修羅の道の終わり

 首をもたげた赤竜が、俺達を見下ろしていた。一頭だけではない。まるで林立する塔のように見えた。

 素知らぬ顔で太陽は燦々と輝き、空はどこまでも青かった。なのに竜達は身動ぎ一つせずに、獲物たる俺達から目を離そうとしなかった。


 考えるまでもなくわかる。これは自然の振舞いではない。誰かに使役されてここにいるのだ。ただ、それにしては、二、三頭ほど能力を覗き見た限りでは、対話コマンドのスキルがない。いったいどんな手を使っているのか。

 すぐに襲いかかってくる様子はない。それもわかる。赤竜はあくまで捨て駒、本命は別にいる。


 竜の巨体のすぐ後ろから、一人の男が近付いてくるのが見えた。

 背は高い。やけに手足が長い印象だ。亜麻色の髪からして、フォレス人だろうか? 鎧らしいものを身に付けていないが、それより異様なのはその軽装だ。砂漠のど真ん中だというのに、サーコートのようなものさえ着用していない。まったく涼しげだった。

 また別の竜の後ろから、今度は見覚えのある姿が現れた。こちらはクリーム色のローブを頭からかぶったハンファン人だ。まるで重油に塗れたような色をした杖も、以前と同じく手にしている。

 かと思えば、後ろからもまた、別の誰かが近付いてきているらしい。もっとも、そちらをじっくりと確認する余裕はない。視界の隅に映ったが、こちらは他の二人より更に小柄に見える。


「おっ、おい、どうなってんだよ」


 ホアが震える声でそう尋ねるが、応えるものはいない。

 一定の距離をおいたところで、彼らの足が止まった。


「よぉ」


 声をかけてきたのは使徒ではなく、その横に立った男だった。あと一人はというと、俺達の後ろにいる。退路を断つ役割ということか。


「見てきたか?」


 顔立ちからすれば、美形の部類に入るのかもしれない。やや馬面っぽくもあるが。


「何を」

「不老不死、探してたんだろ? ここにあったはずだ」


 軽薄そうな口調だが、どうにも不自然な気がする。どちらかというと、もっと身分の高い人物だったはずだ。口先ではどうあれ、その人の品位というのは姿勢や立ち居振る舞いに表れる。


「あれが、あんなものが不老不死だと?」

「一応そうだろう? それとももっと上等なのがいいのか?」


 屍骸兵の体には、骨しか残らない。いくら長生きできても、刺激や快楽とは縁遠いことだろう。それはそれで苦痛に満ちていそうだ。


「お前の態度次第では、もちろんマシな不死身をくれてやってもいい」

「何者だ」


 そう尋ねながらも、俺は背中に冷や汗が流れるのを感じていた。


「俺か?」

「そうだ」

「ギシアン・チーレムだ」


 俺はその返答に、軽い苛立ちをおぼえた。とはいえ、今はそれどころではない。


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 チェリオ・ナード・インセル (942)


・アルティメットアビリティ

 インフィニット・リザレクション

・マテリアル プルシャ・フォーム

 (ランク9、男性、942歳)

・マテリアル 神通力・霊力操作

 (ランク9)

・マテリアル 神通力・物体作成

 (ランク9)

・マテリアル 神通力・瞬間移動

 (ランク9)

・マテリアル 神通力・治癒

 (ランク9)

・マテリアル 神通力・知識

 (ランク9)


……

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 別人を名乗っている。

 まぁ、それはいい。友好的といえない相手だから、本当のことを言わずに済ませただけだ。


 それより、この能力はどうなっているのか。とてもではないが、一覧すべてを確認なんてできない。

 まず、俺以外で初めて見たアルティメットアビリティの保持者。名前から判断すると、こいつはまさか、何回殺されても甦るのだろうか? しかも肉体は最上級ときた。

 その後に、数えきれないほどの神通力が並んでいる。それも多分、完全な形の能力ばかりだ。『霊力遮断』ではなく『霊力操作』。『具象剣』ではなく『物体作成』。もちろん、『剣舞』や『神槍』みたいな戦闘能力をもたらす神通力も習得している。

