第65話 支配の方法

「レプレプ星人は、母星を破壊した歴史を顧みることはありませんでした。私達は新たに支配して完全に自分たちの物にした惑星でも、同じことを繰り返してきたのです――星を中心核ごと爆破させたり、核兵器の使いすぎで生命が育まれない土地に変えてしまったり…………愚かな行為を繰り返してきました」


 子供の声で語られるにしては、凄惨過ぎる内容だった。ヨネ子ちゃんは可愛らしい声で、まるで絵本でも読んでいるかのように話を続けた。


「そして遂に、やっと……今までの自分達のあり方を変えなければいけないことに気付いたレプレプ星人の一派が出てきたのです」


 ヨネ子ちゃんが私を覗き込むように、小首をかしげた。


「……どうか私を怖がらないで。私は八幡くんやジョージくん達のように、友好的に異星に住み着く種から学びたいと思っているのです」


 私、そんなに顔に出してたかな。確かに今の話を聞いて、肝が冷えたのは本当だ。ヨネ子ちゃんはSF小説の朗読をしたのではなくて、現実に起こった史実の説明をしたのだから。


「新たにでてきたレプレプ星人の一派っていうのは、異星支配をしない派閥ということか?」

「いいえ」


 秋月くんの問いに、ヨネ子ちゃんは首を振る。


「レプレプに支配しないという行動の選択肢はありえないのです。私達は支配する種。支配しないと存在できない種。だから住み着いてしまったこの地球も、何らかの形で支配したい――けれどそこに、戦争を介入させずに、非戦闘のやり方を模索する……それが私が所属するレプレプの一派です。『穏健派』と呼ばれています」


 支配なんて考えずに、八幡ちゃんやジョージくんのようにただ地球人の中に混ざって平穏に暮らせばいいのに。私には遠く理解の及ばない理屈だった。しかしヨネ子ちゃんの様子を見るに、『支配する』という行為を外すことは絶対にゆずれないのだろう。反論したい気持ちもあったが、私は黙って彼女の言葉の続きを待つことにした。


「穏健派は地球の主導者達の中に紛れ込み、大規模な戦争が発生しないように世界の均衡を保とうと画策しています。今この瞬間も」

「……いつからだ? その穏健派が活動を始めたのは?」

「地球に古代文明が発生した頃には既に」

「全然うまくいってないじゃないか」


 鼻で笑った秋月くんに、ヨネ子ちゃんは初めて顔から笑みを消した。


「そんなことありません。近代に起こった大きな二つの世界大戦……あれは我々レプレプ穏健派がいなければ、もっと大規模な戦闘に発展していました。その後世界を二分した冷戦だって……あれは本当に危機的な状況だったんですよ」


 ヨネ子ちゃんは言い終えると、私にも必死な表情を向けてくる。


「本当です! いいですか? 我々穏健派と敵対する派閥は『過激派』です。レプレプ過激派。彼らは元来のレプレプ星人の本能に正直すぎる。武器商人と銀行家に儲け話を流し、科学者をマッドサイエンティストの道へとそそのかす。破滅の方向へ人民を扇動するのです。戦地を拡大させ、兵器の威力を高め、真偽が分からない情報の波によって人々の感情を掻き乱す! 彼らの力を削ぐように我々が働かなければ、地球が私の母星と同じ結末にたどり着く将来まで、そう遠くないでしょう」


 言葉を一気に押し出した後、自らを落ち着かせるようにヨネ子ちゃんは深呼吸をした。


「……我々はまた同じ過ちを繰り返してしまう。星をまた一つ、破壊してしまう」


 絞り出したようなこの言葉を乗せた声は、小さかった。私達くらい顔を寄せ合っていなければ、ステージから聞こえてくる陽気なクリスマスソングに殆どかき消されてしまうだろう。

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