第5話 愛してる

ふとレイの脚元に目をやると一筋の赤い血が流れていた。

一瞬また怪我をしたのかと動揺したが、すぐに状況を理解した。

「お腹痛くない?大丈夫?」

「うん…大丈夫。」

ロープで血行を悪くしてはいけないので今日はロープを解き、

手を握ったまま一緒に寝ることに。

最初は平気そうだったレイだが徐々に苦しそうな顔をしながら

「痛い…痛い…」と言い出した。

やがて痛さの余り叫びながらのたうち回るようになり、

深夜に必死で腰や背中を摩り続けた。

トイレにも同伴し、できる限りの全ての動作を手伝う。

 「ごめん…本当に色々やってもらっちゃって…。」

「別にいいんだよ。気にしないで。」

「アタシ、生理重いからさ…

痛くて痛くて、やっぱり毎回死にたくなるんだ。

ブスだし、健康じゃないし、こんな身体、もう要らない。

いっそ壊してほしいよ(笑)

サトにだったら何されたっていいや。」

ブス…?一体誰の話をしているんだ?

間違ってもレイはブスじゃない。

私から見たレイはこんなにも…こんなにも美しいのに。

貴女が自分を醜いと思うこの世界なんて滅んでいい。

でも、レイは自分を壊したい。

彼女の望みならなんでも叶えてあげたい。

…そう願う自分に出来る事は一つしかなかった。


レイを椅子から離し、再び両腕を後ろで縛り、床に突き飛ばす。

「え?」と困惑した表情を見せるレイ。

それでもそのままレイに跨る。

私が大きく腕を振り上げるとレイは目を瞑った。

その唇はプルプル震えていて、とても怯えていた。

大きな平手打ちを加える。

「痛い!!」

鼻から赤い鼻血が滴り落ちる。

全身痣だらけで、傷だらけの上に、

さらにボロボロになっていく身体。

それから肩を抑えつけ、背中をグーで殴る。

「ぎゃあああ!!痛い…でも…

痛みを加えることで…生理の痛みが紛れる…気がする…」

その後もレイは大きな悲鳴を上げる為、口をガムテープで塞いだ。

何度も何度も蹴り、何度も何度も叩く。

身体の自由も、言葉の自由も奪われて、尊厳を否定される。

声は出ずとも堪らなく嫌そうな顔。

「嫌」ってものはどうしてこんなに可愛いんだろう。

 ____気づけばかなりの時間が過ぎていた。

しくしく泣きながら横たわるレイ。

髪もパジャマもぐちゃぐちゃ、血と汗と涙と涎が流れ、

脚には少し血の混じった尿が滲んでいる。

きっと側から見れば歪なのかもしれない。

でも、レイの体から出た体液ならどんなものでも平気だった。


ロープを解き、ガムテープを外し、レイを優しく抱き締める。

無言でただ、ぎゅっと抱き締める。

暖かい身体は脈打ちながら必死に息をしていた。

「レイがOLとしてキラキラ働いているところはとても綺麗で眩しい。

でも、例え実際はボロボロだったとしても、レイは綺麗だよ。」

抱え込むように抱き、頭を撫でると、

レイは私の膝に無言で頭を乗せた。

膝枕をし、沈黙の中頭を撫で続ける。

顔を覗き込もうとすると、私の胸がレイの顔に当たった。

「あ、当たってる…。」

顔を赤くしながら、レイがぼそっと呟いた。

「ごめんね!」「い、いいけど…」

気まずそうに窓際を向くレイ。

時刻は朝5時を迎えようとしていた。

 窓から差し込む薄明かり。

夜明けのコバルトブルーの空が見えた。

陰鬱漂う柔らかい光が部屋に満ちる。

世界を細かい目盛りで目に映す聡明なレイ。

二人で見る空はあの時一人で見た空と違い「意味」がある空だった。

「綺麗…だね。」

「うん…綺麗だね…とても…とても…。」

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コバルトブルー Folder @zvehour

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