騎士の心
早朝から、湿気を多く含んだ生温かい風が吹いた。頭上には厚く雲が垂れ込めている。
すぐ近くの家屋は色鮮やかで、まるで普段通りのようだった。この地域にありがちだが、くっきり浮かび上がる黒塗りの木の柱に、真っ白な壁……だが、木窓は開け放たれたまま。吹き付ける風に、時折、物音をたてるばかり。
馬車には不向きなでこぼこだらけの石畳を、俺はゆっくりと歩いた。慌てず、急がず。静かに息をしながら。
それは、俺の後ろに立つ人物も同じだった。彼は腰に剣を帯び、片手に縄の一端を握っている。結わえてあるのは……この俺だ。
あと少しで、フリンガ城前の、あの広場に辿り着く。紅玉の刻までにはまだ少しあるが、多少遅れたくらいでは、何も起きないだろう。人質を殺しても、俺が急いで駆けつけるわけではない。
俺はそっと後ろを振り向いた。アドラットは無表情だった。ただ前を見据えて、それから俺に進むよう促した。何も言わずに、ただ俺を縛る縄を揺らすことで。
広場に立ち入る少し手前で、俺達はいったん、足を止めた。これが最後と、じっくり耳を傾ける。
「もってぇねぇなぁ」
「ちゃんと育ちゃあ上玉になるんだろうによ」
「今のうちに揉んどけよ」
死刑囚は五人。そのうち三人は女。はっきり視認はできないが、誰に何をしようとしているかなら、すぐわかる。大方、下っ端の兵士どもがくだらない真似をしているのだろう。
「一年前とはえれぇ違いだぜ」
「そうなのか?」
「ああ。あん時は、そりゃあもうイキがよかったぜ? 泣く、喚く、暴れる、噛み付くってなぁ! それがどうだ。今じゃあすっかりしおらしくなりやがって」
アーウィンが彼らを捕まえたのは、いつ頃だろう? いずれにせよ、ゴーファトが何もせずに、ただ監禁しておいたなどとは考えにくい。殺してしまったら人質にならないが、生きてさえいれば問題ないのだから。
とはいえ、ノーラとタマリアは別として、あとは巻き添えを食っただけだ。オルヴィータやドロルは、それこそ今朝方、いきなり引きずり出されたばかりとしても不思議ではない。
だから問題は、二人がどんな状態でいるか、だ。彼女らがどんな顔をしているか、確認するのが怖い。けれども、しっかり向き合わなくては。
「小汚くもなったな」
「ワハハハ!」
兵士達は侮辱をやめなかった。そこに横合いから声が突き刺さる。
「……おい、フニャチン野郎」
聞き慣れない幼い声に、兵士達は徐々に静かになっていった。そんな生意気な口を利く馬鹿が、いったいどこにいたのかと。やがてその視線は、反対側に陣取る少年へと向けられていく。
「なんだって、おい」
「あ、ごめん」
「へっ、今更怖気づいてもおせぇんだよ」
「そうじゃない」
あえて目を逸らし、傲然と顎をさらして、彼は言った。
「まさか本当にフニャチンだったなんて……ごめんよ」
気性の荒いスーディア兵ではあるが、あからさまな挑発にすぐさま怒り狂うほど短絡的ではなかった。
「残念だったな、ボウズ」
怒りを収めて、あえて一人が進み出て、自慢してみせる。
「残念ながら、俺らはみんなギンギンでなぁ……昨夜、こいつらでイヤってほどヌイたのに、朝からバキバキで困ってんだよ」
「へぇ、意外。たまってるんだね」
「ガキにゃあまだわかんねぇよなぁ? ツッコむのは最高にいいぞ! ま、お前は味わう前に死んじまうんだがな」
恐らく、汚い言葉を使い慣れていないのだろう。だが、ルークは一歩も退かなかった。ややぎこちないながらも、最後まで言い切った。
「で、領主様が女の囚人を見つけてくれるのを待たなきゃ、自分で処理もできないんだ。おじさん達、かわいそう」
「あ?」
「女なんて、いくらでもいるのにね……ははは」
一瞬の間を挟んで、意味を悟った兵士らが、激昂する。
「てめぇ!」
