第66話 時を失ったその先
「悠里さん、一馬さん。お二人は時間球を見ることができるのでしょう? だったら体感されているでは? この地球の時間は今、加速されすぎている」
私と秋月くんは、弾かれたように目線を上げた。
「加速された世界の中で時を失うことは、思考する時間を失うということ。思考しない人々は語彙を失い、言葉を失い、感情の表現方法を失い、最終的には自我をも失うのです」
初めて秋月くんの家に遊びに行った、あの夜のことが脳裏に浮かんだ。夜の公園で聞いた秋月くんの過去の話を思い出す。思考することを止めて感情に振り回されていた彼は、澱んだ時の中にいた。
今ヨネ子ちゃんが話したことは、まさにあの時の秋月くんが体験したことなのだろう。幸い彼は、自我を失う前に澱みから抜け出すことができたのだ。
「自我を失った人々は、他者との共感能力も失います。個人がそれぞれ孤立する。そんな状態に陥った人々をレプレプが操るのなんて、とても
秋月くんは今何を考えているのだろう。怖い顔はしていないけれど、数式を解いている時のような表情でもない。オレンジ色のモヒカンの下の眉間には、深い皺が刻まれているのだ。
「私はこの流れを止めたい。地球は地球人のみならず、多くの異星人にとっても住みよい星です。豊かな自然と色彩に溢れた、美しい星です。レプレプ星人としてではなく、純粋に一生命体として、私もこの星が好きなのです。住めなくなってしまうのは……嫌なのです」
ヨネ子ちゃんの声に穏やかさと余裕が戻ってきた。
「暗い気持ちにさせてしまいましたね。ごめんなさい。けれど今日、あなた方と出会えて良かった。希望はあるな、と確信できました」
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