下僕にしてあげましょう

 宿舎に戻る頃には、日も高くなっていた。

 俺はそのままテラス席に向かい、無言でどっかと腰を下ろす。すぐにウェイターがやってきて一礼し、俺の不機嫌を見て取って、何も言わずに引き下がっていく。間もなく、パンとサラダ、目玉焼きとフライドチキン、果汁の簡単な朝食が運ばれてきた。

 俺は、それを味わいもせずに食べながら、次を考える。


 もう、できることを一つずつ、片付けていくしかない。


 ノーラの安全については、可能な限りの対策はした。情報開示をして、即時避難を呼びかけた。だが、彼女がこれを受け入れない場合、俺にできることはない。殴りつけて無理やりピュリスまで拉致するなんて、事実上不可能だからだ。それはどうしてもパッシャやゴーファトの注意を惹きつけてしまうから、どうせノーラは危険にさらされる。よって、これは不本意ながら「対策済」として次に進む以外にない。

 次の課題。明確になっていない事実を可能な限り明らかにする。


 列挙してみよう。


『パッシャとゴーファトの関係は?』


 恐らくゴーファトは協力者に留まっている。パッシャの正規メンバーではない。

 パッシャがゴーファトに接近する理由は明らかではないが、これははっきりした何かなどないのかもしれない。広大な領地を誇る辺境伯が組織の協力者になる。これだけでもメリットだ。

 逆にゴーファトがパッシャと手を組む理由は、まったくの不明だ。恐らくだが、ゴーファトにはその必要がほとんどない。

 彼は王族ではないからクーデターなど起こせないし、誰かを傀儡にして王国を牛耳るという目標があるようにも見えない。もしそんなものがあるなら、先の内乱でタンディラールに協力するのはおかしいからだ。彼がフミールの側に立っていたら、決着は変わっていたのだ。領土的野心もなさそうだし、そもそもスーディアの真ん中に陣取っている以上、飛び地みたいな領土を広げたところで、統治できないだろう。

 他は? 金がないとか? 領民から搾取すればいい。女……は興味ないから、美少年。これも間に合っている。足りなければ買えばいいし、そのためにプルダヴァーツみたいな商人とも付き合いを保っている。武力も、一般的な人間の基準で考えれば、十分すぎるほどある。

 パッシャ関連ということで思い浮かぶのは復讐だが、彼が誰かを恨んでいるとは思えない。恨みならたくさん買っていると思うが。


 これはいくら考えても、現段階では材料不足だ。


『ゴーファトがファルスを呼びつけた理由は?』


 もっと不可解なのが、これだ。

 待望の少年、性欲の対象であろうこの俺を呼びつけておいて、いまだに彼は手を触れずにいる。握手くらいはしたが、性的接触はゼロ。正直、ゴーファトがこんなにストイックだったとは、まったくの予想外だった。

 ピアシング・ハンドについて知っているという仮説は、今のところ有力ではない。であれば、俺をフリンガ城の外に出す理由もないし、もっと積極的に厚遇して、協力を得ようとするはずだ。

 彼は俺について、何か別の利用方法があるのだ。しかし、欲望の捌け口でもなければ、ピアシング・ハンド目当てでもないとすると、どうだろう?


 やはりこれも不明。

 しかし、これについての手がかりを、俺は既に受け取っているのかもしれない。


『使徒の狙いは?』


 これはもう、わかった。少なくとも、自分ではわかったつもりになっている。俺を苦悩させたいのだ。

 俺の中の、ごく普通の人としての感情を蹂躙し、ズタズタに切り刻むため。それが奴にとってどんな利益になるかはわからないが、とにかくそれが目的なのだ。


 漠然としているものの、根拠ならある。ではなぜ、二年半前に俺とグルービーとの対決を演出したのだろう? 俺を殺すだけなら、あんな大袈裟な舞台装置はいらない。グルービーを使う必要すらなかっただろう。もし使徒がアーウィンに匹敵するかそれ以上の能力を有しているのであれば、ただピュリスに行って家ごと俺を焼き払えば終わっていたのだから。

 奴の狙いは、だから……前に俺がアイビィを殺したときのように。また身近な人を、この手で殺害させることにある。


 俺のせいで、俺の愛する人が死ぬ。それがどんな結果を生むだろう?

