メインストリートでトリプルデート

「まだ十一? それでもうジェードなの!? すごくない?」


 ラシュカが素っ頓狂な声をあげる。


「確かに早いわね。黒竜討伐なんて、すごいところに参加してたのね」


 一方のオルファスカはというと、あえて余裕のある態度をみせた。参加していた、という表現を選んだところにも、虚勢じみた見栄が感じ取れる。こんな少年が竜を討伐するなんてあり得ない、どうせ立ち会っていただけでしょう、と。


 バイローダと会食した翌日の午前中に、またもや例の四人組がやってきた。それで、内心はどうあれ、笑顔で一緒に市内観光としゃれこむことになったのだ。


 真夏のムスタムにも、それなりに快適な場所がないでもない。大勢の人々が行き交う商業都市なのだから、来客に満足を与える仕掛けも必要になってくる。

 その需要を満たすのが、この大通りと頭上のアーケードだ。ここにムスタムのサービス業が集結している。アーケードといっても、全面を石でしっかり覆ってあるのでもない。それでは暗すぎるし、建造コストも高くつく。

 要するに、大通りの両隣の建物に、それぞれ同じ高さの石柱を備え付け、そこに石造のレールを渡す。レールにはしっかりと結び合わされた布が引っ掛けられている。それも二重に。これによって、それなりの遮光性と通気性、そして適度な明るさを保っている。

 なんだ、そんなものかと思うかもしれないが、これが案外、侮れない。なぜなら、空気の流れが起こるからだ。二重に被さった布の上と下では、温度差が生じる。直射日光を浴びている周囲と、アーケードの下とでは空気の密度が変わってくるわけだ。こうして左右に高層建築物が林立するこの大通りに、日中はいつも風が渡っていく。

 冷房も扇風機もないこの世界では、魔術などの超常的な力によるのでなければ、涼をとる手段があまりない。ムスタムのこのアーケードは、十分に過ごしやすい場所といえるのだ。


 俺達は、そんな大通りの、とあるオープンテラスの飲食店でジュースを飲み、軽食を摘まみながら雑談していた。


「運よく混ぜてもらっただけですよ」


 謙遜ではない。

 この四人組は信用できない。だから俺の実力を知られたくはない。身の上をごまかすことはできないから、元奴隷でエンバイオ家に仕えていた事実、それとこの金の腕輪も見せた。

 今の時点での俺に対する評価は、ひたすら幸運な少年といったところか。それでいい。


「それで今度は人形の迷宮に行くの? なんかすごーい!」


 さっきからラシュカのヨイショが止まらない。しかも、語彙が貧しい。本当に「すごーい」しか言わない。

 一方、オルファスカはというと、なかなか感情を読み取りにくい。まず、わかるのは、目の前の少年が本当に優れた人物である可能性を否定したい、ということ。これは明らかだ。二十三にもなってアメジスト止まりの自分と、本来なら冒険者ギルドに加入することさえ特例とされる十一歳でもう上級冒険者にリーチをかけている少年と。素直に称賛すると、自分が惨めになるのだろう。

 最初から見当はついていたが、彼女は無駄にプライドが高いタイプらしい。


 だが、そうした不快感を彼女は噛み殺している。今は別にやるべきことがあると考えているらしい。つまり、ファルスという少年についての情報収集だ。

 敵か、味方か。取り込めそうか、難しそうか。どうしてこんな場所にいるのか。いろいろ計算しているに違いない。


「でも、わかんないわね。ねぇ、ファルス君」

「はい、なんでしょう」

「ピュリスに商会まであるんでしょ? 騎士の腕輪ももらったんだし、もう無茶する理由、なくない?」


 彼女の言葉に、横でノーラがうんうんと頷いている。


「まだ学び足りないし、鍛錬も不十分です。今のうちに、少しでもいろんな経験をしておきたいんですよ」


 きれいごとで収めた説明に、オルファスカは軽く眉を動かした。


「ふうん」


 俺の説明など、信じていない。何かあるんだろう、と。

 それは事実なのだが、しかし、彼女の想像力では真実に届きそうにない。財産もある、地位もある、名誉も得た……じゃあ、次は女? でも、不自由している? なら、隣にいるこの美少女は? そんなところだろうか。

