第45話 偽物の大聖女様?

 いったいどうやってここに!? 

 さっき襲撃があったばかりですから、教会内の警備は厳重になっているはずなのに。

 

 驚いていると、ミシェル様が私を守るように前に出る。


「お前、マルの言っていた白き魔女か!?」

「せいかーい! ボクの話をしてるのかなーって思って、来ちゃった。君、さっき『小悪魔』って言ってたもんね」


 無邪気に悪う白き魔女。けど、来てほしくなんかありませんから!

 からかうように言ってくる彼女に、心の内を読めない気味の悪さを感じる。


「そう警戒しないでよ。ボクはなにも、意地悪しにきたわけじゃないんだからさ」

「信用できるか! 大方隙を見て、命を狙うつもりだろう」

「あはは、何言ってるの。もしそうなら、わざわざこうして姿を見せたりしないって。本当に殺そうと思っているならさ、君達に逃れる術は無いよ。ボクはどこにでも入り込めるんだから、無防備に眠っている時にでも喉笛に刃物を刺したら、それだけでおしまいだよ」


 白き魔女の冷たい物言いにゾッとする。

 けど、確かにそうです。何度も教会内に侵入を許しているのですから、その気になれば寝首をかくことくらい、容易いはず。

 むしろどうしてそうしないかが、不思議なくらいですよ。


「けど安心して。説明しておくとね、ボクは誰も傷つける事はできない。そういう契約になっているんだ。どこにでも入り込める代わりに、危害を加えることは一切できない。まあ例えばこっそりお茶を飲んだり、お菓子を盗み食いするくらいならできるけどさ。そんなイタズラをするのが精一杯だよ」

「それはまた、ずいぶん可愛らしい悪さしかできないんだな、魔女なのに。つーか、契約って何だよ?」

「んー、悪魔との契約と言うか、世界との契約と言うか……まあ難しい事はいいじゃない。とにかくそういうものなんだって。けど当然、そんなちっぽけなイタズラをするために、ボクは存在しているわけじゃない。ボクの役目は、何かを願う人と悪魔を会わせて、その願いを叶えてあげる事。つまり悪魔との仲介役だよ」


 悪魔との仲介役……前にハンス様も言っていましたっけ。

 けどそれなら、ここに来た目的は?

 まさか以前言っていた通り、私を悪魔と契約させる気ですか!?


「ボクはね、話をしに来たんだ。きっと話を聞いたら君もボクの……と言うか、悪魔の手を借りたくなるはずだよ」

「そんなはずありません!」

「そうだ! 何を企んでいるのか知らないけど、魔女なんかの話なんて聞けるか。さっさと出ていけ!」


 言うや否や、白き魔女に向かって蹴りを放つ。

 履いているロングスカートが邪魔になりそうなのに、ジャンプして放った蹴りが、白き魔女を襲います。

 相手は女性ですけど、ミシェル様に容赦は無いようで。だけどその蹴りが当たろうという瞬間、白き魔女の姿が煙のようにフッと無くなりました。


「なっ!?」


 消えた!? 

 だけど困惑するミシェル様のすぐ横に、白き魔女は再びすうっと姿を現しました。


「言い忘れていたけど、ボクに攻撃することはできないよ。ボクは誰も傷つけられない代わりに、誰からも傷つけられないんだ。それより、話をさせてってば。言っとくけど、話をしたいのは大聖女様じゃない。大聖女様から力を贈与された、君だから」


 と言う事は、やっぱり狙いは私ですか!?

 するとミシェル様は警戒したようで、白き魔女の行く手を阻むように、私の前に立つ。


「お前みたいな危険なやつを、マルに近づけられるか! どうしても話があるって言うなら、俺が聞く」

「そんな。ミシェル様に何かあったら、それこそ一大事じゃないですか!」


 私なら最悪命を落とすことになったとしても、代わりはいくらでもいます。

 けど、大聖女であるミシェル様に何かあったら……いいえ、大聖女であろうとなかろうと、ミシェル様にもしもの事なんてあってはなりません。

 ミシェル様は……ミシェル様だけは、私が命を掛けてでもお守りしないと。


 だけど白き魔女は、そんなミシェル様を見ながらニィっと笑った。


「ふふ、何を言っているのかなー。さっき言ったじゃん。話があるのは、大聖女様じゃないって」

「はぁ? だからマルに話があるんだろう?」


 白き魔女が言っていることが分からないという様子で、顔をしかめるミシェル様。

 だけど……。


「あははっ、何を言っているのかなあ? 君は本当に、何も知らないんだね。本物の大聖女は君じゃない、マルティアちゃんだってのに」 


 ……え?


 白き魔女が何を言っている事が分からずに、時が止まる。

 私が大聖女って……。


 ミシェル様も分からないみたいで、「どう言うことだ?」と私と白き魔女を見比べる。

 だけど混乱している私達を見ながら、白き魔女は続けました。


「というわけで、ボクが話をしたいのはミシェル君、キミだよ……


 白き魔女は、まるでオモチャでも見るような無邪気な目でミシェル様を見つめながら、ハッキリと告げました。

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