第28話【赤魔道士】は【神官】にお願いする

 賢者タイムを発動させるために必要なセックスの相手は、おそらく女性でなくてもいい。

 それは先日、エメリアとでした際に判明したことだ。


 だからといって男としたいかと問われれば、答えは否だ。

 できればやりたくないし、ノエルにしたってお断りだろう。


 だが状況がそれを許さない。


 いまも冒険者や防衛軍とリヴァイアサンの激闘は続いており、多くの犠牲が出続けているはずだ。

 それにあの悪魔が言っていたことが本当なら、街が大変なことになってしまう。


 男ふたりがプライドと貞操を捨てるだけで、多くの人が救われる。

 なら、覚悟を決めるしかない。


 そのためにも、ノエルを説得しなければ。


「ノエル……俺さ、Bランクになったんだ」


 まずは俺の強さを知ってもらう。


「へぇ、すごいね。ボクなんて、パーティーをクビになったらEランクまで落とされちゃったよ」


 ノエルがそう言って、自嘲気味に笑う。

 中級職とはいえ【神官】はソロだと戦闘能力に問題があるからな。

 どこかのパーティーに入れば、すぐにDやCに上がれるだろう。


 それにしても、ノエルもクビになったのか……。

 経緯が気になるところだが、それを聞いている場合じゃない。


「センパイってボクたちが街を離れたあと、クヴィンの塔を完全攻略したんだよね?」

「知ってたのか?」

「うん……この街でも、ちょっと話題になったから」


 ノエルの表情に翳りが見えたような……気のせいか?


「3人で攻略したんだよね。すごいよ」

「ああ。そのあとふたりでも攻略したけどな」

「ほんとに!? すごいねー! だからBランクになれたの?」

「いや、どんな実績があろうと、初級職はBランクにはなれないよ」

「じゃあ、どうして……」

「ウォルフたちのパーティーで【賢者】について、聞いたことはないか?」

「【賢者】? ああ、そういえばロイドたちが言ってたような……」


 聞けばロイドとチェルシーは、結構俺を高く評価してくれていたらしい。

 ただ、いくら有能だからといって、初級職であることに変わりはなく、先に進めば危険に晒されることが多くなるだろう。

 だからあのふたりは、俺をパーティーから外すことに賛成したのだとか。


「センパイが【賢者】にクラスチェンジしていれば、なにか変わったかもって、言ってたかな。ウォルフとレベッカはその話をすごく嫌がってたけど」

「そっか」

「もしかしてセンパイ、【賢者】にクラスチェンジできたの!?」

「ああ、実はそうなんだ」

「じゃあ、いまはもう【賢者】なんだね? ならあんなに強かったのも納得だよ」

「いや、いまの俺は【赤魔道士】だ」

「なんで!?」


 上位のクラスになれるのに、なぜ初級職にとどまっているのかなんて、事情を知らなきゃ理解できないよな。


「【賢者】ってのは特殊なクラスでさ、条件を満たしたあと、短時間だけクラスチェンジできるんだ」

「なにそれ、聞いたことないよ!」


 俺だって、自分のことじゃなければ信じられない話だよ。


 それから俺は、ともにクヴィンの塔を攻略したメンバーが中級職で、それでも余裕だったこと、ミリアムさんが特別に専属担当についてくれ、【賢者】には上級職以上の恩恵があること、条件さえ満たせば祝福の間じゃなくてもクラスチェンジができることなどを説明した。


「じゃあ、【賢者】なら、あの大ボスにも勝てるってこと?」

「俺ひとりで倒せるとは言わないけど、決定打となるダメージは与えられるはずだ」

「クラスチェンジの条件って、ここでもクリアできるの?」

「ああ。そのためには、ノエルの協力が必要だけど」

「ボクの協力が……」


 ノエルは無言でうつむき、なにか考え込んでいるようだった。

 まぁ、こんな与太話、普通は信用できないよな。

 でも、回復職であるノエルが、いまの状況で大ボス戦に貢献する方法は、俺の話に乗るくらいしかない。


 しばらくのち、ノエルが顔を上げる。


「わかったよ! なにをすればいい?」


 どうやら、覚悟を決めてくれたようだ。

 ただ、いざこうなると、言いにくいな……。

 

「なんというか……すごく、頼みづらいことなんだけど……」

「遠慮なく言ってよ。ボクにできることなら、なんでもするから!」


 ノエルがここまで言ってくれたんだ。

 俺も腹をくくろう。


「セックス、なんだ」

「……はい?」


 ノエルがコテンとクビを傾げる。


「だから、クラスチェンジの条件だよ。セックスをしたあとの2時間だけ、俺は【賢者】になれるんだ」


 無言のまま固まっていたノエルの顔が、休息に赤くなっていく。


「なに言ってるの!? バッカじゃない!? こんなときにふざけんなぁーっ!!」

「いや、ふざけてないって! 本当なんだよ!!」

「センパイのバカ! えっち!! ヘンタイ!!!」


 いかん、伝え方を間違えたか……!

