第29話【赤魔道士】は仲間とともに大ボスを討つ
大ボスが出るまでの数日間、俺は賢者タイムを使って戦いまくった。
次から次へと湧き出るサハギンを倒すだけじゃなく、目につく怪我人にも片っ端から回復魔法をかけていった。
それのおかげか少し前に【賢者】レベルがあがり、新たな魔法やスキルを覚えていた。
「《
この《
「なに、これ……? 力が、湧き上がってくる……!」
行為を終えて茫然自失となっていたノエルが、魔法の効果に驚きの声を上げる。
「ノエル、これが【賢者】の力だ」
俺がそう言って笑いかけると、ノエルは大きく目を見開いた。
「だからさ、服装を整えて、戦闘開始といこうぜ」
「えっ、服……って――きゃぁっ!?」
自身の身体に目を落としたノエルは、甲高い悲鳴をあげると、慌てて衣服の乱れを正した。
……こんなにかわいらしい娘を、俺はなんだって男と思い込んでたんだろう。
「あれ? なんか、身体が、きれいに……」
「【賢者】になったあとすぐ《
「えっ!? すご……お尻の、なかまで……」
後半はひとり言のつもりだったみたいだけど、賢者タイムは感覚も鋭くなるからなぁ……。
まぁ、聞こえなかったことにしておこう。
「センパイ、ボクはなにをすればいい?」
すっかり身なりを整えたノエルが、力強い視線とともに尋ねてくる。
まだ羞恥心が残っているのか、少し頬が赤いのは見ないフリだ。
「そうだな……一度自分に《
「え、でも……」
通常、
《
ノエルは戸惑いながらも、自身に《
「えっ、なにこれすごい!」
どうやら重ねがけの効果があったみたいだ。
いまのノエルは支援や回復の効果に影響を及ぼす精神力が、高レベルの【司祭】並みになってるだろう。
「その状態で俺に《
「わかったよ! 《
「おおおおおお!」
とんでもない魔力の上昇を感じる!!
「センパイ、水が!!」
ノエルの言葉に視線を巡らせると、洞穴の入口から、海水が勢いよく流れ込んでくるのが見えた。
「ノエル!」
「えっ!? わわっ……!」
俺はノエルに駆け寄り、彼女を抱き上げて、洞穴の外へ飛び出す。
「しっかり掴まってろ!」
「う、うん!」
ぎゅっとしがみつくノエルを抱えたまま、俺は岩礁のできるだけ高いところまで駆け上がった。
「もしかして、水位があがってるのかな?」
「かもしれない!」
岩場のもっとも高い部分に立っても、足首までが水に浸かっている。
高波の前兆か? だとしたら時間がない……!
「ノエル、なにがあっても俺にしがみついてろよ!」
「わ、わかったよ! ボクは、絶対にセンパイから離れないから!!」
見上げれば、リヴァイアサンはこちらに背を向けたまま悠然としていた。
これだけ強力なバフをかければ気づきそうな者だけど、矮小な人間ごとき気にするまでもないと思っているのか、それともリソース? とやらが少ないせいで感覚が鈍っているのか……。
「リディア、プリシラ、みんな……信じてるぞ!」
できればあちら側とタイミングを合わせたかったが、時間がない。
気づけばもう、膝の上まで海に浸かっている。
「くらえ! 《《
一点あたりの威力が最も高い《
漆黒の槍が、リヴァイアサンの後頭部に直撃する。
――ドガァァァァァンッ!!
「す、すご……!」
爆炎と轟音に、ノエルが呆然とする。
大爆発のあと、鱗や肉片がボタボタと海面に落ちた。
爆炎が晴れると、リヴァイアサンの後頭部はごっそりと抉られ、わずかだが骨が見えた。
だが、ここまでのダメージを与えても、倒すには足りないようだ。
――グルルル……!
不快げなうなり声とともに、リヴァイアサンの顔がこちらを向く。
竜の表情なんて読めないけど、怒っているのはわかるよ。
「でも、こっちに気を取られていいのか? 大ボスさんよ!」
俺はリヴァイアサンから視線を逸らし、太く大きな首の向こう側へと手をかざした。
○●○●
――グルルル……!
