第24話 戦いの終わりと見つめる誰か
【???】
──マルティア達が大地の浄化を進めていた頃、彼女は離れた場所から戦場を眺めていた。
「あーあ。大聖女は仕留められなかったかぁ。せっかくとっておきの魔物を用意したのに、あの子ってば余計なことしてくれちゃって」
残念そうに呟く彼女の目に映るのは大聖女のミシェルではなく、自分の計画を台無しにしたマルティア。
マルティアが巨大ミミズの接近に気づかなかったら、襲撃は成功していただろう。
しかしそうはならなかった事が、彼女は面白くなかった。ただ……。
「白い髪の聖女かあ。もしかしたら、案外仲良くなれるかも。穢れの気配を察した事といい、あの子何なのかなあ?」
さっきとは打って変わって、今度は楽しそうに笑みを浮かべながら、彼女は舌なめずりをする。
「邪魔をしたのはともかく、もしかしたら面白いオモチャになってくれるかも? ふふ、ボクを楽しませてくれるかなあ?」
いい暇潰しが見つかった彼女は、面白そうにニヤニヤと笑う。
危険な相手に目をつけられたことを、マルティアはまだ知らなかった……。
◇◆◇◆
魔物の討伐と大地の浄化。
ミシェル様への奇襲により一度は中止になりかけましたが、あれより数刻後……全ての魔物は追い払われて、あれほど充満していた濃い穢れも無事に浄化できて。
シマカゴの街は、魔物と穢れの脅威から解放されたのです。
良かった~。
作戦が成功したのももちろん嬉しいですけど、最後までミシェル様が無事だった事に、すごくほっとしました。
実はあの後も2回ほど、巨大ミミズによる地下からの襲撃はあったのですけど、私が接近を察して難を逃れました。
ミシェル様達はどうして魔物の気配が分かるのか不思議そうにしていましたけど、そんなの私にだって分かりませんよ。
何はともあれ、作戦は無事終了したわけですけど、まだ全てが終わったわけではありません。
討伐の後、昨日泊まった町に引き返してきた私達ですが、もう一つの仕事に追われていたのです。
「……浄化完了。もう大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。おかげで助かりました」
騎士団の方がペコリとお辞儀をして、お礼を言ってくる。
ここは町の一角に設けられた医療用のテント。
私達はここで、騎士団員の穢れを浄化しているのです。
何せ彼らは数日にわたって穢れの濃い戦場で戦っていたわけですから、その穢れを吸収してしまった方も少なくなく、このままでは穢れ病を発病してもおかしくありません。
事実何人かは既に掛かってしまった方もいたみたいですけど、それを治すのも聖女の仕事。
そして、今回は私も治療に参加させてもらっているのです。
「すぐ終わりますから、じっとしててくださいね」
「ありがとうございます、聖女様」
代わる代わるやってくる騎士団の方々を、順番に癒していく。
幸い騎士団の人達は、私が白い髪をしていても偏見を持ちません。
アレックス様いわく、普段恐ろしい魔物と戦っているのだから、皆さん髪が白いだけの人間なんか怖くも何ともないのだとか。
まあそれはさておき、どんどん治療していかないと。
だけどその時、テントの外から声がしてきた。
「おーい、マルティアちゃんいるー?」
「あ、ダイアン様」
テントに入ってきたのは、騎士団の方ではなくダイアン様でした。
「交代だよこーたい。今隣町から聖女の一団が到着してね。アタシ達は休んでいいって」
到着されましたか。
実は騎士団の方の穢れを浄化するための聖女達が近くの町まで来ていたのですが、魔物に襲撃される危険があったので迂闊に近づくことができませんでした。
けど無事に討伐された事で、安心して来れるようになったというわけです。
「後はその子たちに任せて、アタシ達は教会に戻って休んでいいってさ。マルティアちゃんも疲れたでしょ」
「いえ、もう少しくらいなら……」
と思いましたけど。あれ、不意に目眩がして、頭がくらくらしてきました。
うう、前言撤回。これはちょっと厳しいかも。
浄化は体力を使いますし、そうでなくても数時間前まで魔物の群がる戦場にいたのです。
