第3章 暗躍する白い影

第26話 お友だちができました

 シマカゴへの遠征から、教会本部のある街へと帰った私達。

 あの時は魔物との戦いや大地の浄化と大変でしたけど、数日が経った今ではすっかり日常が戻ってきています。

 ……ただ一つを除いては。


「おーす! マルティアちゃーん、元気してるー?」

「あ、ダイアン様。おはようございます」


 食堂でライラさんから朝食を受け取っていた私に、ダイアン様が声をかけてくださいます。

 遠征の時、援軍として駆けつけてくださったダイアン様。実はあの後私達と一緒に、教会本部までついてきたのです。

 それというのも。


『マルティアちゃんの紋章の秘密知りたいー。アタシって繊細だから、分からない事があってモヤモヤしすぎると死んじゃうんだよねー。そ・れ・に、この子達なんか面白そうじゃん。よし決めた、アンタ達について行くー。行くったら行くー』


 というわけで。

 特級聖女様に亡くなられては困るということで、一緒に来ることになったのです。

 もっとも帰りの馬車の中では、胃が痛いと言っていたハンスさんの方が死にそうでしたけど。


 特級聖女様がそんな好き勝手にあちこち行ってしまっていいのかとも思いましたけど、主に魔物討伐を行っているダイアン様は、特級聖女の中でも特殊な立場。

 騎士団だけでは対処できない魔物が現れたらどこにでも行かなければならない反面、そうでない時は自由にあちこち行っていいのだとか。


 その立場を利用して、今まであちこちの騎士団に顔を出しては、頼まれもしないのに一緒に魔物を退治して回ってると聞きましたけど……相変わらずやってる事が豪快です。


 そして今は、この教会本部の宿舎で寝泊まりしているわけですけど……。


「あれ、マルティアちゃんそれだけしか食べないの? もっと食べなよ」

「すみません。朝はあまり食欲がないので」 

「もう、そんなだから痩せっぽっちなんだって。ねえライラさん」


 トレイを抱えながら話していると、ダイアン様はライラさんにも話をふります。


「ん。ああ、そうだね。けどまあ、食べるのがキツいって言ってる子に、無理に食べさせるのは良くないよ」

「むう、そりゃあそうだけど……」

「その分後でしっかり食べりゃいいさ。ダイアンちゃんみたいに豪快に食べる子も、もちろん好きだけどね」

「あははははっ! ライラさんの作る食事は美味しいから、いくらでも入るよー!」


 はははと笑いあう、ライラさんとダイアン様。

 凄い、来てからそれほど日は経っていないのに、まるで数年来の友達のような距離の近さです。


 そんなライラさんと別れてダイアン様と二人、近くの席へと移動する。

 一人で食べている私を気遣っているのか、遠征から帰ってからの食事はほとんど、ダイアン様と一緒なのですよね。


 ただそれは嬉しい反面、ちょっと申し訳なく思います。


「ん、どうしたのマルティアちゃん、浮かない顔して」

「すみません、少し……。なんだか、ダイアン様を独占してしまっている気がして。ダイアン様と一緒に食事したい方は、たくさんいると思うのですけど」


 その証拠に、さっきからチラチラ視線を感じますもの。

 ダイアン様は気づいてないかもしれませんけど、実は一般聖女の間ではダイアンさんの事が、時々話題に挙がっているのです。

 いきなり特級聖女がやってきたのですから、当然ですね。


 教会本部には大聖女のミシェル様もいらっしゃいますけど、ダイアン様は今みたいに食堂で食事を取ったり、一般聖女の皆さんと同じ宿舎で寝泊まりしていますから、その分距離が近くて話題にものぼりやすいのかもしれませんね。


 なのに傍に私がいることが多いせいか、話し掛けようとする人はほとんどいないのです。

 うう、何だか私が交流の邪魔をしているみたいで、申し訳ありません。

 ただ、当の本人は。


「おやおや~。マルティアちゃんはアタシと一緒に食べるのが不服なのかい?」

「い、いえ。そんなことは。ただダイアン様と仲良くなりたいって思ってる方は多いでしょうから、私とばっかりいるというのは……」

「平気平気。……大方、特級聖女って肩書きに引かれて、お近づきになりたいって子が大半だろうからね」


 ため息をつきながら話すダイアン様。

 その声は、ちょっとうんざりしているみたいに聞こえます。

 ちょっと意外です。彼女は人懐っこくて誰彼構わず振り回すイメージがあったのですが。もしかしたら特級聖女という肩書きのせいで、苦労されているのかもしれません。


「すみません、変なことを言って」

「平気平気。まあというわけだから、アタシは友達は自分で選ぶようにしてるの。マルティアちゃんとは友達になれたんだから、それで十分だって」

「はい……って、友達って。私がですか!?」

「え、なに? マルティアちゃんアタシのこと、友達と思ってくれてなかったの~?」


 不満そうに頬を膨らませていますけど、わ、私なんかがダイアン様の友達だなんて。


「ほ、本当に私なんかでいいのですか? もちろんダメというわけでは全然なくて、むしろ光栄の極みなのですけど。もっと相応しい方がいらっしゃるのでは? 例えば、ミシェル様とか」

「うん、確かにミシェルも一緒にいて飽きないねー。けどそれはそれ。アタシはマルティアちゃんとも友達になりたいんだけど、嫌?」

「い、いいえ。そんなことありません! ふ、不束者ですが、どうかよろしくお願いします」


 どうしよう、凄く嬉しいです。

 嫌だなんてとんでもない。今まで友達なんていなかったのでドキドキしてきました。

 するとダイアンさんはそんな私を見て、「可愛い」って頭を撫でてきますし。

 あわわ、これが友達同士のスキンシップなのですかー!?


 何だかミシェル様の秘密を知ってしまってから、驚く事の連続です。

 まあ、そこまではよかったのですけど……。


「なにあの子、今度は特級聖女のダイアン様とお近づきに?」

「なんであんな子が……本当、調子に乗ってるわよね」


 ……突き刺さるような視線が痛いです。

 皆さんヒソヒソ話すばかりで面と向かって文句を言ってくる人はいませんけど。どうやら私がミシェル様のお世話係になったばかりか、ダイアン様と仲良くしたりしていることを、よく思っていない人がいるみたいです。

 確かに急に恵まれた環境になって、分不相応だとは私も感じていますけど……。


(それでも私は、ミシェル様やダイアン様の近くにいたい)


 わがままかもしれないけど、それが私の本心。

 この幸せを手放したくないと思ってしまうのは、いけない事なのでしょうか?

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