 こいつ一人の強さだけでも、俺の全力と等しいか、或いはそれを超えるだろう。


 そして、それ以上に問題なのが、名前だ。

 チェリオ・ナード・インセル。およそ一千年前のインセリア王国の王子。父王の命を受けて兵を率い、ギシアン・チーレムのセリパシア討伐などに参戦した。知られている限りでは、最後は帝都の議員に収まり、そこで生涯を終えたはずだ。世界統一に貢献したのに貴族や王にならなかった人物だから、救世十二星将の一人にも数えられている。


 そんな、明らかにこの世界における正義の側に属しているはずの彼が、なぜかまだ生存していて、しかも使徒と手を組んでいる?


「嘘をつけ。冗談もほどほどにしろ」

「嘘だとなぜわかる? お前はギシアン・チーレムに会ったことがあるのか」


 こいつ相手に取り繕っても意味などないだろう。


「もしお前が本当にギシアン・チーレムなら、その名前の意味を知っているはずだ」

「なに?」

「滑稽だな」


 俺の挑発に真顔になった彼だが、すぐ平静を取り戻した。


「歴史書に別人の名前で書かれているからって、それがそのまま事実だとでも思っているのか?」


 そういってせせら笑った。

 そう言われると、俺の側には反証材料がない。


「くだらぬ」


 使徒が割って入った。


「ファルス」

「なんだ」

「お前はもう知っているはずだ」


 彼の低い声が、腹の底に響いてくるようだった。


「女神や龍神では、不老不死をもたらすことなどできぬ。この世界に降り立った魔王の数々も、いまやほとんど生き残ってはおらぬ。モーン・ナーは滅び、イーヴォ・ルーもまた覚めることのない眠りについた。そしてこの世界の女神どもは」


 心からの軽蔑を込めて、彼は吐き捨てた。


「自らこの世界に招いた神々が封じられても救い出しもせず、彼らがもたらした祝福を横取りしておる。このような神々に、人が忠実であるべき理由などなかろう」


 その点は、納得せざるを得ない。

 イーヴォ・ルーはこの世界の法則を書き換えようとした。だが、それは彼が神だったから、自らの神格に従うなら、それ以外の行動など選択しようがなかったからだ。どんな争いが起きたにせよ、それは外部から神々を招き寄せた女神、そして当時のこの世界の人々の責任なのだ。


「この世界に正義などない。人の世に尊いものなどない。女神や龍神に崇拝される資格などない。だが、お前に我が身を省みるだけの知恵があるのなら、真なる神がお前に不老不死を授けるだろう」


 有無を言わせない圧力を感じる。気を抜くと、思わず屈してしまいそうになる。


「使徒ファルス」


 ハッとした。

 こいつは、俺を既に……彼が言うところの、真なる神の使徒であると、そうみなしている?


