第4話 音楽部での失態
兄貴先生は、普段怒らない。
指導はするけど、怒鳴ったりしない。
そんな兄貴先生に、私は一度だけ本気で怒られたことがある。
あれは、兄貴先生と出会って半年くらい経った時のことだった。
ちょうど、文化祭の時期だった。
私は、音楽部で高橋優の”明日はきっといい日になる”のボーカルと、Vaundyの”踊り子”のギターを担当することになった。
実を言うと、私は歌がとてもじゃないけど下手くそだ。
少し、それをネタにしている部分もあるのだが。
その前の定期ライブで、私はマカロニえんぴつの”なんでもないよ”を歌ったときだった。
兄貴先生が「とりあえず、大きな声で歌いなさい」と言ってくれた。
これは、兄貴先生の知り合いのドラマーに私のことを相談した際のアドバイスだそうだ。
本番直前にそれを言われた私は、とりあえずバカでかい声で歌った。
兄貴先生は「それでいいよ」と言ってくれた。
私がボーカルをすることに決まったときに、兄貴先生は「色々言ってくる奴を、ギャフンと言わせたろうや」と言ってきた。
私は、その時に「そんなこと言う人がいるんだ」と初めて知った。
もしかすると、ネタにしてくる奴のことかなと思ったが、あえて触れる気もしなかった。
私としては、ネタにしてくる奴はそこまで気にしていないのだが。
そう思ったが、兄貴先生の言う事だったので聞き入れた。
私は文化祭になると熱くなってしまうので、色々と手を出してしまう。
案の定、「来年は進路もあるだろうし、今のうちに楽しんでおこう!」と考えた結果がこうなった。
・舞台発表の有志(2グループ入っていた。1つは映像の上映、もう1つはダンスをした。)
・クラスの舞台発表(映像を上映した。ちなみに”君の名は”の予告編で、三葉役をした。)
・教室展示(ホストを指名して一緒にゲームができるという企画で、ホスト役をした。)
・音楽部
見ての通り、馬鹿みたいに手を出してしまって、雪だるま状態になってしまった。
そして、音楽部の練習が全くできていなかった。
兄貴先生が「一緒に練習しよう」と言ってくれたボーカルの練習も、1・2回しかできていなかった。
そして迎えた、本番2週間前。
ギターの演奏がめちゃくちゃだった私に、兄貴先生はこう言った。
「できるか、できないか。
若手社員の『できます!』はいらないから。
本当のことを言って。」
私は兄貴先生に正直に話した。
空気がガラッと変わった。
音楽部室から部員たちがそっと出ていった。
兄貴先生は、その後私を怒鳴った。
何を言われたかは、あまり覚えていない。
ただ、兄貴先生が声を震わせて、こう言ったことは覚えている。
「君がちゃんとしてくれないと、君のことを守ることはできないよ。
守ったら、それはひいきになってしまうから。」
私は、その時兄貴先生が私のことをどれだけ思ってくれていたかということを、痛感した。
そこから、本番まで毎日のように練習へ行った。
これは、12月に行われた剣道部のBBQで知ったことだが、(私は剣道部と音楽部とボランティアクラブに所属している)「私のボーカルについて色々言ってくる奴」というのは、ネタにしてくる奴とは無関係だそうだ。
わざと兄貴先生に言ってくる奴もいたらしい。
このことを話してくれたのは、兄貴先生ととても仲の良い剣道部の顧問だった。
「兄貴先生、本当に怒っていましたよ。
定期ライブが終わってしばらくしたあとに、一緒に飲んだんですよ。
その時に、めっちゃ怒っていました。
『俺が大きい声で歌ってって言ったから、あいつは歌っただけやのに。
あいつは悪くない、悪く言うなら俺のことを言ってくれ』って。」
これを聞いたとき、私は少し涙してしまった。
楽しいBBQ中だったのにもかかわらず。
兄貴先生、ごめんなさい。
兄貴先生!! アンデココモモ @andekokomomo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。兄貴先生!!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます