第78話 待ち伏せ
私達が乗り込んだ車両には、乗客は一人も乗っていなかった。平日ではないにしろ、人の移動が多い夕方のこの時間帯にしては、不自然な光景だった。
「あれ……?」
そんな車両の中に、私は顔見知りの姿を見つけた。
「フサ子さん」
彼女の方も私を見ていた。私がこの車両に乗り込むことを見越していたかのように、こちらへと近づいてくる。
「待ってたわ」
彼女は私の当てずっぽうな推測を、肯定する言葉を述べた。
「……どういうことでしょうか」
「あんたが何時何分のどの電車のどの車両に乗るのか。そんなことを予測計算するのなんて、レプレプには朝飯前なのよ」
「はあ」
コツコツコツと、ヒールの音が近づいてくる。
「人払いも完璧。この車両には誰も乗ってこないわ」
この間ヨネ子ちゃんが言っていたような、誘導電波的なものを使ったのだろうか。レプレプ星人は支配することが生き甲斐というだけあって、他者をコントロールする術を色々と持っているようだ。なんだかすごく、エイリアンっぽい。
「悠里ちゃんに、一体何のご用でしょうか」
小首を傾げて質問する八幡ちゃん。彼の声に、フサ子さんの顔がちょっとだけ強張った。
「べ、別に嫌なことはしないわよ。私だって……好き好んで地球人と接触を持ちたいわけじゃ、ないんだからね……!」
「えっと、じゃあなんで……」
「とりあえず座んなさいよ」
フサ子さんはドカッとロングシートに腰を下ろすと、隣の席をバシバシ叩いた。ここに座れと指示しているようだ。
「……ヨネ様からのご命令なの。あなたとお喋りしてきなさいって」
「ヨネ子ちゃんが?」
「……こ、これ」
「ん……?」
私はとりあえずフサ子さんの隣に腰を下ろした。すると彼女は、一本の缶ココアを私に差し出してきたのだった。ホームの自販機で買ったのだろうか。缶はとても温かい。
「…………その……あれよ。ヨネ様が……こういう時には手土産を持っていくのが、礼儀だと言っていたから……」
「ああ。ありがとうございます」
言い訳するようにモゴモゴ話すエイリアンの隣で、私はありがたくココアを頂くことにした。プルトップを開けて間もなくドアが閉まり、ゆっくりと電車が発車する。
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