もしかしたら自分でも思っていた以上に、疲れがたまっていたのかもしれません。
「無理はよくないよ。頑張りすぎて倒れたら、そっちの方が迷惑かかるって。さあ、教会に帰ろう」
「は、はい。そうします」
と言うわけでダイアン様と二人で教会に戻り、昨日私達が初めて会った部屋に入ったのですが、そこには既にミシェル様が戻ってきていました。
よほど疲れたのか、ソファーの上でぐでーっと、横になっていますけど。
「ミシェル様、お疲れ様です」
「ああ、マル。それにダイアンもお疲れー」
「何さだらけちゃって。そんな姿もしアリーシャの婆ちゃんに見られたら、姿勢を正せって怒られるぞ。まあ、あれほど大規模な大地の浄化をしたんだから、無理もないか」
ダイアン様の言う通りです。
今回ミシェル様が浄化したのは、見渡す限りの平野と、その先にあったシマカゴの街。
本来これら全ての穢れを一度に浄化するなんて、聖女の常識を遥かにこえているのですが……。
それをやってのけたミシェル様。大聖女の浄化の力の強大さを、思い知らされました。
けどきっとその分、体力の消耗も激しいのでしょうね。
「本当に……本当にお疲れ様でした。今お茶を入れますね」
と言うわけで、それからは3人でティータイム。
ミシェル様も淑女の仮面とウィッグを脱ぎ捨て、言葉使いもプライベートなものに戻り、すっかりリラックスモードです。
ハンス様とアレックス様はまだやることがあるそうで、しばらく帰ってこないとのことですけど、聖女3人によるお茶会です。
ただ改めて思うと、私がここにいるのって、すごく場違いじゃないでしょうか?
だってダイアン様は世界に5人しかいない特級聖女。そしてミシェル様にいたっては、数百年に1人しか現れない大聖女様なのですよ。
そんな中に2級聖女の私が交ざるだなんて、考えてみればすごく恐れ多い気がするのですけど……。
「ん、どうしたのマル?」
「ちょっと……。お二人ともすごい方なのに、私がここにいるのが場違いな気がして」
「そんな事気にしてるの? 俺は大聖女だなんて言われてるけど、ただの下町出身の男だからね。それに、ダイアンだって特級聖女の仮面をかぶってるけど、中身はおっさんみたいなもんだし……痛て!」
「こらこらー、大聖女様ともあろうお方が、人の悪口かいー?」
あわわ、ダイアン様。ミシェル様はお疲れなのですから、殴ったりヘッドロックをかけたりしないでくださーい!
けどこうやって見ていると、確かにそんな立派な聖女様には見えませんね。
「あ、そういえばマルティアちゃん。聞いたんだけど、魔物の襲撃からミシェルを助けたって本当?」
「まあ。助けたと言うか、近づいてくる魔物に気づいただけですけど」
「そう、アタシが気になるのは、魔物の接近に気づけたってこと。確かに聖女は穢れの濃さを感じられるから、魔物の気配も分かるよ。けど地面の中を移動していて、姿も見えなかった魔物となると、気配を感じるなんて難しいよ」
「そうなんですか?」
てっきり聖女なら誰でもできると思っていたのですけど、私がおかしいのでしょうか?
いえ、もしかしたら……。
「ひょっとして私が、敵意や悪意に敏感なのかもしれません。この髪のせいで奇異な目で見られたり、悪口を言われたりする事も多かったですから」
「さらっと重たい過去言ってるねえ。けどそれ、たぶん関係無いと思う。実はアタシは、マルティアちゃんみたいに細かく魔物の気配を感じ取れる聖女の例を知ってるんだよ」
「そうなのですか? その方は、どなたなのですか?」
何だか仲間ができたみたいで嬉しいです。
しかし、ダイアン様から返ってきた答えは。
「魔物の気配を敏感に感じ取れたのは、先代や先先代の大聖女様だよ。彼女達は皆、魔物の気配に敏感だったって聞くよ」
「……へ? だ、大聖女様ですか!?」
さっきは仲間みたいで嬉しいって思いましたけど、これはさすがに。
仲間と呼ぶにはあまりにも、相手が大きすぎますよー!
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