コーザの潔白のために
「十年前、か」
俺とノーラは、昼前になってようやく宿への道についていた。ガッシュはというと、午後からまた訓練に参加しなければならないらしい。自由時間が限られている立場だからこそ、朝から俺達に会いに来たのだ。
並んで歩きながら、情報を整理する。
なんにせよ、彼に会ったことで疑問が多少、解消された。現在、ドゥミェコンを経済的に支えているのは帝都、軍事的に守っているのは黒の鉄鎖だった。
そしてリザードマン達には、あまりやる気がない。この辺、理由はまだわからない。そこまで人間を嫌っていないのか、恐れているのか、それとも世界の広さを認識しているからか。案外、人間側と同じような理由によるのかもしれない。攻め込まなければ、攻め込まれない。
だが、昔は違った。冒険者は迷宮の奥深くを目指すものだった。それが十年前に変わった。熟練の戦士達が撤退した後に、モヤシのような青年達が集められるようになった。
これもよくわからない。帝都にとってのメリットはなんだ? それこそ損得を考えるなら、今まで通り、ワノノマの魔物討伐隊あたりに一任しておけばよかったじゃないか。彼らならいくらでも戦ってくれるし、死んでも文句は言わないのに。
ただ、どういう事情にせよ、これはやりづらい。
優秀な冒険者を味方につけて深層を目指そうにも、少しまともな人なら、ガッシュみたいにサハリア人豪族の私兵になってしまう。迷宮に挑むのは、あまりに割が合わないからだ。もちろん、豪族としても、ドゥミェコンの維持が任務なのだから、迷宮内で異変があれば、ああやって人員を派遣はする。しかし、彼らが積極的に人を貸してくれるかといえば……
タンディラール王の腕輪なんかつけている俺に、いい顔をするはずがない。
この辺のローカルな事情は、あまり広く知れ渡っていないのだろう。砂漠の対岸にあるムスタムでは、うっすらと知られている。ただ、そもそもが危険な場所だったので、それが今更チンピラどもの根城になったところで、人々の認識に大きな違いは生じなかったのかもしれない。迷宮の中が無法地帯だったというのも、今に始まったことではなさそうだ。
そういえば、冒険者ギルドの貼り紙も、十年くらい前までのものしかなかった。それ以降は、迷宮の深層を目指すまともな冒険者が激減し、よってそういう行方不明者も出にくい状況になっていたのだ。
こうしてみると、どうやってバジリスクの王を発見するか。ハードルがどんどん高くなる。どうすればいいか、まだ道筋が見えない。パズルのピースがいくつも欠けているような気がする。
「一度、アナクに話を持ち掛けようか」
「大丈夫かしら」
「じっとしていても、所持金が減るだけだ。そうなってからでは彼女は動かせない。それに」
声色を落として、そっと言った。
「アナクは、リザードマンと繋がっている可能性がある」
「どうして?」
「メルサック語って、聞いたことある?」
「ううん」
「リザードマンの言葉らしい。それをアナクが知っている」
「それは見たのね?」
「ああ」
しかし、罠の可能性もある。彼女の立場で考えれば、俺達から金だけとって、後は奴らの巣のど真ん中にご案内。生きて帰れない場所に送り込んでしまえば済むのだし。
「危険はあるだろうけど、こちらは何も無防備なまま、行くわけじゃない。可能性を知った上で行くんだから、いくらでも対策はできる」
「ねぇ、それもいいけど、ドミネールはどうするの?」
「次の機会、かな」
ノーラは口を噤んだ。
あくまで邪魔をするなら殺す。そこに迷いはない。ただ、俺の目的はあくまで迷宮の最下層にある。仮にアナク経由でそこに到達できるなら、ドミネールは無視しても構わない。
そういえば、オルファスカ達もなぜかこの街にいた。いったい奴らは何をしたいんだろう? どうせろくでもないことを考えているに違いないが。
ようやく宿のすぐ近くまで戻ってきた。
ミルフィーユのようにいくつもの階層が連なる迷宮都市の一角。石の壁と日干し煉瓦の壁に挟まれた狭い路地。頭上には木の板がまばらに張られており、その合間を布が埋めている。昼でも薄暗い一角を潜り抜けて右に曲がると、崩れかけた石の階段がある。大人が二人、すれ違うのも難しい幅しかない。そこを登ると、踊り場みたいなところに出る。その脇にあるのが、我らが宿舎だ。