「目を覚ませ。真なる神に帰順せよ」


 ついにこの時がきた。

 心の準備はしてきたつもりだ。それでも言葉にしようとすると、何かが自分に絡まって、身動きを封じようとする。


「どうした。まだ人の世に囚われておるのか」


 すると使徒はゾッとさせられるような笑みを浮かべた。


「とりあえず、そこの小娘は目障りだ。そ奴から消し去るとしよう」


 名指しされたノーラは、何かをしようとした。そうとしか言えない。だが、ほとんど動くこともできず、逆にその場に倒れ込んだ。


「ノーラ!」

「しゃらくさい」


 使徒は鼻で笑った。


「我が授けた魔道具で我に一矢報いるなど、できるとでも思っておるのか。出来損ないの神通力も通用などせぬぞ」


 このままでは、とフィラックが腰に手をやった。だが、その瞬間、激痛を感じたのか、膝をついてしまう。


「雑魚のくせにカッコつけてもいいことないんだけどな」


 ナード王子が、こともなげにそう言った。

 痛みからはほぼ回復しているのだろうが、恐らくは神通力の影響で、フィラックは腰を浮かせることもできないままになっている。


 覚悟はした。してきた。

 今日、ここで俺達は全滅する。勝算はゼロ。生きているうちに、俺が使徒に対してできることは、今のところない。

 でも、だからこそ、ここで決着をつけなくてはいけない。


「帰れ」


 やっとこれだけ言った。


「なに?」


 ナード王子が眉を吊り上げた。


「俺達に構うな。帰れ。そう言った」

「誰にどんな口を利いているのか、わかっているのか」

「わかっているから言っている。三度目だ。帰れ。俺に構うな」


 この対応に、使徒は怪訝そうな顔をした。


「愚かな……定命の者どもなど、いずれ死にゆくだけのこと。お前が不死を得る道筋は一つしかないと、今、知らしめてやったはずだ」

「そうだ」


 ここで使徒に屈すれば、俺はあらゆる悩みから解放される。俺がかつて望んだものが手に入る。それがわかるから、目に見えない何かが俺を縛る。

 それでも、はっきりと言い切らねばならない。せっかく目前にした成功を、あえて手放さなくてはいけないのだ。


「それでも、断る」

「なに」

「帰れ。立ち去れ。二度と俺に関わるな」


 使徒の目が険しくなる。


「そう言われて、大人しく我が引き下がると思うか」


 彼はそっと杖を掲げた。


「無礼には裁きをもって応じねばなるまいな。選べ。誰に罰を引き受けさせるのか」


 逆らったら俺の知り合いを一人ずつ殺す。これもわかっていたことだ。

 でも、だからこそ、彼女らを今更遠ざけても無駄だったともいえる。こいつらにとって、物理的距離など意味をなさない。ピュリスに匿ったところで見つけられて血祭りにあげられて終わりだ。


「誰も」

「たわけが。ならば皆殺しよ」

「好きにしろ」


 俺の異様な態度に、初めて使徒の顔に軽い驚きの色が浮かんだ。


「今、なんと言った」

「好きにしろと言った」

「どういうつもりだ」

「よく聞け」


 内心では、恐怖と……なぜか心の底にこびりつく不死への執着とが俺を苛んでいる。自分ではとっくに捨てたはずと思っていたのに。


「もしお前が俺の仲間や友人を殺したら、何があってもお前を殺す」

「笑わせるな」


 できるわけがない。そんなことはわかっている。


「殺されるまで戦う」

「そこまで聞き分けがないのなら、やむを得まいな。魂は流転するがゆえに、次の機会を待つのみよ」

「よく聞け。死んだら、俺は生まれ変わる」


 いくら考えても、これしか道はなかった。

 あの日、あの時、自らの業ゆえに呪詛に呑みこまれた。だからこそ得られた手掛かり。


「もちろん、記憶は保ったままだ。自分で選んでこの世界に生まれ直す。今、そう決めた。生まれ変わったら俺は、ヘミュービかモゥハのところに転がり込む。一刻も早く」

「なんだと」

「そこで、お前達が何をしてきたか、俺が何を失ったか、一切をぶちまける」

「そんなことが……ふん、ただのハッタリだな」


 ナード王子の態度も予想はしていた。


「どうだかな。俺の力のことはもう、知っているんだろう? だが、今までこの力を使って意識をなくしたことは何度もあるんだ。でも、そうなる前に決めておいたことは、必ずその通りになった。信じようが信じまいが、勝手にすればいい」