 妙に目を引く彼女の薄紅色の唇から、俺は目を逸らした。


「皆さんは、帝都からいらしたんですよね」


 会話の間を逃さず、俺は話題を切り替えた。


「チーレム島っていうと、平和なイメージしかないんですけど、冒険者のお仕事って、あるんですか?」

「あるよ」


 オルファスカが座り直して、胸を張った。


「帝都に出入りする商船? あれの護衛で、あちこちの港町との往復をしてる人達がいるかな。海賊も出るしね。まぁ、帝都周辺は、海軍が守ってるから、割合安全なんだけど」

「なるほど、帝都の中だけ安全でも、仕方ないですもんね」

「でも、帝都の中でも、ちゃんと仕事はあるんだよ」


 はて、それはあまりよく知らない。

 お金持ちの護衛とか? でも、帝都は治安がいいらしいし、外敵から身を守るにしたって堅固な城壁もあるから、戦闘力が求められる状況なんて、ちょっと思いつかないのだが。


「四大迷宮って知ってる?」

「いいえ」

「まぁ、そんなもんかなー、帝都を知らない人だと。実際に危ない思いをする人がほとんどいないから、留学に来る人達も、みんなあんまり意識してないんだけどね」


 初耳だったが、彼女の言うには、なんと帝都の付近には四つの迷宮が存在するのだという。


 迷宮とは、本来、危険なものだ。かつて魔王が下僕とするための魔物を養殖した場所だというのだから。

 例えば人形の迷宮もそうした拠点の一つで、こちらは実際に冒険者による間引きがなされないと、内部にいる魔物が外部に溢れ出てくる。諸国戦争時代なんかは、それこそギルドの統制力がガタ落ちになったものだから、人形の迷宮も管理されない状態だった。結果、サハリア中央は完全に魔境と化してしまったという。今でもたまに、巨大なワームとか、砂漠種のリザードマンなんかが付近を徘徊していたりするが、その原因は、数百年前の混乱にある。

 よって、魔物の巣たる迷宮は、駆除、撤去するべきものだ。


「産業になってるのよね」

「そんなことがあるんですか」

「帝都じゃ迷宮産の物資が当たり前に出回ってるから」


 ところが、物事には何でも例外があるらしい。

 帝都を囲む四つの迷宮は、なんとギルドが破壊を禁じている。中に立ち入り、魔物を倒し、物資を奪い取るのは許されているが、最下層にあるという迷宮の核というものを壊してはいけないというのだ。これを壊すと一部の魔物の発生が止まり、また内部に生活の糧を求めていた類の魔物も暮らせなくなり、時間とともに迷宮は力を失って自壊していくという。するとそこから資源を回収することもできなくなるので、経済的な損失が大きいというのだ。

 とはいえ、実際に迷宮の核なるものを目にした人がいるという話は聞いたことがない。あくまで噂のレベルだ。そこまで低い階層に潜れる人がいないので、真偽は明らかではない。


「何が採れるんですか?」

「だいたいのものは見つかるかな。浅い階層だと、まぁ、食料とか、純度の低い普通の金属とか、あと木材とか薬草もあったり。深いところにいけば、魔法の金属とか、貴重なものもいろいろ見つかるみたいね」