「おっ」
階段を登り切るより先に、俺達の視界には人影が見えた。両腕を広げたまま、涙を溜めた目でこちらを見つめるコーザの姿だった。
「おおぉっ! ……かえり」
「た、だいま」
「い、生きててよかった! 今までどこにいたの? ねぇ? 昨日も、一昨日も!」
宿の前に立った俺に、コーザは詰め寄ってきた。身を乗り出し、俺の肩を掴んで激しく揺さぶる。
「昨日は、宿にいましたよ?」
「見かけなかったよ!」
「そりゃあ……迷宮からやっと脱出して、一日中寝ていたんです」
「一昨日は!」
「それは、迷宮の中に閉じ込められていたんですよ。階段が爆破されて、封鎖されていましたからね。ご存じだと思ったんですが」
コーザも見ていただろうに。ドミネールの手下どもが、俺とノーラに先行して迷宮の奥に進むところを。
「それがどうかしたんですか?」
「あっ、ああ」
経緯をあれこれ思い出すと、コーザも目を泳がせ始めた。
彼がドミネールの計画を知っていたわけではない。しかし、俺やノーラが狙われているかも、とは思った。思ったが、我が身かわいさに何も言い出せなかったのだ。その後ろめたさが顔に出ている。
……悪い奴ではないんだよな、と内心、小さく溜息をついた。
「ぶっ、無事だったの?」
「ええ」
「本当に?」
「今、ここにいるでしょう?」
それより、ここで俺達を待ち構えていたということは、何か用事があるのに違いない。
「お困りなんですか?」
「えっ……」
「そうとしか思えないんですけど」
「ええ、ああ、うん……」
さっきまでの勢いはどこへいったのか。俺の肩からも手を放して、項垂れてしまった。
しかし、俺にせよ、ノーラにせよ、そういう無駄をもどかしいと感じる人間だ。要求があるのならさっさと言えばいい。その要求に応えるかどうかはこちらが決める。
「た、助けて欲しいんだ」
「はい、何をです?」
「そ、その、証言してくれれば」
「証言?」
俺とコーザの接点なんて、ここしかない。宿の前でお喋りするだけ。中は狭いし、歓談できるスペースなんてない。本当にそれだけなのに。
「あ、あの日、さ」
「あの日とは?」
「ああ、えっと、その……中で、クスリやってる人がいた夜」
あの晩のことか。俺とノーラが、ルングと一緒にサソリを五百匹も狩った日だ。
やっとゆっくり寝られると思ったのに、バカな奴らが中に売春婦まで連れ込んで、派手にドラッグパーティーを楽しんでいた。しかし、誘惑に心を揺さぶられたコーザは、中にいることに耐えられず、軒先にしゃがみ込んでいたのだ。
「ああ」
「ぼっ、僕、ちゃんと外にいたよね? 毛布を貸して、出歩いてたよね」
「え、ええ。僕とノーラもこの宿の真ん前で寝てましたから、それは」
「そ、そのことをさ、言って欲しいんだ」
つまり、この宿で不祥事を起こした連中とは違いますよ、と。それが証明されれば、除隊扱いにされずに済む。
俺はノーラと顔を見合わせたが、まぁ、それくらいで済むのなら、と頷いた。そう、コーザは悪人ではない。覇気がない、覚悟もない、およそ若者らしくない若者だが、真面目だし、小さな親切くらいはできる人だ。無実の罪に問われるべきとは言えない。
「どこに行けばいいんですか?」
「面倒だろうけど、北側にあるあの詰所? まで一緒に来てくれると」
「それくらいならいいですよ」
但し、ゆっくり歩いて欲しい。まだ足首の腫れが引いていないのだから。
久しぶりに照り付ける陽光の下に出てくると、どこか清々しくはあった。北の大通りをなす敷地と敷地の間を歩いていく。
振り返り、石になったままのターヒヤを見やった。ここに到着した日には、これで望みが叶うと有頂天になったものだが……
今では、少々の疑問がある。
人間が石になるはずがない。また、石に変質したのなら、それはもう生命活動を行っていないのだから、死んでいていいはずだ。なのにピアシング・ハンドは彼女の情報を映し出している。これはどう解釈したらいいのだろう?
