第12章 心の交差点


「人生には、男女問わず、自分が魅力的に感じられ、他人から注目されるひとときが必ず一度は訪れる」とよく言われている。僕は今、まさにその時間を味わっている。


 自分の存在が認められ、周りの視線が僕に集まる。自分が主役になり、人々が僕を見つめる。自分の存在が価値あるものとして認識される。これらはすべて、僕が特別な時間を体験している証拠だった。


 けれど、僕は「あかね」という想いを寄せている相手がいるのに、新たな仲間が増えてしまった。しかも、ふたりとも女性だ。彼女たちに対する僕の気持ちは、「友達以上恋人未満」の純粋なものだった。ふたりはそれぞれ別のタイミングで僕の前に現れた。まるで、僕の世界が広がり、人生が新しい展開を迎えるような気がした。


「こんにちは。覚えてる?」


 昼食を終え、時間が空いたとき、嵐山で一緒に写真を撮った女性、生野詩織しょうのしおりさんが病室にやってきた。彼女は、コンテストに応募するために僕を桂川の中州まで連れて行ってくれた人だった。


 今日も詩織さんは美しく、病室は彼女の華やかさで満たされた。僕は少し年上の女性に惹かれていた。


「もちろんだよ。忘れるはずないじゃないか。でも、どうして僕がここにいることを知ったの?」


「新聞で見たの。君が女の子を助けたって書いてあったから」


 生野さんは僕のバイト先の写真スタジオに電話して、この病院の場所を聞いたという。


 僕は驚いて、彼女と一緒だった撮影のときのことを思い出した。名刺代わりに自分のスマホ番号とバイト先の連絡先をメモ帳に書いて、彼女に渡したのだった。

 僕は彼女と別れるのが惜しかったのかもしれない。それが今、こんなふうに繋がるなんて夢にも思わなかった。


「うれしいな。また、詩織さんに会えて」


「ねえ、悠斗。コンテストの応募はしたの?今日が締め切りだって言ってたよね」


 僕は忘れていた。もう少しでチャンスを逃してしまうところだった。詩織さんはネットで応募できることを調べて、僕のカメラから「嵐山の朝焼けの詩」の画像を探してくれた。そして、僕に代わって応募手続きをしてくれた。


「ありがとう。でも、僕には好きな人がいるんだ。あかねっていう女の子で、まだ意識が戻ったばかりなんだけど、彼女の回復を待ってるんだ」


 生野さんは少し驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になった。


「それは素敵だね。でも、悠斗くん。他の人にも心惹かれることは、悪いことじゃないよ。それは君が成長している証だよ」


 彼女の言葉に僕は安心した。詩織さんは僕の気持ちを分かってくれていた。


「でも、詩織さん。君と過ごす時間は、僕にとって大切なんだ。君の存在が僕を励ましてくれるんだ」


 彼女は優しく微笑んで、僕の手を握った。


「私も悠斗くんと過ごす時間を大切に思ってるわ。これからも仲良くしてね」


 生野さんは、僕の手をそっと離して立ち上がった。その瞳には、優しさが溢れていた。僕があかねを待つことを尊重し、それを応援してくれることを約束してくれた。


「優斗くん、またね。あかねさんの回復を祈ってるからね」


 彼女はそう言って、病室を出て行った。ドアが閉まると、部屋は静かになった。でも、彼女がいた場所には、ぬくもりが残っていた。僕は彼女との出会いに感謝した。詩織さんの言葉は、僕の心に響いて、自分の本当の気持ちを目覚めさせてくれた。

 僕に新しい世界を見せてくれた。彼女の視点から、僕は自分の考え方を広げ、自分自身を深く探求することができた。


 彼女が去った後も、僕はしばらくその場に座ったままだった。彼女の言葉を何度も思い巡らし、その意味を深く理解しようとした。そして、あかねへの想いと共に、詩織さんへの感謝の気持ちを胸に刻みこんだ。

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