 まるでゲームの世界だ。

 そんな都合のいい場所があるものだろうか。


「で、私はその四大迷宮の第十階層をギルド加入から二年、十七歳で全部制覇したってわけ。だから、このアメジストの階級章も、本物よ」

「へぇ、すごいんですね」


 相槌を打ちながらも、俺は内心で首を傾げていた。

 じゃあ、その四つの迷宮ってのはよっぽど安全なんだろうか。帝都だけは査定が甘々なんだろうか。でなければ、強い人に守ってもらって、そこまで辿り着いたんだろうか。


「オルファスカさんみたいに美人で、しかも腕もたつとなると、みんなほっとかなかったんじゃないですか」

「そんなでもないけど」


 自尊心をくすぐられたい性格なのは、もう把握済みだ。褒めておだてて喋らせよう。


「でも、あちこちの貴族の子女からは、お声がけいただいたわ。お食事会に招かれたりとか、いろいろね」

「へぇ、やっぱり話題だったんですね」

「この剣も」


 彼女の腰に提げられたショートソード。それを静かに引き抜き、テーブルの上にそっと置く。


「とある貴族の方からいただいたものよ」

「きれいな刀身ですね」

「ま、私も気に入ってはいるわ」


 なんと、こいつは驚きだ。

 質はどうあれ、材料が普通じゃない。かすかに青みがかっている。


「これ、ミスリルでは」

「あら、よくわかったわね」

「相当な値打ちものですね。こんな剣を持っているなんて」

「いい道具がなきゃ、いい仕事はできないでしょ?」


 安く見積もっても、金貨一千枚くらいの価値ならあるんじゃないか。どこの貴族だろう? 何のために?

 当時、まだ若く美しい……今でも美人だが……オルファスカに気に入ってほしくて、貢いだりしたんだろうか。


 しかし、その割には。あまり使った形跡がみられない。それでいて、手入れ不足が目立つ。具体的には、表面の油が古い。放置しておいても、ミスリルはまず錆びたりはしないが、絶対ではない。汚れを拭い、新しい油で表面を保護する。そうして少しでも長持ちさせるべきものだ。

 もっとも、そうまで大切にしても、剣は折れる。刃毀れもする。俺みたいに、一年でミスリルの剣をダメにしたのもいる。本来、武器とは消耗品なのだ。

 本物の戦士は、なるほど、道具を大切にする。ただ、意味合いが違う。こんな風に見せびらかすためではない。剣を見るだけで、彼女の程度がわかろうものだ。


 なお、さっきから会話をしているのは、主に俺とオルファスカで、たまにラシュカが合いの手を入れる程度だ。ベルとザイフスは、さっきから沈黙したまま。ノーラも観察に徹しているが。

 こいつらは何を考えているんだろう。だってそうだ。オルファスカがここにいる目的は、少なくとも表面上は、ディンとの結婚を果たすためだ。だったら一人で来たらいいのに。何しに付き纏っているんだろうか。


「じゃあ、あちらではそれなりに名前の知られた冒険者なんですね」

「有名というほどじゃないけど。でも、知ってるでしょ? 同じ場所でいくら実績を上げても、アメジストから上には行けないから」

「でも、ムスタムまで来たのは、そのためではないですよね」

「そうね。ディンと出会わなかったら、ここまで来たりはしなかったわ」


 さて、核心だ。

 もっとも、こんな回りくどいことをする必要なんてないのかもしれない。精神操作魔術で全部中身を見てしまえば、本音なんかすぐわかる。

 ただそれでは、こいつらを追い払うことはできても、ノーラをピュリスに送り返す結果には繋がらない。


「その、失礼ながら」

「なぁに?」

「相当に歳の差があるみたいなので」

「ふふっ、何言ってるの? 帝都じゃこれくらい、なんてことないわよ。それに」


 髪を掻き分けながら、彼女は余裕たっぷりに言った。


「それを言うなら、文句をつけるのは私の方でしょ? 何の問題もないじゃない」


 ディン・フリュミー、四十二歳。オルファスカ・ペロタス、二十三歳。年齢差、実に十九年。

 確かに、前世の価値観からすると、これはもう、親が怒り狂うレベルだ。どこのオッサンに嫁がせようというんだ、と。

 しかし、こちらとあちらでは、やはり多少の考え方の違いがある。帝都ではどうかわからないが、少なくとも西方大陸では、女性の結婚はもっとずっと早い。農民だと、十五、六から嫁入りなんてこともある。これが上流階級になると、やはり学園を卒業してからということになるので、早くて十八歳くらいからになる。