彼女を粉々に打ち砕いたら、それでも生きていられるのだろうか? それとも首を切断したら、魂は霧散するのだろうか?
もう一つ、石になったままの彼女には、意識があるのだろうか。外界の様子は見えているのか。
今は傍にコーザがいるから検証は後回しにするとしても、どこかでこれは調べなくてはいけない。
もし、いろいろ当てが外れたら、大変なことになる。意識は残る、それどころか凄まじい苦痛を伴うとか。それでいて、体が砕かれたら死んでしまうとかだったら、計画を見直さなくてはならない。
「そっちじゃない、ここだよ」
コーザがおどおどした口調でそう言った。
「あっ、はい」
俺も視線を前に向けて、彼の方へと歩み寄った。
人間の背丈を越えた壁の合間に、四角く門が口を開けていた。そこに立つと、脇の建物から大柄な男が姿を現した。手には棒を携えている。日焼けした顔に坊主頭、その上に四角い僧帽と、迫力は満点だ。女神神殿の戦士らしく、青地の分厚い衣服が銀の装飾に縁取りされていた。実戦的な防具というより、儀礼的な意味合いを強く感じさせる服装だ。
「どなたでしょうか」
低い声で、威嚇するように彼は言った。言葉遣いこそ丁寧だが、その眼差しは、ほとんど睨みつけているといってよかった。
「こちら、女神挺身隊サハリア方面団の詰所と聞いておりますが」
「左様です」
「彼は挺身隊員コーザ・ノンシー、私はフォレスティア王の騎士ファルス・リンガと申します」
「ご用件は」
「コーザに隊員規約違反の嫌疑がかかっている件につきまして、証言を求められました。責任者の方にお目通り願えますでしょうか」
俺の黄金の腕輪をちらりと見ると、男はムスッとしつつも、片手を突き出し、軽く頭を下げた。
「しばらくお待ちを」
真昼の太陽に焼かれる時間はそう長くもなく、俺達は敷地の内側へと招かれた。建物の中に入る前から、既にして涼しさを感じずにはいられなかった。というのも、一歩踏み込んだ先は別世界だったからだ。背の高い壁の内側は、緑で満たされていた。うまいこと壁を越えない高さの低木ばかりだが、それらがきれいに丸く剪定されて、形よく整えられている。
これらの植物に水をやるのも手間らしく、水路が整えられている。露出している部分は僅かだが、周囲から途切れることなく水音が聞こえるので、誰でもそれとわかるのだ。
ドゥミェコンの中心部では、水を飲むにも金がかかる。体を清める水さえ節約しているくらいなのに、ここでは植木に水とは。
自然と眉根が寄るというものだ。
「ね、ねぇ、ファルス君ってさ」
「はい?」
今は雑談するタイミングではなかろうに。場を弁えないノイジーなコーザに、俺は少し苛立った。
「よくあんなにスラスラと話せるもんだね」
「慣れですよ」
あとは心構え、か。
ここまで来るのに、気持ちの準備をする時間ならあったはずだ。本当はそういう余裕がなくても即断できるのがいいのだろうが、それこそ経験とか素質とかのお話になる。だが、未熟な凡人でも、努力で埋め合わせることのできる領域というものは確かにあるはずで、それをしないのは愚か者ないし怠け者と言わざるを得ない。
建物の前に案内されて、俺の眉間の皺は、更に深くなった。
なんという贅沢だ。何かの仕組みで水が汲み上げられて、白い石造の建築物の真上から流れ続けている。気化熱の力で中はさぞ涼しいことだろう。こうして建物を潤した水のオマケが水路に流れ落ち、庭の木々に給水する仕組みとなっているのだ。
「団長はお会いになるそうです。どうぞこちらへ」
広い玄関の前で僧兵らしき彼はそう言うと、あとは一礼して去っていってしまった。代わりに中から出てきたのは年嵩のメイドだった。彼女は俺達に一礼すると、中へと通してくれた。
廊下に入ると、スッと涼しくなった。通路の白い石壁には、時折絵画が飾られている。他にも、恐らくは古代のサハリアの美術品であろう素朴な彫刻作品が点在していた。この屋敷の主人は、少しでも自分の目を楽しませたかったのか、それとも客人に見せびらかしたかったのか、どちらだろう?