 こりゃいくら説明しても納得してもらえないな。

 なら、仕方ない……!


「《身体弱化フィジカルリダクト》《物理防御強化プロテクト》」

「あぅ……」

「おっと」


 魔法によって身体を無理やり下げられたノエルが。ガクンと倒れそうになったのを、支えてやる。


「いきなり、なにするのさ……!」


 ノエルはすぐに体勢を立て直し、俺から離れた。


「気づかないか? いま俺は、初級職じゃ使えない魔法を、ほぼ同時にふたつ使ったんだけどな」

「え……? あ……」


 少し落ち着いたノエルに、俺はこれらの魔法を【賢者】になって覚えたこと、ロイドですら身に着けていなかった〈多重詠唱〉によって複数の魔法を同時に発動できることを説明した。


「そんな……」

「それに俺の戦いを間近で見たと思うけど、いくら初級職をすべて極めたからって、あれだけのサハギンを軽々と倒せると思うか?」

「それも、【賢者】の?」

「ああ、常時発動型パッシブスキルを複数習得して、シンプルに強くなってるんだよ」

「……たしかに、冷静に考えれば剣の一振りで5~6匹のサハギンを倒すとか上級職並みだし、魔力を気にせずバンバン魔法も撃ってたし」


 最初の高波が去ったあと、ノエルを庇って戦ったときか。


「あのときは賢者タイムだったからな」

「賢者タイム……つまり、あれが【賢者】の力……」

「信じてくれたか?」

「……うん」


 信じたくはないと顔に出ているが、信じざるを得ないと諦めたようだ。


「あのさ……このまま大ボス戦が終わるまでここに隠れてるのって、ダメかな?」

「街がどうなってもいいなら、それもありかもな」

「それってどういうこと?」


 ノエルの問いに、俺は悪魔から聞いた話を聞かせた。

 ただ、夢の中で悪魔に聞いたなんて、賢者タイム以上に信じられないだろうから、メンバーのリディアが貴族で、ここの領主に伝手があり、極秘事項も知れることを説明した。


「もう、あまり時間がないんだね……」

「ああ、おそらくな。だからみんな、無茶な攻撃を仕掛けてるんだと思う」


 さっき様子を見た限り、かなり激しい攻勢をかけていたからな。

 みんな必死なんだろう。


「俺だって、やらずに済むならそのほうがいいんだよ。だからって、ここでのんびり過ごすってのはな……」

「それは、そうだけど……」

「俺たちが協力すれば、多くの命を救えるんだ」

「でも、ボクとセンパイで……その、だいじょうぶ、なのかな……?」


 もしかして、男同士じゃ賢者タイムが発動しないと思ってるのかな。


「心配するな。のほうでも問題ないのは、確認済みだ」

って……」

「尻、だな」

「――っ!?」


 ノエルが目を見開き、顔を真っ赤にする。


「おしりだなんて……そんな……」

「つらいとは思う。でも、大ボスを倒すために、頼む……!」


 俺はそう言って、頭を下げた。


「わ、わかったよぅ……お尻でいいなら……うん」


 決心したのか、ノエルは応じてくれた。


「あの……ボク、どうすればいいのかな?」

「じゃあ、四つんばいになって、尻をこっちに向けてくれるか?」

「うん……」


 ノエルは俺の言うとおりに、その場で四つんばいになり、尻を突き出した。

 ダボッとした服でわからなかったが、姿勢を変えたことで生地が張られ、尻のラインが少し見える。


 ……あれ、なんか、いい形してるな。


 なんだかちょっと、ムラッときた。

 いや、うん、興奮しないよりは、するほうがやりやすいわけだし、ここは割り切ろう。


 祭服のボトムに手をかけ、引き下ろす。


 そこから手順を進めて判明したのだが……。


「そんな、嘘だろ……」


 ノエル、女の子でした……!


 顔立ちや声は中世的だし、小柄で華奢だけど、少年っぽい話し方だったから、ずっと男だと思ってたよ……。


「センパイ……恥ずかしいから、はやく……」

「あ、ああ、すまない」


 あれ、女性なら、にこだわる必要ないよな?


「なぁノエル、やっぱり前でっていうのは、ダメかな?」

「だ、だめだよぉ……そっちは、大事なときに、とっておきたいから……」


 身をよじり、泣きそうな顔を向けられると、さすがに俺の意思は通せないな……。


 俺と目を合わせるのが恥ずかしいのか、ノエルはすぐに前を向いた。


「センパイ……はじめてだから、痛くしないで……」

「お、おう、まかせろ」


 少し震えるノエルの言葉に答えた俺は、〈収納庫ストレージ〉からローションを取り出した。

 エメリアからもらっておいてよかったよ。


 そして俺は、できるだけ優しく行為に及んだのだった。


《条件を満たしました。賢者タイムを始めます》

 

――――――――――

以下、読み方を変更しました。

プロテクション→プロテクト

リダクション→リダクト

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