 しかし、二十三となると。多少、婚期が遅れるとしても、二十一、二くらいで決まるものだ。二十三、四ともなれば、多少のディスカウントをしてでも売り切らなくてはいけない。そういう意識がある。


 一方で、性差別といわれるかもしれないが、やはりこちらの世界では、結婚に際して男の年齢は、そこまで問題とはならない。さすがに六十とか、そんな高齢者になると話も違ってくるが、四十代前半なら、まだ「アリ」だ。その代わり、収入とか地位が問題になる。

 ディンの場合、騎士の腕輪を身に帯びており、ここムスタムでは信頼されている船乗りで、名家の出でもある。自宅の造りこそ慎ましいが、それは無駄遣いをしていないだけだ。財産だってなくはない。その意味では、そこそこ若い女性を迎え入れるくらいはできる身分だ。


「僕もフリュミーさんのことは昔から知っているので……よろしければ、馴れ初めなんかを教えていただけませんか」

「なに? 人の恋バナに興味があるの?」

「聞いてみたいものじゃないですか」


 俺が探りを入れているらしいことには気付いている。構わない。どうせ自分にとって都合のいいことしか言わないだろうが。


「彼と出会ったのは去年ね。ディンが南方大陸から帝都まで戻ってきたときに、倉庫の警備の仕事があって」

「いろいろ貴重なものを積んできたんでしょうが……」

「そうよ。珍しい香木とか、香辛料とかもね。今、帝都じゃ南方大陸の服とか料理が大流行してるのよ」


 とすると、案の定、彼が成功者になってから、お近付きになった……いや、なろうとした、か。


「初めて会ったのは、倉庫の中だったわ。倉庫といっても広くて。三階建てくらいの高さはある場所よ」

「わかります。仲買人との話がつくまで、品物を寝かせておくわけですね」

「そうそう。それで、彼は警備担当の私達にも声をかけてきて、そこで握手したの」


 彼ならやりそうだ。開けっ広げな態度で近付いて、力強く握手する。相手に好印象を与えて損することはない。

 ただ、それだけでもないのだろう。金になる品々を積んでここまでやってきた。警備員だって信頼できるかわからない。だから、直接自分の目で確認して、相手の人となりを知っておきたかったのではないか。そこで自分の人間性も知ってもらう。互いが相手を人と認識すれば、悪事に手を染める確率を下げることができる。


「多分、あの時にどちらも瞬間的に感じたんだと思うわ。ああ、この人だって」

「そ、そんなものですか」

「ええ。それから間もなく、最初は大勢で、そのうちに二人で会うようになったんだけど」

「うんうん」

「これ以上はナシでお願いね」

「ええっ」


 これじゃ、何も喋ってないのと同じじゃないか。


「まだ大人になり切ってない君には刺激が強すぎるもの」

「そんなことはない、と思いますが」

「あーるーの。ね? 聞き分けなさい」

「いやいやいや」


 何の説明にもなってないとばかり、俺は手を振った。


「じゃ、あなたがディンさんと付き合ってたって証拠は何もないってことじゃないですか」

「そんなことないわよ」


 すると彼女は、例のネックレスを取り出してみせた。


「彼がムスタムに帰るっていうから、私も一緒に行きたかったんだけど、どうしても無理で。だったら、後で追いかけてきなさいってことで、このネックレスを受け取ったのよ。これ、大事なものなんだから」

「確かにそれなりの値段はしそうですけど、それでもせいぜい金貨十枚くらいで買えそうですが」

「お金の問題じゃないから。これはね、思い出の品なんだって言ってたわ」

「えっ」


 それは初耳だ。


「あんまりしたい話じゃないけど。彼の気持ちの問題もあるから、言いふらさないでね? 若い頃に彼が好きだった人がいたみたいで。その人に贈って求婚するつもりだったのね。だけど、その女の人が死んじゃって。それでずっと持ったままにしてたんだって」


 そういう事情が? いや、彼女の創作かもしれない。

 ただ、辻褄は合ってしまうのだ。なぜならディンは結婚に際して、このネックレスを持ち歩かず、兄に預けていった。嵩張るものでもない。そうする理由はただ一つ、かつての恋の忘れ形見を持ったままでいるのは、新たに妻になる女性に対して失礼だからに他なるまい。

