誕生日

高岩 沙由

知らない予定

 目を覚ますと寝相が悪かったのか、あちこち身体が痛い。


 カーテンから漏れる光から明るくなっているのはわかっているが、正確な時間を確認したくて、枕元に置いたスマホを確認しようとしたが、見つからない。


 自分の部屋には時計を置いていないので、痛む体をゆっくりと起こすと一息つくとリビングへと向かう。


(なんだか、体が軽いような……)


 違和感を覚えつつも壁に手をつきながら短い廊下をそろりそろりと歩いていき、目的のリビングに入るとすぐ左側のテレビの上の壁掛け時計を確認した。


「もう10時なのか……」


 そのまま、近くにあるカレンダーに目を向けると、10月8日に丸が書かれていて、その下に小さく“墓参り”と記されている。


「父さんの墓参りはまだ先のはずだけど……?」


 父親は私が小学校に入ったあとに亡くなっていて、それからは月命日の16日に母親と妹、私の3人で墓参りに行くことが恒例となっている。


 その時、部屋のドアを開ける音とバタバタと足音が聞こえたので振り向くと黒のワンピースを着た妹がリビングに向かってくるのが見えた。


 丁度よい、と思って名前を呼ぼうとした時。


「お母さん、タクシーきたよ」


 リビング手前の部屋から出てきた母親を見つけた妹が声をかける。


「ああ、ありがとう」


 そう妹に返事をすると2人はくるりとリビングに背を向け、玄関に向かって歩きだす。


「待って!」


 私がそう声をかけると、母親と妹は立ち止まる。


「あの子が亡くなってもう半年も経つのね……」


 そうしみじみと母親は私の部屋に顔を向けて言葉を零す。


「……そうねぇ。まさか誕生日に……」


 妹の声が微かに震えている気がした。


「私の誕生日?」


 そう呟いた瞬間、体から力が抜けていき、ぺたりと座り込む。


「ああ、そうだ、4月8日……」


 その日に私は……。


 カチャ、と鍵をかける音を遠く聞きながら私の体は地面に吸い込まれっていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

誕生日 高岩 沙由 @umitonya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