「ざっけんな、おい!」
ああ、そうだった。昔の彼は、確かに乱暴者ではあった。思慮も足りず、気も短かった。だが、絶対に弱い者には手を出さなかったし、出させなかった。
この前、久しぶりに会った時、あの頃の彼はとっくに死んだのだと、そう思ったが、それは間違いだった。彼はいた。ずっとここにいた。
「待て」
後ろからの上官の静かな声が、彼らのそれ以上の凶行を遮った。
「まだ殺すな」
「だって、こいつが」
「紅玉の刻まで、まだ少しある」
「でっ、ですが、ナイザ様」
「聞こえんか」
悔しげに、兵士の一人が吐き捨てた。
「てめぇ、覚えてろよ」
「何を?」
「くっ……いいか! 処刑の時間になったら、楽には殺さん。指一本ずつ、じっくり刻んでやるからな!」
「そんなんで満足かよ。ああ、そっか……フニャ……だもんな! 似てるもん見たら、ズタズタにしたくもなるよな!」
「こっ、こいつ!」
身動き一つできなくても、彼は戦っている。
最後の最後まで、何があるかわからない。俺が助けに来るかもしれないし、もしかすると、何か奇跡が起きることだってあり得る。もちろん、何の当てもない。
それでも、兵士達の怒りが自分にだけ向けば。その間は、他の誰かが傷つくことはない。一分でも、一秒でも長く、彼らの敵意を引きつける。そうすれば、誰か一人だけでも、或いは救われるかもしれない。
だが、俺は彼の期待に応えられるだろうか?
後ろでアドラットが縄を揺らし、俺を促した。
そして、ついに通りを抜ける。
俺を出迎えたのは、噴水の前に横一列に立てられた、五つの十字架だった。ただ、それは前世の教会にあるキリスト像にも似て、足を載せる台がついている。捕らえられている少年少女の腕に五寸釘が刺さっているのでもない。動けないよう、しっかりと縛られているだけだ。
さほどの高さもない。槍が届かなくなる。どちらかというと、日本の磔に近いのだろう。これらを支える台は石造りだが、その汚れ方で処刑方法がわかる。黒い血の痕がこびりついていたからだ。
「ファルス……!」
俺はのっそりと身を起こし、目の前の人質を見渡した。
真っ先に声をあげたのが、真ん中にいた黒髪の少女だった。忠告したのに。一刻も早くスーディアから逃げろと。誰かを助けるより、自分自身の身を守れと。その結果がこれだ。
その左隣には金髪の娘がいる。彼女は、俺の登場にもかかわらず、まるで動きを見せなかった。ぐったりと項垂れて、もはや抵抗する意欲も失ったかのようだ。
一番左には、モサモサになった髪の毛に、顔の上半分をすっかり隠された少女がいた。絶望のせいか、いかなる表情も読み取れない。
転じて右側には、さっきまで気を吐いていたルークがいた。俺の姿を目にして、少し驚いているようだ。けれども、その瞳に戸惑いはない。
最後に、右端にはドロルがいた。こちらも表情を読み取りにくいが、そこにはどこか、憤然とした様子が感じられた。わからなくもない。どうして自分までこいつらの仲間だと思われなくてはならないのだと。
彼らを取り巻くのが、三十人くらいの兵士達。鋲で補強された革の鎧、兜に、手には槍、腰には剣。完全武装だ。
左端のオルヴィータのすぐ傍に、業物と思しき槍を手にした男が立っていた。猛獣を思わせる猛々しい髭に、焼け付くような眼差し。ナイザだ。
こちらから見て奥、噴水のすぐ手前には、俺を見て目を輝かせるゴーファトがいた。周囲を兵士に囲まれながら、彼に油断はない。鎧こそ身につけていないものの、手にはしっかりとあの黒い棍棒が握られている。
そして、その脇には……
黒衣に身を包んだあの男、アーウィンが佇んでいた。背筋が凍るような、冷たい笑みを浮かべて。
一通り、周囲を見回してから、もう一度ノーラの目を覗き見た。
彼女は、静かに、落ち着いた様子で、謝罪した。
