第27話 インパクト
「秋月くんって、妹いるんだね」
「ああ」
のんびりした歩調で歩き出しながら、私達は雑談する。
時間球を集めるようになってから、二人並んでの登校はすっかり日常の風景になっていた。八幡ちゃんもたまに一緒に歩くけど、彼は今日みたいに空を飛びたくなることがあるので、朝は二人きりのことが多いのだ。
「二人兄妹? 妹さんは何歳? ちなみにうちはね、三人きょうだいで、私が真ん中。大学生のお兄ちゃんと中学生の妹なんだけど、妹の反抗期がちょっと歪んでてさあ。今朝もね……」
秋月くん相手だと、ついつい喋り過ぎてしまう。のんびりペースのとりとめのない話でも、ちゃんと最後まで聞いてくれるからだ。「だからどうしたの?」「つまり言いたいことは?」と、中断することは決してしない。
「相当ナメられてんなぁ」
「やっぱり? そうだよねー。まあいいけどさ。いつかこんなに優しいお姉ちゃんで良かったって、思ってくれればいいんだ」
「今のうちに少しは喝入れとけ。性悪女になるぞ」
「え。そうかな……性悪女か……言われてみれば、既になりかけてる気が……嫌だな。でも私が喝入れても、笑ってスルーされそう。秋月くんがやったら……めちゃくちゃ迫力ありそうだね」
真正面からメンチ切られただけで、私なら泣く。きっと秋月くんの妹さんは彼に従順だろう。
「うちの妹らは、俺の雷なんて慣れっこだからな」
短い彼の言葉から、私は興味深い一音を聞き取った。
「あれ、妹って一人じゃないんだ?」
「ああ」
「何人きょうだいなの? 秋月くんが一番上?」
途端に興味がむくむくと湧いてきて、私は質問を浴びせた。
秋月くんファミリー、どんな人達なんだろう。こんなパンクな見た目で頭の切れるクセ強の息子のいる一家とは、どんな顔ぶれなのだろうか。
「俺が一番上だ。下に妹が四人、弟が二人」
「え? 多いね。七人兄弟? すごっ」
「うち一組が双子。一番下はまだオムツはいてる。なかなかオムツ外しがうまくいかねえ」
「えっ? 随分年齢差あるんだね。でも、そうか。七人だもんね」
びっくりして足が完全停止した。
秋月くんはそんな私の反応に、ニヤリと笑みを浮かべて追い打ちをかけてきた。
「双子以外は全員父親が違う。母親と最新の父親は家に住んでない。どこにいるのかすら分からねえ。ばーちゃんと叔父さんが常に家にいる大人だ。たまに近所に住んでる二番目の父親が様子見に来る。二番目の親父が一番良識のある、最もマトモな大人だな」
「そうなんだ」
どんな言葉を選ぶべきか分からなくて、私は口をぱくつかせた。秋月くんは気を悪くするだろうか。少しだけそんな心配をしたが、彼が悪戯そうな笑みを浮かべた表情を崩すことはなかった。
「母親は救いようがないほどイカれてるけど、子供たちはそうでもない。ばーちゃんと叔父さんと二番目の親父のおかげだな」
「そっか」
「引いたか」
「そんなことないよ!」
ぶんぶん頭を振って否定した。引いてない。びっくりしたけど、引いてない。今まで聞いたことのない程複雑そうな家庭だが、『子供はそうでもない』という言葉は真実だろう。秋月くんを見ていれば分かる。
「びっくりしただけ。そうだ、今度遊びに行かせてよ。秋月くんのおうち」
引いてないことを知ってもらいたくて、彼に少しでも失望されるのは嫌で、私はそんな提案をした。
「俺んち?」
「そう! あ、うちにも来てみる? 何のインパクトもない一家だけど」
「まあ、俺の家ほどインパクトのある家庭はねえよな」
「あっ! そんなつもりでは……!」
「分かってるって」
慌てた私の様子に、秋月くんはいつものように声を出して笑い出した。良かったぁ。
「じゃあ今度な。バイトがない暇な日にでも」
「うん。ありがとう」
またゆっくりと学校に向かって歩き出した。この時、私達はお互いの家への訪問について、具体的な日程は決めなかった。しかしその日は、思いの外早く来ることになるのだった。
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