第15話 エイリアン

 二つ目のキッズバーガーに幸せそうにかぶりつく、パカパカ星人・八幡はちまんちゃんと高校生二人の対話が続いた。


「パカパカ星人とは何だ?」

「あなた達地球人からすると、異星人エイリアンですね。パカパカ星は地球から結構遠いですよ。地球人は僕たちの母星を、まだ見つけられていません」


「八幡ちゃんは、何歳なの?」

「難しい質問ですね。地球と宇宙とパカパカ星での時間の流れは、それぞれ全く違いますから。でもボクが地球に来た頃、日本では多くの男性のヘアスタイルはちょんまげでしたから、少なくとも悠里ちゃん達より長く生きていると思いますね」

「えっ。そうなんだ……」


「なんで日本人の子供の見た目をしている?」

「パカパカ星人は本来、物質の身体を持ちません。でも地球では肉体を持ったほうが楽しいので、こんな風に皆さんと同じ外見を作るんです。ボクが子供の姿なのは、この身体が身軽で動きやすいし、チヤホヤしてもらえることが多いからです」


「じゃあ、さっき店員さんに姿が見られなかったのは?」

「特定の誰かにだけ見られないようにしたり、見られるようにしたり、そういった調整もできるんですよ。便利でしょう? でもこういうことができるのは、パカパカ星人だけじゃないですよ。他の異星人も、できる種は多いです」


「ちょっと待て。他の異星人?」

「はい」

「パカパカ星人だけじゃないの? 地球にやってきてるエイリアンって」

「説明書に書いてあったでしょう? 他にも沢山の星から来てますよ。地球の皆さんは、あまり気づいてないですけどね」

「へえ。そうなんだ。なんだかロマン感じちゃうね。ねえ、秋月くん」

「……そうだな」


「じゃあ八幡ちゃんの他にも、仲間のパカパカ星人が近くに住んでるの?」

「いえ。ボクは地球に唯一残留したパカパカ星人なんです」

「どういうことだ? もう他にパカパカ星人はいないってことか」

「はい。ボクの仲間たちは、少し前に地球を去りました。そろそろ地球生活も飽きてきたから、他の星に移動しようってことで」


「どうして八幡だけ残ったんだ」

「地球が気に入ったんです。特に日本が好きです。ボクは現地民と交流することも好きなのですが、日本の皆さんは愛らしくて好きです」

「愛らしい? ふーん……」

「それに、好きになってしまったから、せっかくだし見届けたいとも思って」


「見届ける?」


 まだ八幡ちゃんの手の中には、キッズバーガーは残っていた。しかし彼は、その数口分のバーガーを口に持っていこうとはせず、言葉を探すようにしばし沈黙したのだった。


「搾取され、時を枯渇させた社会が、どんな姿になっていくのか」


 あれ?

 八幡ちゃんって、こんなに静かな声をしてたっけ。


 私と秋月くんを見る視線は、憐憫を帯びたものになっていた。無邪気な子供の瞳じゃない。ああ、この子は本当に宇宙人エイリアンなんだ。


 この時、やけにすんなりと腑に落ちたのだった。

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