「……ごめんなさい」
その口調で俺は察した。
状況はそこまで悪くない。この戦い、勝利とまではいかずとも、引き分けにはできるかもしれない。デクリオンがこの件に深入りしなかったらしいことは、俺にとって幸運だった。
笑みを深くしたゴーファトは、余裕を見せつつ、ゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。そして、一定の距離をおいて声をかけてきた。
「やぁ、ファルス君」
「ゴーファト様」
「その格好はなんだね?」
説明の必要もないくらい、明確だった。すぐ後ろに立つ、黄土色のマントを纏った男に連行されている。
「それは、あの」
「おお閣下」
俺が声をあげようとしたところで、アドラットがそれを遮るように大声を出した。
「お前は誰だ」
「帝都より参りました冒険者、アドラットと申します」
「ふん、それでお前はなぜ、この少年を捕まえて私の下に連れてきた?」
するとアドラットは、口元を緩めて、喜びを表した。
「わかりきったことでございます。閣下が女人より少年を愛するは周知の事実。そしてこの少年、ファルスは、隙を見てアグリオから逃げ出さんとの腹積もりでありましたゆえ」
「ほほう、それはよくないな」
それで彼の視線が俺に戻される。
「ファルス君……君には失望させられたよ」
「何をおっしゃいますか」
「私が言ったことを忘れたのかね? アグリオからは出さない、と。本当にささやかな望みだ。君に傍にいて欲しいがゆえに、私は君にスーディアの統治権まで与えようとしていたのに。なんという薄情さだろう?」
人差し指をたてながら、彼は俺の罪状を数え始めた。
「それだけじゃない。君の罪はもう一つ」
中指を立てて、彼はすぐ後ろを振り返った。
「あんな卑しい汚物とこっそり逢瀬を重ねていたなんて……私があれほど、女は悪魔だと、そう教えてやったというのに。君は愚かで、しかも裏切り者だった」
「そのような、あれは」
「言い訳は無用だよ、ファルス君。男らしくない」
そして薬指も立てた。
「おまけに、今の格好はなんだ? そこの冒険者に捕まるとは。君には黒竜さえ討つほどの武勇があったのではなかったのか」
「誰しも眠らずにはいられません」
「ああ! これだから、女に触れるなと言ったのだ! 女々しい言い訳こそ、奴らの得意とするところだから。君は精神を冒されているのだよ、自分ではそれと気付かないうちに。真の武人なら、眠るときでさえ警戒は怠らないものだ。それがなんと情けない」
更に小指も立てた。
「こうして話しているうちにも、君の罪は増えていく。うっかり眠り込んで不覚をとっただけでなく、私に慈悲と救済を求めている。そのあさましさこそが罪なのだ。そのような往生際の悪さが、どれほど私を悲しませるか、想像もつかないのかね?」
得意げになって俺の罪を列挙しているが、こんなものは口実に過ぎない。
「わかりました」
俺はあえて頷いてみせた。
「僕のことは、どうしていただいても構いません。ですが、そこにいる五人は、僕の不行跡とは何の関わりもありません。閣下には何卒お慈悲を」
「やれやれ」
だが、ゴーファトは肩をすくめた。
「短い恋だったよ。興醒めだ。もっと楽しめるかと思ったのだが……まぁいい。誰か、この堕落した少年を引っ立てよ」
「はっ」
兵士の一人が進み出る。アドラットは、縄をそいつに手渡した。俺も逆らわず、彼の傍に立つ。
「というわけで、欲しいものは手に入った。じゃあ、あとはそこのゴミどもを片付けるだけだな」
「ゴーファト様!」
「今となっては君の声であっても耳障りなだけだ。頼むからじっとしていてくれたまえ。ではまずは」
「お待ちください」
そこにアドラットが割り込んだ。声をかけるだけでなく、進み出ようとして、兵士に遮られる。