 モーン・ナーの権能。それは運命の操作にある。

 それが俺の死後にまで及ぶのかどうかはわからない。だが、それに賭ける。

 狙い通りにいけば、俺は死んだ後もピアシング・ハンドの影響によって、先に定めた通りの行動をとるだろう。

 そして使徒達は、これほどの力を有しているのにもかかわらず、俺を誕生直後に発見することはできない。できるとすれば、もっと早く俺の目の前に現れたはずだ。


「愚かな、愚かなことを。お前はわかっておらぬ。よしんばそれができるとしたところで、龍神とて貴様の味方になどならぬぞ。ここまで旅して、まだわからぬか」

「わかっている。龍神がすべてを聞いた上で俺を殺すならよし、封印するでも構わない。どちらでもなかったら、手駒になってお前らを追う」

「どう転んでも殺されるだけのこと。仮に我らを討ったとて、龍神はお前を背中から刺す」

「そうだ。でも、龍神は俺を殺すだけ。お前らは、俺の身内を殺す。なら、俺は捨て石になってお前らを殺す。その後はどう始末されようが受け入れる」


 ナード王子が鼻で笑ってみせた。


「龍神が、それでも受け入れずに最初にお前を殺したらどうする」

「その時は、もう一度この世界に生まれ変わる」


 何が何でも俺は諦めない。


「俺一人の力でお前達に勝てないというのなら、どんな手でも使う。なんならクロル・アルジンを新たに作って差し向けてやる。お前らを滅ぼすその日まで、絶対に俺は止まらないぞ」


 モーン・ナーの呪詛がどこまで有効なのか、それはわからない。

 だが、今はそれに頼るしかない。俺が示せるものがあるとすればそれは、意志しかない。なぜならこれは、今、俺と使徒がやりとりしているのは……


「といって、お前を見逃す理由もないな」


 ナード王子の問いに、俺は嘲笑で応えた。


「怖いんだろう」

「何が」

「どうしてここでお前達が出てくるのか。わかっていたんだ。俺には、魔王に縋る以外に不老不死に至る方法がない。お前達は初めからそのことを知っていた。でも、その事実を上から押し付けても俺が反発する。だから旅に出るよう仕向けて、その目で確かめさせたんだ。違うか?」


 その、俺を絶望させるきっかけを作るために。人の世に留まる理由を奪うために……使徒はグルービーを使ったに違いない。

 難しいことではない。こいつらはあの手この手でこちらを揺さぶって、うまく「取引」をしてやろうとしていたのだ。殺すだけなら簡単。だが、奴が掴み取ろうとしていたのは、あくまで俺の合意だった。


「モーン・ナーとイーヴォ・ルーの秘密を知って、神仙の山で真実を知れば、俺が絶望するはずだった。最後の望みを託して、多分無理だと思いながらワノノマに向かう。その途中で誘惑してやろうと、お前らはそういうつもりだったんだ」


 だが、こいつらの誤算は、あくまで自分の基準でしかものを考えられなかったことだ。

 人の世など儚い。人間など醜い。逆に自分達は? 既に不死を得て、超人的な能力を誇っている。俗世の王国などガラクタも同然、そこに生きる人々など虫けらと変わらない。当然のように見下している。眼中にないと言ってもいい。

 彼らの認識は、ある意味正しい。だからこそ、その視点を得たならば、無価値な世界に背を向けて、永遠に価値あるものを目指すはずだと……彼らは当然にそう考えた。合理的だ。でも、俺はそうならなかった。


「このままでは、俺が旅の最中で何を見たか、一切合切、龍神に喋りかねないからな。止めに来ない理由がなかった」


 二人の眼差しは、もはや火のようだった。

 だが、これで上々。俺は、こいつらを怒らせるのに成功した。屈服したのでもない。見逃されたのでもない。抵抗したのだ。


「取引だ。もしお前達が俺から手を引くのなら、お前達のことも黙っていてやる」

「何を」

「断るなら殺せ。永遠に追いかけてやる。そうでないなら立ち去れ! 二度と俺の前に姿を見せるな!」


 二人は目を見合わせた。


「お前らが何をしようが知ったこっちゃない。世界を支配しようが、魔王を崇拝しようが、勝手にすればいい。ただ、何かしでかすなら、俺が死んでからにしろ。俺の世界に顔を出すな!」