 しかし、帰国した彼は、また独身に戻っていた。バイローダは、預かっていた品々を弟に返却したが、その時には既に、ディンにもこのネックレスを海に投げ捨てる理由などなかった。むしろ昔を懐かしみながら、思い出の品を身に帯びて、再び海に出たのではなかろうか。


「でも、それをあなたに?」

「私もびっくりしたわ。でも、選んでくれたってことだから……嬉しくないわけがないでしょ?」


 初婚のときには封印して、再婚の際には与える? 行動基準がブレている。

 やっぱり引っかかる。彼なら、次に妻になる女性に出会った時点で、この品をまた預けるか、今度こそ捨てるかするだろう。


「でも、ちょっと運が悪かったみたいね。私がムスタムに着く少し前に、また船出していたなんて」

「そうですね」


 と言いながら……やっぱりこいつ、わざと彼がいなくなるのを見計らってやってきたんじゃないか、としか思えない。


「でもそれなら、どうしてお仲間の皆さんと一緒に?」

「ああ、それは」


 ラシュカが代わりに説明した。


「私達、ほら、ずっと帝都でしか活動してないから、このままじゃ上の階級に上がれないの。だから、オルファはディンさんに会いに来たんだけど、私達はついでにここで実績を積もうと思って」

「なるほどです」


 本当だろうか。

 心の中で比べてみる。ピュリスにいた冒険者といえば、ガッシュ達だ。何かと身内に甘くて、仲間といえば無条件に信じるガッシュと、少々皮肉屋ながら意外と丁寧なドロル、地味な仕事も厭わず引き受けるハリに、実力はあるけど奔放で、ちょっと抜けていたウィー。それに、なんでもこなせるのに真面目で辛抱強いユミ。

 彼らとは、何かが決定的に違う。でも、どこが?


「皆さん、仲間になってからは長いんですか?」

「同じパーティーを組むようになってからは……一番古い付き合いなのがザイフスで、確か二年位前からかしら?」

「へぇ、次は?」

「私よ。で、一年前くらいかな。最後にベルが」


 はて? では、疑問をぶつけてみよう。


「もっと前からのお付き合いかと思っていました。じゃあ、皆さんがアメジストに昇格したのは、割と最近ですか?」

「ううん、オルファは、もう十七歳のときになってたから。私が最後」


 じゃあ、ベルが、このパーティー唯一の実力者である彼が加入する前に、既にアメジストに昇格していた?


「へぇ……じゃあ、その、このパーティーのリーダーは、どなたなんです?」

「うーん、それは特に」


 オルファスカとラシュカが、目を見合わせた。


「特にはないかな。私達、別にそんなのなくてもやっていけてるから」

「そうですか」


 違和感の原因は、もしかすると、上下関係かもしれない。

 ガッシュ達は、ガッシュをリーダーとするパーティーだった。何かあって意見が割れたら、ガッシュが責任をもって決めていた。でも、それは役割上のことだ。仲間同士、感情的にはフラットだった。

 でも、こいつらは、どうもそうじゃない。表面上はフラットな関係なのに、実は上下関係がありそうだ。例えば女同士でも、前に出るのはオルファスカで、ラシュカはそのカバー役に収まっている。そして、ベルはほとんど何も言わない。しかし、一番気になるのは、ザイフスが時折見せる、暗い表情だ。


「だから、今は小さな採取依頼なんかを受けながら、細々と暮らしてる感じかしらね」

「なるほど、わかりました」

「ねぇ、ファルス君」


 オルファスカが、顔を近付けてきた。ふわりと芳しい香水の匂いが鼻をかすめる。


「私、どうしてもディンと結婚したいの。応援してくれる?」


 じっと目を見ながら。

 この確信犯め。


「愛し合う人同士の気持ちを引き裂くなんて、僕にはできませんよ」


 そう言い逃れるのがせいぜいだった。

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