「なんだ」
「閣下は手順を取り違えておいでです。わざわざ罪人どもを並べ立てたのも、望みの人をおびき寄せるためでしょう? ですがそこの少年、ファルスを捕らえて差し出したのが誰か、もう忘れてらっしゃる」
揉み手をしながら、アドラットはそう言って顔色を窺っていた。
ゴーファトはじっと彼を見据え、指で合図した。兵士が体をまさぐる。腰に提げた剣は取り上げられ、他に何か凶器を携えていないか、徹底的に調べられた。
「な、何もありません、ありませんよ」
彼がそう訴えても、兵士は黙々と職務を果たした。そして報告した。
「何もありませんでした」
「返してください」
アドラットは剣を強引に取り返し……兵士達の視線が険しくなったのを悟って、おずおずとそれを、また別の兵士の手に渡した。つまり、俺を縛る縄を手にした男に。
これで、黄土色のローブを身に纏った初老の冒険者は、また丸腰になった。
「ふむ」
「こ、この通り、私は怪しいものではございません、閣下……へへへ」
恐れと喜びがないまぜになったような表情を浮かべつつ、彼は腰を低くして滑るように歩み寄り、ゴーファトのすぐ足下に跪いた。いや、蹴躓いたといってもよかった。
「ですが、こうでもしないと、閣下にお恥をかかせてしまうことにですね」
「わかっておる」
「さすがは閣下」
手柄をたてた目下の者に褒美も与えず、手ぶらで帰らせては、貴族の名折れだ。その意味では、彼の請求はゴーファトの体面を保つためにも必要ではあった。
「此度はよくぞ私の求めに応えた。褒美を取らせよう」
「ありがたき幸せ」
「これ! 誰か! 金貨をもて」
だが、足下のアドラットは、首を振った。
「どうした」
「閣下、やはりそれではいけません」
「何がだ」
「では、そこの少年の値打ちは、金貨で贖える程度のものでしょうか」
この主張に、ゴーファトは若干の苛立ちをみせた。けれども、なお鷹揚に頷いた。
「ならばお前を家臣として取り立て、銀の腕輪を与えよう」
「おお、閣下。それも素晴らしくはございますが、いささか的外れでございます」
二度もケチをつける男に、もはや彼は苛立ちを隠せなくなっていた。
「では、どうせよというのだ」
「私の望みを聞き届けてくださいませ」
溜息をつき、右手で棍棒を地面に突き立てて、ゴーファトは尋ねた。
「よかろう。何が望みだ」
「スーディアの平和」
「なに」
眩い銀色の光が、鋭く空を裂いた。痛みを感じないゴーファトは、気付くのに一瞬を要した。
「なっ! 貴様!」
起き上がりざま、アドラットは下から斬り上げたのだ。その一撃は、棍棒を持つ右腕をしっかりと切り裂いていた。両断には至らなかったが、あれではもう、力を込めるなどできない。
「どこに、そんな」
いきなりのことに、驚きながらも後ずさる。
直前に兵士達が身体検査したはずだった。なのに、何もないところからいきなり剣が出現したのだ。
「平和を望まぬ人があろうか」
アドラットは剣を突きつけながら、ゴーファトとの間合いをじっくりと詰めていく。
「だが、貧しさが、苦しさが、飢えが、痛みが! 人々を争いに駆り立てるのだ」
「貴様はなんだ! 愚民どもがなんだというのだ!」
この状況で、いち早く立ち直ったナイザが、我に返って槍を構える。
そのナイザに、アドラットは片手を突き出した。
「失せよ曲者!」
「出でよ、シャーヒナ!」
「うっ!?」
途端に水色の粒子のようなものが噴き出たかと思うと、そこから体長三メートルはあろうかという獅子……いや、あの大きな翼、猛禽の頭を持つ魔獣、グリフォンが現れ、いきなり彼を押し倒した。これではさしものナイザも、槍を振るうどころではない。
「キュィエェェッ!」