 ナード王子が舌打ちをした。

 使徒は、初めて激しい怒りに囚われたかのようだった。それでも、かろうじて俺に最後の意思表示をした。


「愚か者めが」


 その一言と同時に、二人、いや、背後にいた三人目の姿も一瞬で消えた。

 と同時に、俺達の周囲にいた赤竜は、突然、翼を広げて舞い上がり、遠くへと飛び去っていった。砂塵が巻き上げられ、俺達は思わず目元を庇った。気が付くと、赤竜の群れは、青空の黒い点になっていた。


「た、助かった……」


 ホアがぺたんとしゃがみこんだ。


 それから、俺達は改めて出発した。

 もう調べるべきものもないし、使徒との話し合いも終わった。砂漠に留まる理由はないから、予定通りチャナ共和国への道を進むことになった。

 日中の休憩を挟んで宵の口まで歩き、それから野営した。


 暗闇の中、赤い光が浮かび上がる。まだ水気の抜けない木の枝が時折爆ぜる。

 日中、風が強かったせいだろうか。頭上を見上げても、星降るような夜空とはいかなかった。むしろほとんど真っ暗といっていい。巻き上げられた砂塵が、上空を濁らせてしまっているのだろう。

 だから今は、墨で塗り潰したような闇夜の中だ。視界はこの赤い焚火のすぐ近くだけ。まだ砂漠の内陸側にいるので、いつ魔物が出るかわからない。真夜中の見張りは欠かせない。


 すぐ近くでは、ノーラが、フィラックが、ホアが、毛布に包まったまま目を閉じている。アーシンヴァルも、多分、立ったまま寝ている。

 今は風も止んで、不思議なほど静かだった。


 焚火の炎は、見飽きない。木が燃える匂いも好ましい。

 この一時の安らぎは、焚火ゆえではなかろうか。みんなで囲む焚火も楽しいが、一人でこうして火が燃える様を眺めるのも、悪くない。

 思えば旅を始めた頃は、いつも一人で焚火の傍で横になったりしたものだった。誰にも頼れなかったから、深く眠るときには木の上に登ったりもした。


 あっけない終わり方だった。

 そう呟きたくなるくらいに。


 四年前、俺は旅に出た。いや、旅に出るようにとお膳立てされた。生きる苦しみを終わらせてみせようと、険しい山道を越えてどこまでも歩き通すつもりだった。でも、今は……


 俺は、大きな問いを投げかけて、投げ返されたのかもしれない。

 何か、言葉にしがたい大きな矛盾が横たわっていた。魔宮の地下で生まれた罪を問われた人々を見た時には、怒りに燃えた。けれども、大森林の奥地で、罪なき世界の無秩序を見てしまった。パッシャの戦士と殺しあいながら、パッシャと同じ理想を抱いていた。そして不死を追い求めてここまで歩き通したのに、ついさっき、俺は不死を拒絶した。


 今日、本当の意味で、この旅が終わった。

 俺が自ら進んで求めるものは、もう何もない。ただ、一切に決着をつけるためにワノノマには行く。


 思えば、血塗れの道だった。

 魔物が現れれば殺し、人間も邪魔すれば殺した。チェギャラ村を出た後に襲いかかってきたジノヤッチ達を、俺は容赦なく虐殺した。これから先は、なんとしても不死に至るのだと。そのためには何人でも殺す。

 俺は人ではなく、修羅だった。争い、争い続けて、ここまできた。


 モゥハは俺をどうするだろう?

 殺すのか、封印するのか、それとも……無罪放免、は少し考えにくそうだ。きっとただでは済まないが、それでいいと思っている。

 前世から抱えてきた呪いのような気持ちは、半ば溶けてなくなってしまった。いや、そんなことを申し立てる資格などなかった。でも、その事実を受け入れるのに、今はなぜか絶望を感じない。


 静けさが心地よかった。

 これ以上、何を望むことがあろうか。


 俺の道は、ここで終わった。

 あとは……


 あとは、あるがままでありますように。


 願い事のない祈りが、果てのない暗闇の彼方に吸い込まれていった。

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