう。


 ただ、俺はとりあえずのところ木の種を生成するつもりは無かった。

 理由は単純。

 育つのに相当の時間がかかると予想出来るためだ。


 俺は雑草畑を眺める。 

 雑草はこうしてあっという間だったのだ。

 生育速度向上の特性を付与していることもあるだろうが、3日も経つと人間の膝ほどの大きさに育っていた。

 

 ただ、木はまさかこうはいかないはずなのだ。

 詳しくは知らないが、5年も10年もかけて、人の背丈を超えていくのが樹木であるはずだった。


 さすがに、うん。

 俺は5年も10年も孤独を味わい尽くすつもりは無いのだった。

 耐えきれそうに無く、またグリーンスライムの寿命がそこまでもつのかという不安もある。


 そこで重要なのが、スキル種子生成のレベルが上がると、特性のレベルも上がるという事実だ。

 スキル:種子生成のレベルをどんどん上げて、高レベルの特性:生育速度向上を付与する。

 これが俺の考えだ。

 樹木を育てるのは、種子生成のレベルを十分に上げた後にするつもりであるのだ。


 ということで、よっと。

 俺は倒木からぴょんっと飛び降りる。

 早速、作業だった。

 早期に孤独から脱するためには、レベルアップと、それによるスキルポイントの獲得が不可欠だ。

 よって、今日もまた土をもぐもぐして、雑草でも作りまくって……って、まぁうん。

 それで良いのだ。

 レベルアップを目指すのであれば、それで良い。

 

 ただ、雑草に向き合うのもこれで5日目なのだ。

 正直、飽きました。

 俺は雑草畑に背を向ける。

 今日は別の作業をするつもりだった。

 まぁ、やること自体は同じだ。

 土壌を改良して、種を作り、植える。

 だが、雑草を茂らせるつもりは今日は無いのだ。


(小麦かねぇ?)


 種子生成のレベルが上がった結果、生成出来る種子の種類はかなり増えた。

 その中に、小麦の姿もあったのだ。

 俺が何故小麦を選ぼうとしているかと言えば、それは俺の目的が大きく関係している。

 将来的に人間がここに来てくれる予定なのだ。

 せっかく来てくれるのであれば、多少のもてなしはして上げたいところだった。

 パンなんて焼けるようになるかは分からないが、多少の腹の足しになるようなものは用意してあげたかった。


 ただ……うーむ。


 麦畑用として、俺は土をもぐもぐする。

 そして、同時に首をかしげる的なノリで体をかたむける。

 これ、雑草ほどに簡単にはいかないよな。

 育てるのがそう簡単とは思えない。

 放置して大丈夫なものなのかどうか?

 麦踏みという言葉を聞いたことがあり、また好天が続けば水をあげる必要もあるだろう。


(む、難しいよな)


 俺はスライムだ。

 当然、手足は無い。

 農作業への適正なんてあるはずも無い。


 考える必要はありそうだった。

 農業的な作業に励むとして、俺はどうしたら良いか?

 親切なログは、すでに俺に様々なスキルを提案してきていた。

 ひとまずは土作りに専念するとして、魔力が尽きた後にでもゆっくり眺めるとしようか……って、ん?


(……へ?)


 俺はもぐもぐを中止して固まることになった。

 異変があったのだ。

 かなり大きな異変だ。

 

 なんかいた。


 枯れ木の森から、何かがひょっこり這って来ていた。

 アレは……スライム?

 そう見えた。

 大きさはそっくり俺と同じぐらいだ。

 バレーボール大と言うか、直径30センチぐらいか?

 ただ、色は違う。

 黒に近い灰色。

 俺がグリーンスライムなら、アレはグレースライムって感じか?

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