その耳をつんざく奇声に、周囲の兵士はたじろいだ。自分より遥かに大きな魔物が、指揮官を踏みつけているのだ。助けるべきか、引き下がるべきか、彼らは逡巡した。
「お、おのれ」
ゴーファトは慌てて命令を下した。
「お前達! 思い知らせてやれ! まずは女どもを殺せっ!」
処刑台の前に立った兵士達が互いに頷きあい、槍をノーラとタマリア、それにオルヴィータに向けた。
「待って!」
ノーラが叫んだ。
「やめて」
「命令だ」
「やめないと、ひどいことに」
「諦めて死ね!」
彼らは、容赦なく槍を突き立てた。
真横に立つ同僚に。
「へっ……?」
「ぐぼっ……な、なんで」
腹から槍の柄が生えている。それは、刺した本人も同じだった。だが、理解が追いつく前に、彼らは足から力が抜けて、その場に倒れこんだ。
意図していたこととはいえ、その残酷さに、彼女は首を振って目を伏せた。
俺も予想はしていた。ノーラとタマリアがいつアーウィンに捕らえられたのかはわからない。ただ、少なくともあの真夜中の布告の前だったことは確かだ。あの時刻から今まで、たっぷり数時間もある。ゴーファトなら、殺す前に強姦を命じておくに決まっていた。
彼女は、それを逆手に取ったのだ。牢獄にやってきて、さぁこれから楽しもうという兵士達を、まずは『誘眠』で昏倒させた。そして記憶を改竄ないし消去した上で、『暗示』を前もってかけておく。ノーラやその仲間を殺そうとした場合には、反射的に味方を攻撃するように、と。
アーウィンは、ノーラが魔術師であることを見落としたのか? そうとしか説明がつかない。あまりに圧倒的過ぎる能力もあって、抵抗などろくになかったのだろう。そして、ただの小娘と侮ったので、デクリオンに能力を鑑定させたりもしなかった。それがあだになったのだ。
操られた兵士が、腰の剣でノーラの縄を断ち切った。彼女は石畳の上に降り立ち、目の前の槍を拾い上げる。
こうなっては、三十人からの兵士も、まるで役に立たない。指揮官は押さえ込まれ、主人は奇襲を受け、そして仲間は互いに殺しあって。僅かに正気を保った連中も、もはや棒立ちだ。
「馬鹿な……はっ!?」
予想外の出来事が連続して起きた。さすがのゴーファトも、これには戸惑った。そこへアドラットの鋭い刺突が繰り出される。
「暴虐の限りを尽くして民を恐れさせ」
「くっ」
「荒淫の果てに数多の命を散らし」
「うおっ」
「苛斂誅求甚だしく、ために娘は身を売り、息子は野盗に身を落とす」
力の入らない右腕は、ただ棍棒に添えてあるだけだ。片腕ではこの剣士の技を捌き切れない。ゴーファトの顔に、はじめて恐れが滲み出た。
「無念の死者、力なき民に代わって奸邪を討つ! 覚悟!」
怒りとともに、叩きつけるような横薙ぎがゴーファトの右肩に打ち下ろされる。この瞬間を、彼は見逃さなかった。
無傷の左腕に力を込め、体捌きに剣を巻き込むようにして、アドラットを引きずり込んだ。
勝機を見出して、一瞬、彼の頬が緩んだ。だが、そこにアドラットはいなかった。
陽炎のように、渦のように。
身を翻したアドラットは、強烈な打撃などなかったかのように、いまやゴーファトの左肩めがけて必殺の刺突を繰り出していた。
「えっ!?」
あれは……アネロスの秘剣、『首狩り』じゃないか。
なぜ彼が知っている?
狙いに気付いたゴーファトは、反射的に体を捻り、腕を縮める。身を投げ出して、飛び下がろうとした。
首の代わりに左腕が引き裂かれ、彼は石畳に転がった。
もはや勝敗は決した。
しゃがみこんだゴーファトの首元に、白い切っ先が添えられる。
「貴様は……何者だ」
歯噛みしながら、ゴーファトは勝者を睨みつけた。
「女神の騎士、アドラット・サーグン」
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