ついに奥の間に辿り着いた。メイドが扉の前で声を上げると、内側から扉が引き開けられた。薄暗い廊下を抜けて、いきなり煌びやかな光が目に突き刺さった。天井には黄金色のシャンデリア、その上には採光用の窓もある。それでいて室内は涼しく、何やらお香まで焚かれている。
部屋の主は、客人の到来にもかかわらず着席したままだった。装飾された茶色の縁取りを持つ白いテーブル、その脇には椅子が二つ。一つは団長と思しき女性が占めているが、残った一つを勧められる気配はなかった。
「ファルス・リンガと申します」
相手が何も言い出さず、じっとこちらを見ているので、俺はこちらから頭を下げ、自己紹介した。
社交辞令もクソもない。形ばかりでも、暑い中わざわざようこそ、との一言もないとは。なんと傲慢なババァだ。
「女神挺身隊サハリア方面団団長、キブラ・アシュガイです」
高飛車なキツい女の声色。
椅子に座ったままの彼女、キブラは、事前に聞き知っていた通りの中年の女性だった。挺身隊の指揮官だからといって、別に武装していたりはしない。どちらかというと痩せ型の体だが、そこに鍛錬の形跡は見て取れなかった。着心地のよさそうな白いワンピースを身に着け、足には負担のないサンダルだ。こちらの気候に合わせたのか髪は短めで、特に前髪は額にかからない。おかげで人を見下すような眼差しが、はっきり見てとれる。皺の寄り始めた手の指には、大粒の宝石をあしらった指輪が三つばかり輝いていた。
「本日はこちら、挺身隊員コーザ・ノンシーの件につきまして、証言を求められましたため、こちらに参りました」
「別に求めてはいませんけど」
突き放すようにキブラは言い放った。
「それに今おっしゃったことには、多少の間違いがありますよ。コーザは既に、隊規で禁じられた薬物の乱用のため、除隊処分が決まっておりますが」
「そちらにつきましての証言です」
このババァ、最初から話を聞くつもりもないらしい。
横に立つコーザは、既に泣きそうな顔をしている。
「数日前、コーザの宿舎にて薬物を使用した隊員がいたようですが、彼はその夜、隊規に違反することを恐れて外出しておりました」
「ファルスさん、あなたは彼とどんな関係が?」
煩わしげに、彼女は尋ねた。溜息をつき、座り直しながら。
「たまたま同じ宿におりました」
「それだけですか? ではまたどうして? あなたはフォレスティア王の騎士だそうですけれど」
「その通りです」
俺は改めて腕輪を見せつけた。
「ですがまだ年少の身、そのため修行を求め、一介の冒険者の身分でもってこの世界の辺境を目指したのです」
「あら、そうなのね」
彼女にとってはどうでもいいことなのだろう。
「それで? あなたは何のために証言しにきたのかしら」
「何のため……コーザにそのような事実はないと告げるためです」
別にコーザからお礼をもらうためでもない。利益など期待していない。単に事実を述べるだけだから、こうして足を運んだだけのこと。
「挺身隊としての決定を、あなたが覆そうと?」
何を言わんとしているかを察して、俺はこみ上げるものを抑え込んだ。
「いいえ」
「あら」
「女神挺身隊がどのような規約を定めまたそれをどのように適用するかは僕の関知するところではありません団長たるあなたがこのコーザをどのように判断しどう処分するかもあなたの権限であって僕が決めることは何もありませんただ僕としては彼が違反行為に手を染めていないであろうことを知っていますその知っていることをただ告げるためだけに参りました」
