第27話 ミシェル様とダイアン様
それから朝食を終えて、いったん自分の部屋に戻ってもろもろの準備をした後、向かったのはミシェル様のお部屋。
今日もお世話係として、しっかり働かなければ。
だけど部屋に入った瞬間、目に飛び込んできたのは。
「ミ、ミシェル様。いったいどうされたのですか?」
そこにいたのは、テーブルに顔をくっつけながら、ぐでーっとなっているミシェル様。
今はウィッグをつけてなければメイクもしてなくて、そしてその表情は暗い。
そして彼の隣には、私より先に来ていたダイアン様がニコニコと笑っているじゃないですか。
これはひょっとすると……。
「あの、ミシェル様。もしやまた、ダイアン様にいじめられたのでしょうか?」
「ちょっとマルティアちゃん酷くない? アタシはからかってるだけで、ミシェルをいじめた事なんて無いから」
「す、すみません。けど、本当に何があったのでしょうか?」
ミシェル様が元気ないのなら放ってはおけません。
するとミシェル様はムクリと体を起こして、ジトーっとした目で私を見てくる。
な、なんでしょうか?
「……ズルい」
「え?」
「ズルいじゃん! どうしてダイアンばっかりマルと飯食ってるのさ! 俺の時は、ダメだって言ったのにー!」
え? ええっ?
ひょっとしてこの前遠征に行く前に話していた、一緒に食事を取りたいって話の続きなのでしょうか?
「す、すみません。ですがダイアン様とミシェル様とでは立場が違っていてですね……」
「そうだぞー。あんまりわがまま言って、マルティアちゃんを困らせるなー」
「ひゃん!? ダイアンさん、いきなり抱きつかないでくださいー!」
唐突にムギュ~って抱き締めてくるダイアン様。
こういうのも友達同士のスキンシップって感じがして嬉しいのですが、突然だとやっぱり戸惑ってしまいます。
そしてそれを見たミシェル様が、ますます顔をしかめる。
「また二人でベタベタしてー!」
「へへーん、女子どうしの特権だよー。野郎のアンタじゃ、こうはできないものねー。あたし達はこれからも、くっついたり一緒にお風呂入ったり、あちこち触りまくったりするんだよー。どうだー、羨ましいだろー!」
ひぃ~!?
そ、それはスキンシップを通り越して、セクハラになりませんかー!?
そしてこの発言は、火に油だったみたいです。
「あー、もう! マルってば戻ってきてから、ダイアンとベッタリじゃないか。だいたい、今度お茶した時『あーん』してくれるって約束はどうなったのさ!」
そ、それも蒸し返すのですか!?
確かに以前にそんな話をして、だけどその直後遠征が決まったため、うやむやになっていました。
遠征から戻ってきた後、何度かお茶する機会はあったのですが、ミシェル様の仰ってる『あーん』はしていないのですよね。
それと言うのも、お茶の時は毎回ダイアン様がいるから。
私も約束してしまった手前、一応やらなければとは思っているのですけど。ダイアン様が見ている横で、そんな事できませんよ!
「ミシェル様。申し訳ありませんが、その……人目がある時はさすがに……」
「なら、二人きりならやってもいいってこと? よし、だったらこっそり教会を抜け出して、デートでもしよう」
「だ、ダメですってそんなの。ダイアン様も止めてくださいー!」
「こらこらミシェル、マルティアちゃんが困ってるじゃないか。大聖女がわがまま言うなー」
「何だよ。元はと言えばダイアンが邪魔してくるのが悪いんだろ」
「何だとー、やるかこのー!」
二人は互いに後ろに下がって距離を置き、かと思ったらお互いその辺にあった花瓶や壁に飾られている絵を手に取って、投げはじめました。
や、やめてください! 部屋の中がメチャクチャになってしまいますー!
だけど、二人の間に割って入ろうとしたその時。
──ガチャン。
「ミシェル様! 廊下にまで音が聞こえていますが、いったい何の騒ぎ──っ!?」
突然ドアが開いて、部屋に入ってきたのはハンス様。そして中で繰り広げられていた光景を目にして、絶句しています。
「これは……ええい、二人ともそこに直られい!」
部屋に響く激昂。これにはさすがに二人ともケンカをやめてくれましたけど、今度はハンスさんのお説教が始まります。
「この恥知らず聖女ども! 少しはご自分達の立場を……いや、立場云々以前に、年相応の常識や落ち着きを持ってもらわねば困ります! それにマルティア、そなたがついていながら何だこれは! 二人の暴走を止めるのは、お前の役目だろう!」
「す、すみません!」
怒るハンスさんを前につい頭を下げましたけど……あれ、お世話係ってそういうお役目でしたっけ?
それにいつの間にか、ダイアン様の面倒まで私が見ることになっていませんか?
けど、怒られた張本人達は。
「ハンスさーん、確かに騒いだアタシらも悪かったけど、そこまで怒ることなくない?」
「そうだよ。それにマルにまで怒るのは筋違いだって」
反省しているのか分からない……いえ、これはきっと、していませんよね。
するとハンス様はピキピキと頭に青筋を立てる。
「なるほど、お二人の言い分はよーくわかりました。ですが、それならわたくしにも考えがございます。もしもお二人が態度を改めないようなら……教育係として、アリーシャどのをお呼びします!」
「「ええーっ!?」」
名前が出たとたん、二人とも目を見開いて、ガタガタと震え出す。
「ハ、ハンスさん、どうかそれだけはご勘弁を」
「ア、アタシ達、いい子になりますから」
さっきとは打って変わって、怯えた様子の態度の二人。
アリーシャさんって確か、ミシェル様とダイアン様に淑女教育を施された方でしたっけ。
だけどお二人がここまで震え上がるなんて、いったいどんな方なのでしょう?
「まったく。世間では大聖女様が現れた事で、教会への期待が高まっているというのに。これではお先真っ暗ですよ」
「だから悪かったって。それより、今日の予定は?」
「それは後で言います。それよりまずは先に、話しておかなければならないことが……マルティアについてです」
「私ですか!?」
私のことで話って、いったい何の……あ、そういえば一つ、思い当たる事がありました。
「それはもしや、私の紋章についてでしょうか?」
「うむ。2級聖女であるはずのそなたの紋章が一時的に、1級聖女のそれに変わったのだろう。私は直に見たわけじゃないから信じられなかったが、気になったからそなたが前に治療した、リリィという娘や騎士団の者達のその後を調べてみた」
なんと!
実はあの遠征の時、私の身に起きた出来事をハンス様やアレックス様にも報告していたのです。
二人とも最初はそんなバカなと仰っていましたけど、確かに見たと話していくうちに、真剣に話を聞いてくれました。
そしてハンス様はこちらに戻られた後、色々と調べてくれていたのです。
「リリィも騎士団の者達もしっかり治療されていて、後遺症も無い。しかしその者達の受けていた穢れの濃さを考えると、そなた浄化の力は2級のそれを越えている。どうやら本当に、1級聖女並みの力をそなたは使ったらしい」
「それじゃあの時見た紋章は、やっぱり見間違いじゃなかったということですか? けど紋章が変化するなんて、聞いたことありませんけど」
「いや、それが調べてみたところ、過去にあったのだよ。2級聖女の紋章が1級聖女の紋章に変わった事例……いや、変わったと言うより、変えられた、だな」
え、そんな事が私以外にも?
それにこの含みのある言い方。いったいハンスさんは、何を突き止められたのでしょう?
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