爆発からほどなく、リヴァイアサンがうなり声とともに背を向けた。
「おいおい、デカブツの肉がごっそり抉れてるじゃねぇか! いったいだれがこんな真似を……」
驚くバルトが呟くのを聞きながら、リディアとリタは顔を見合わせ、クスリと笑う。
「こんなの、アイツしかいねぇだろ?」
「ええ、ですわね!」
言い終えるが早いか、レオンが作ったであろう絶好の機会を最大限に活かすため、ふたりは同時に駆け出した。
「キシャァーッ!!」
「ジャジャジャッ!!」
そんなふたりに追いすがるように、無数のサハギンが背後から飛びかかる。
まるで最後のあがきといわんばかりの一斉攻撃だ。
「ザコどもはオレに任せろぉーっ!!」
「リディアさん、いってくださいです!!」
バルトが大剣を振り回し、群がるモンスターを薙ぎ払う。
大雑把なその攻撃を逃れたサハギンも、プリシラの手で倒されていった。
「ギェーッ!!」
「ギョギョギョーッ!!!」
さらにふたりの行く手を阻むべく、サハギンどもが海面から飛び出してくる。
「ギギッ……!?」
「ギョ……ギョギョ……!」
そのほとんどが、不自然な格好で動きを止めた。
「姐さんたちの邪魔は、させないからね!」
【暗殺者】マイアのスキル〈操糸術〉によって、多くの敵が動きを封じられた。
ほどなく、ふたりはリヴァイアサンの首に近づいた。
レオンの魔法で吹っ飛ばされたと思われる傷は見えるが、近づくとそれがかなり高い位置にあるとわかった。
あそこまで、どう進むべきか……。
「ん、これは!?」
自身の身体が淡い光に包まれたことに、リタが驚きの声をあげる。
見ればリディアも、同じように光っていた。
その直後、身体の奥底から力が湧き上がってくるのを感じた。
「この感じ……レオンだね!!」
「ええ、そうですわ!!」
なんどか《
「姫さん!」
リタが片膝を落とし、身体をよじって戦槌を構える。
それを見て、リディアは彼女の意図を察した。
「アタイに合わせな!」
「おまかせくださいませ!」
リタが戦槌を振り上げるのと同時に、リディアがジャンプする。
勢いよく振り上げられる戦槌の打面を足で捉えたリディアは、リタの力を受けて天高く舞い上がった。
「おーっほっほっほっ!」
リディアの身体はリヴァイアサンの頭上より高い位置に到達し、ほどなく落下が始まる。
「覚悟なさいませー!!」
落下の勢いに身を任せながら、リディアは爆発によって抉れたリヴァイアサンの傷めがけて、斧槍を薙ぎ払った。
――ズズッ……!
大人数名が両手を広げてようやく抱えられるかという太い首が、大きくズレる。
――ドパァアアアンッ!!!
やがてリヴァイアサンの頭部はぐらりと首から離れ、海面に落下した。
「おーほっほっほっ! 大勝利ですわー!」
リディアは竜の首をすべり降り、リタのもとへ辿り着いた。
「いや、あのぶっとい首をぶった切るとか、姫さんヤバくない?」
「おっほっほ! 愛の力ですわー!」
感心しつつ呆れるリタに対して、リディアは口元を押さえて高笑いした。
「おや、足下がなんだか眩しいねぇ」
「あら、そうですわね」
視線を落とすと、竜の巨体が光を放っていた。
「これ、消えるんじゃありませんの?」
「えっ、じゃあアタイら、海へ真っ逆さまってこと!? アタイ泳げないんだよぅ!!」
「あらあら、困りましたわね」
周囲を見渡す限り、リヴァイアサンの死骸が消えるまであまり時間が残されていないようだ。
「おーい!」
ふと声が聞こえたので目を向けると、大型船の舳先に立つアレックスが手を振っていた。
見れば他にも数隻の大型船や、数多くのボート、ヨットが近づいていた。
海面は少しずつさがり始めたが、まだかなり高い位置にあるため、胴の上から飛べば船の甲板に乗り込めそうだ。
「お先っ!」
近い位置にいたらしいマイアが、船に向かってひょいと跳ぶ。
「わたくしたちも、続きますわよ」
「たすかったー!」
リヴァイアサンの上で戦っていた冒険者や軍人たちは、次々に船へ飛び乗ったり、海へ落ちてボートに助けられたりした。
そうこうしているうちに、竜の巨体が消滅し始める。
「なぁ、ドロップアイテムってどうなるのさ?」
リタがふと疑問を口にした。
あれだけの巨体だから、かなりの量を得られるはずだが、このままだと海に落ちてしまう。
「あとから回収班がサルベージすんのよ」
その疑問に答えたのは、すぐ近くにいたアレックスだった。
「なんか、面倒くさいねぇ」
「大ボス戦ってそんなもんよ」
最後にリヴァイアサンの死骸が強い光を放ったかと思うと、大量のドロップアイテムが現れた。
長大な竜皮、無数の竜鱗、大量の肉や牙、骨、そして巨大な魔石。
それらが、海に向かって落下していく――
「ありゃ!?」
――かと思えば突然消え去り、アレックスが驚愕の声を上げた。
船の各所から、驚きや戸惑いの声が聞こえる。
「ちょ、なんで!? なんで消えたんよ!? やべーって、マジで!!」
慌てふためくアレクッスを横目に、リディアとリタは、妙に落ち着いていた。
「……アイツの仕業だよ」
「ええ、きっとそうですわ……」
ふたりは同じ人物を思い浮かべながら、苦笑いとともにため息をつくのだった。
――――――――――
ここまでお読みいただきありがとうございます。
なんとか継続した毎日更新もここで打ち止めです…!
他の仕事やイベントやらで少し更新は止まりますが、できるだけ早く再開したいと思いますので、しばらくお待ちくださいませ。
続・ハズレ赤魔道士は賢者タイムに無双する 平尾正和/ほーち @hilao
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