新たな旅立ち

 その後、彼らは無事に町まで戻ることができた。

 そしてカイがリーヴを宿屋に連れて行き、彼をベッドに寝かせたあと、看病を続けるのだった。


 しばらくするとリーヴはゆっくりと目を覚ましたが、記憶が曖昧のようで何があったのかを思い出せずにいた様子だった。

 そんな彼に対してカイは心配そうな表情で話しかけた。


「大丈夫ですか? 先生?」


「あ、ああ……俺は一体……」


「先生は僕を守ろうとして、敵の攻撃を喰らってしまったんです……」


 それを聞いたリーヴは少し落ち込んだ表情をしていたが、すぐに表情を戻すとカイにこう言った。


「新人、お前は怪我とかないのか?」


 リーヴの問いにカイは首を縦に振りながらこう答えた。


「はい……なんとか……」


「そうか……。だが、俺はもう駄目みたいだな……」


 その言葉にカイは驚いた様子を見せたが、すぐに冷静になった後、心配そうな表情で聞き返した。


「どうして……ですか?」


 その問いに答えるようにリーヴは続けた。


「新人、お前は気が付いていないかもしれないが、俺の体はボロボロなんだ……。それに、魔力もほとんど残ってないから魔法も使えないし、剣を振るうこともできない……」


 そう言うとリーヴは自分の体を見回した後、続けてこう言った。


「もう……長くはないな……」


 それを聞いたカイは悲しそうな表情を浮かべると、リーヴに対して謝罪の言葉を述べた。


「先生……ごめんなさい! 僕が油断したばかりにこんなことになってしまって……!」


 そんな彼の言葉を聞いたリーヴは首を横に振った後、微笑みながら言った。


「新人、お前は何も悪くない。だから謝るな……」


 その言葉を聞いた瞬間、カイの目から涙が溢れ出した。

 それは初めて他人に見せた涙であった。

 そして彼は泣きながらリーヴに謝った。


「すみません……! 本当にすみません!」


 泣きながら何度も謝るカイに対して、リーヴは優しい口調で話しかけた。


「泣くな……俺はお前の笑顔が好きなんだから……」


 そう言いながら彼の頭を撫でた後、再びリーヴは話し出した。


「新人……お前は俺よりも冒険者に向いてるよ」


 その言葉を聞き、更に涙を流すカイにリーヴは話を続けた。


「お前はまだ若いし成長途中だ……これからもっと強くなるだろう」


 そう言って微笑むと、今度は真剣な眼差しでこう言った。


「だからこそ、俺からの最後の頼みを聞いてくれないか?」


 それを聞いたカイは涙を拭うと、リーヴに向かって力強く頷いた。

 それを見た彼は安心したように微笑むと、最後の力を振り絞り、こう言った。


「これから先もずっと冒険を続けてくれ!」


 その言葉を聞き、カイは涙ぐみながら答えた。


「続けます! 僕……死ぬまで冒険します!」


 それを聞いたリーヴはゆっくりと目を閉じ、息を引き取ったのだった――。


「先生……!!」


「…………なーんてな」


 リーヴは突然起き上がると、カイに向かって話しかけた。


「え……!?」


 突然のことに驚きを隠せない様子のカイに対して、リーヴは笑いながら言った。


「騙すつもりは無かったんだが、少し驚かせようと思ったんだ」


 その言葉を聞いた瞬間、カイの中で何かが切れたような音がした気がした──と同時に怒りが込み上げてきた。


 そして大きく深呼吸した後、カイは叫んだ。


「ふざけないで下さい!!」


 その声の大きさに驚いた様子を見せたリーヴに対して、続けてカイはこう言った。


「人がどんな気持ちでいるか考えて下さいよ! 僕がどれだけ先生のことを心配したと思ってるんですか!?」


 それを聞いたリーヴは申し訳なさそうな表情を浮かべると、カイに向かって謝った。


「新人……本当にすまなかった。許してくれ……」


 と言って頭を下げた後、顔を上げてさらに言葉を続けた。


「だがな新人、俺は感謝してるんだぞ? お前が俺を救ってくれたおかげでこうして生きているんだからな」 


 それを聞いたカイは少し落ち着いたようで、冷静になりつつ返事をした。


「先生……もう二度とこんなことしないで下さいね!」


 そんな彼の言葉に対して、リーヴは微笑みながら答えた。


「ああ。二度としないと誓うよ」


 それを聞いて安心した様子のカイだったが、それでもまだ納得していない部分があったようで、少し不満そうな表情を浮かべながらポツリと呟いた。


「絶対ですからね……」


 そんな彼の言葉に対して、リーヴは大きな声で返事をした。


「応!」


 その言葉を聞いたカイもようやく笑顔を浮かべた。


「分かりました。信じます!」


 そう言うと、カイはリーヴに向かって手を差し伸べた。

 それを見たリーヴは不思議そうな表情を浮かべながらもその手を掴むと、二人は握手を交わしたのだった。


◆◆◆◆


 3カ月後、カイは新人冒険者としての訓練を終えて旅立とうとしていた。

 そんなカイに対して、リーヴは餞別として餞別品を渡した。


「新人……お前にこれを渡す」


 そう言ってリーヴはカイにある物を渡した。


 それは──小さな宝石の付いたネックレスだった。


 それを見たカイは少し不思議そうに尋ねた。


「何ですか? これ?」


 カイの質問にリーヴはこう答えた。


「それは『冒険者のネックレス』という魔道具だ」


 カイはその説明を聞いて首を傾げた。


「冒険者の……ネックレス? 先生、これは何に使うものなんですか?」


 とカイが尋ねると、リーヴは答えた。


「そのネックレスには特別な魔法がかかっていてな、使用者の魔力を大幅に上昇させる効果があると言われているんだ」


 それを聞いたカイは目を丸くした。

 というのも、今までそんな魔法がかかったアイテムなど見たことが無かったからだった。


「え!? つまり、このネックレスを使えば誰でも魔力を大幅に上昇させることができるってことですか!?」


 興奮しながら詰め寄るカイに対して、リーヴは冷静に答えた。


「まあ、そういうことになるな」


 そんな答えを聞いて更に興奮するカイだったが、一つ疑問に思ったことがあったようで、それについてリーヴに尋ねた。


それは――このネックレスを自分に渡した理由である。


 普通ならば成り立ての冒険者に渡すようなアイテムではないと思ったカイの疑問に対して、リーヴは微笑みながら答えた。


「それはだな……お前が将来、立派な冒険者になって弟子ができたとき、そのネックレスをお前の弟子に渡してやってほしんだ」


 それを聞いたカイは一瞬ぽかんとした表情を浮かべたが、すぐに納得した様子で頷いた。


「なるほど! そういうことですか!」


 そんな彼の言葉を聞いた後、リーヴは話を続けた。


「ああ、そうだとも。だから絶対にこのネックレスを無くさないようにしてくれよ?」


 カイはリーヴの言葉に力強く頷きながら返事をした。


「はい! 絶対に無くさないようにします!」


 リーヴは満足そうに微笑むと、カイに向かって語りかけた。


「さて、もうそろそろ出発する時間だろ?」


 そう言われたカイは少し名残惜しそうな表情を見せたが、すぐに返事をした。


「はい! それでは行ってきます! 先生!」


 そう言うとカイは手を振って町を後にした。


 その姿を見送った後、リーヴは静かに呟いた。


「頑張れよ……カイ」


────────────────────

これにて、第1章完結となります。

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ダンジョン飯配信者の冒険譚~Dランク冒険者は波乱万丈な人生を謳歌する~ 神楽坂リン @rin0419

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