俺の癖だ。嫌悪感のせいで、思わず早口になってしまった。
帝都と仲の悪いタンディラールの意を受けて、何か嫌がらせしようとしているのではないか。そういう勘繰りもあるのだろう。
それにしても、だ。この女の対応は、まず除隊ありきじゃないか。
だから、俺はあえて言ってやった。クビを切りたければ切ればいい。ただ、俺は事実はこうですよと宣言します、と。彼が処分されたとすればそれは、事実に反する裁きの結果なんですよ、と。
「はぁ……わかりました」
面倒そうに溜息をつくと、彼女は言った。
「彼の件については、再調査を命じます。これでいいですね?」
「キブラ様がお決めになられることです」
「なら結構。処分は追って伝えます」
そう言うと、彼女は軽く手を振った。
それで俺達は退出することになった。
「はぁー、おっかなかった」
キブラの邸宅の敷地を出てしばらく、やっとコーザは胸に手を当てて、息を大きく吐き出した。
「ね、ね、大丈夫かな」
「処分は撤回されるとは思います。でも、わかりません」
「ええー、そんな」
「決めるのはキブラだから」
「よっ、呼び捨てなんかっ、外でしたらっ」
「誰も聞いちゃいませんよ」
まぁ、怯えるのもわかる。生殺与奪の権をすべて握られているようなものなのだし。
「あの人さぁ、すごく偉い人の繋がりだから」
「ええ、わかりますよ」
「血筋もさ、すごいんだよ。元勲の家柄だから、特別なんだ」
帝都の名門は、ギシアン・チーレムの世界統一に由来するところが多い。アシュガイ家もその一つだ。
その昔、チーレム島で暴虐の魔王との最終決戦に臨んだ際、多くの将兵が命懸けで戦った。先陣を切ったのはポロルカ帝国からの降将、炎の槍で知られたナームだった。彼の率いる槍隊はいの一番に突撃し、奮戦の末に全滅したという。その左右を固め戦ったのが後のアシュガイ家であり、ハラガイ家だった。
ナームもそうだが、ともに戦った彼らも、いわゆる帝国の元勲、「救世十二星将」として知られている。その武功を記念して、帝都の中枢には彼らの彫像まで残されているという。
ただ、若年だったナームは子孫もなく死んだが、彼らは生き残って血筋を残した。なお、こうした元勲の中には、例えばインセリア王国のナード王子なども含まれる。要するに、世界統一に貢献はしたが、爵位を受け取らなかった人達だ。だから、初代ティンティナブラム伯に叙されたロージスみたいなのは、ここに含まれない。
しかし、現代まで続く彼らの血筋は、帝都における事実上の貴族といって差し支えない。
「キツそうな人でしたね」
「だっ、だからぁー!」
「あの人、結婚してるんですか? 女性一人でこんな遠くまで来るくらいだから」
「独身だったと思うけど」
今の質問、帝都でしたらセクハラ扱いになりそうだ。あの見た目、年齢、それに性格だったら……俺なら、自分が貧しい中年のオッサンだったとしても、願い下げだ。なんだか、頭の中がますますセクハラじみてきた。
でも、申し訳ないと思えない。なんだったんだ、あのババァ。一般隊員はあんなネズミの巣みたいなところで暮らしてるのに、自分だけは快適な場所で。そのくせ態度ばかりでかくて……
「ま、帰って休みましょう。きっといい結果になりますよ」
なるようにしかならない。
それがわかっていても、コーザの表情は暗いままだった。
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