第16話 穢れを祓う癒しの光
ハンス様と共に向かった家は、小ぢんまりしたお家。
中に入ると一間だけの簡素な作りとなっていて、そこには小さな女の子が布団で横になりながら、苦しそうに息を荒くしていました。
「聖女様、どうかお願いします」
「分かりました」
しゃがんで、寝ている女の子の頭に手を当てた瞬間、何とも言えない気持ちの悪い空気が襲ってくる。
これこそが、彼女を蝕んでいる穢れ。
聖女は穢れを治す以外に、穢れの大きさを感覚で分かるのですが、これはかなり大きいです。
穢れに犯された人は徐々に衰弱していきますけど、ここまで進行が進んでいるなら苦しみも相当なはず。お父さんが心配する気持ちも分かります。
だけどこれだけの重症者。ハンス様は完治させなくても症状を抑えれば良いって言ってくれましたけど……本当に私に、できるのでしょうか?
「どうした、治せそうか?」
ハンス様が尋ねてきましたけど、私は返事をすることができませんでした。
するとその時、少女の口がゆっくり動いた。
「おと……うさん……」
「リリィ、大丈夫か?」
「頭が……痛い。胸が……苦しいよ……」
「大丈夫だ。聖女様が来てくださったからな。聖女様、リリィは治るのですよね?」
彼は心配そうな顔をしながら、リリィと呼ぶ娘さんと私を交互に見る。
──っ! 何を弱気になっていたのですか私は!
「大丈夫です。今治してあげますからね」
患者を前に自信が無いとか不安だとか、思う方が間違い。
リリィちゃんに、そして自分にも言い聞かせながら、リリィちゃんの頬を撫でる。
すると彼女は、その手を取ってきました。
「お姉ちゃん……聖女様?」
「ええ、そうですよ」
「お姉ちゃんが、助けてくれるんだよね……ありがとう」
まだ治療を行っていないのに、それでも笑いかけてくれるリリィちゃん。
気味の悪い白い髪だと蔑まれてきた、この私に……。
ええ、治してみせますとも。
私はリリィちゃんの胸に両手を当てると、手のひらに意識を集中させる。
そして……。
(お願い、治って──!)
力を込めた瞬間、私の手が光り出して、リリィちゃんのお父さんが「おお」っと声を上げる。
これが聖女の持つ、癒しの力。この光で、体を蝕んでいる穢れを浄化させるのです。
(お願いします。リリィちゃんの中にある穢れを、少しでも多く消し去って!)
神様に祈りながら、浄化の光を放ち続ける。
すると光は徐々に大きさを増して、それに比例するようにリリィちゃんの顔色がだんだんと良くなっていくじゃないですか。
もう少し……もう少しです!
浄化の力を使うと、その分体力が削られてしまうのですが。今はそんなことを気にしてなんていられません。
ありったけの力を使って、穢れを祓い続ける。
すると、リリィちゃんの顔色はだんだんと良くなっていくじゃありませんか。
もう少し……もう少しです。
そして穢れの気配は、完全に消え去ったのです。
「……終わりました。これでもう、リリィちゃんは心配いりません」
「おお、リリィ! 聖女様、ありがとうございます!」
スヤスヤと寝息をたてているリリィちゃんを見て安心したように、安堵の表情を見せるお父さん。
深く頭を下げてきましたけど、むしろ私がお礼を言いたいですよ。
不謹慎かもしれないけど、今まで役立たずの厄介者扱いされてきた私が、誰かの役に立てた。それがどれだけ嬉しいか。
するとそんな私に、ハンス様が声をかけてきました。
「ご苦労だったなマルティア。よくやった」
「ハンス様……勿体無いお言葉です。リリィちゃんにはもう穢れの気配もないので、心配ありません」
「そうか。それは良かったが……時にマルティアよ。その子は本当に完治したのか?」
「はい?」
怪訝な顔をするハンス様を見て、急に不安になってくる。
「も、もしや、まだ治っていないのですか!?」
「案ずるでない。心配せずとも、もう穢れ病の気配は見られんさ。だが……こう言っては何だが、その娘は2級聖女のそなたが完全に治せるほど、軽い症状だったのか?」
……そういえば。
当初の予定では私は穢れの進行を遅らせるだけで、後は後任の聖女に任せることになっていましたけど、穢れが完全に祓われています。
けど、考えてみたら不思議です。私も最初リリィちゃんを見た時は、自分の力では完治させるのは難しいって思ったのに。
「確認するが、そなたは2級聖女で間違いないのだな?」
どうやらハンス様は、私の聖女としてのランクを疑っている様子。
けど、間違いありません。2級聖女の証である色無しの紋章だって、毎日目にしていますし。
だけどそれじゃあ、リリィちゃんを助けられたのはどうしてなのでしょう?
考えても、答えは分かりません。
ただ不思議でしたけど、リリィちゃんは治った事ですし、これで良かったのですよね。
お休みリリィちゃん、良い夢を……。
こうして多少の疑問は残ったものの、私の聖女としてのお仕事は、大成功を収めたのでした。
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