 俺は、余計なことに煩わされず、ひたすらに不死を追求するようになる。奇妙な話だが、その意味では、使徒と俺の目的は、一致してしまっているのだ。


 そして使徒は、俺に小さな謎、いや、ヒントを投げ渡した。これが恐らく、ゴーファトの目的と関係しているのだ。


『隠された神殿にあったものとは?』


 森の中に隠れるように存在した、あの女神神殿。

 大勢の少年が生贄にされていた。女神達の目には人の血が塗りたくられていた。まるで彼女らの目を塞ごうとするかのように。

 やったのは、間違いなくパッシャとゴーファトだ。あれだけ多くの少年を調達するのに、ゴーファトは領内の混乱を必要とした。紛争に対する懲罰という名目で、兵士を派遣しては少年を拉致し、密かに目的地に運搬して、あのように生贄として消費したのだ。

 してみると、あれがゴーファトの目的ということになる。


 ただ残虐行為を楽しんだ、ということでもないのだろう。

 あれをすることで、何か欲しいものが得られる。


 となると、あそこでメモを取ってきた謎の文字。

 これを解読できれば……


「やぁやぁやぁ、ファルス様」


 今日も今日とて、なぜか堂々とこの高級ホテルのテラスに、乞食同然のアドラットがやってきた。手を振りながら、図々しくも俺の真向かいまで歩み寄り、許しも得ずに腰掛けた。


「おはようございます」


 あと一つ、謎があった。

 こいつは何者だ?


「いやー、おいしそうですね。朝から何も食べてないんですよ。一ついただいてもいいですか?」

「どうぞ」

「じゃ、遠慮なく」


 パンを一切れ、手に取ると、ムシャムシャと貪り始めた。

 初日に垣間見えた品のよさはすっかりなくなり、見事に乞食男になりすましている。だが、ピアシング・ハンドが示すこの男の正体は、やはり要注意人物だ。


 定期的に俺に接触して、取り入ろうとしている。情報収集が目的なのか、それとも俺を殺そうとしているのか、他に何かあるのか。

 これまでは放置してきた。パッシャや使徒の手先かとも思った。だが、これ以上、曖昧なままにはしておきたくない。しかし、口を割ることができるか……


「そういや、ファルス様、ご存知ですか」

「何をですか?」

「珍しいこともあるもので。冒険者の集団が、スーディアまで行商にきたんですよ」

「それがそんなに珍しいものですか?」


 冒険者だからといって、一年中荒事を生業にしているわけではない。比較的平和な状況で、隊商の護衛といった仕事もなければ、自分で商品を運んで売り捌いたりもする。収容所のジュサなんかは、そのスタイルで稼いでいたのだし。


「そいつが普通じゃないんですよ。なんと東の果て、ワノノマからやってきたっていうんですから、こいつは見物です」


 ワノノマ? あんな島国から?

 正確には、東方大陸南部にもワノノマ人の居留地が広がっているから、そこから来たのかもしれないが、いずれにせよ、かなりの遠方であることは間違いない。


「あ、これ、もらっていいですか」


 承諾も得ずに、アドラットは鶏肉に手を伸ばし、両手で持ちながら食らいついた。


「彼らは何を売っているのですか?」

「いやー、それがショボいんですよ。魚の干物とか、まぁ山がちなスーディアでは海の魚は貴重ですし、売りに来たのもわからなくはないんですけどね。武器も持ってはいましたよ。あちらの、ちょっとだけ反った片刃の剣? 素人目にも、なかなか質がよさそうでしたね。売り物ではないみたいですが」


 ただの偶然だろうか。それとも……

 しかし、わざわざ山道を分け入ってこんな土地までやってくるぐらいだから、ただの行商とは考えにくい。


「何人くらいですか? 名前は?」

「んーと、パッと見、十人もいないくらいでしたかね。名前は、小耳に挟んだだけですが、一番年嵩の偉そうな人が確か、ヒシタギとか言いましたよ」

「ヒシタギ!」


 記憶にある。ヒシタギ家。

 ピュリスにいた冒険者ガッシュの仲間の一人だったユミが、ヒシタギ家の家臣の娘だった。彼女は婚約を嫌がって西へと旅立ったが、結局発見されて、イフロースの手によって送り返されてしまった。

 その主筋がわざわざ、こんな山奥まで?


「ご存知なんですか?」

「ええ、少しだけ」


 ヒシタギ家ということは、ワノノマ本土ではなく、東方大陸南部の豪族だ。それなりに位も高いはず。その家臣に過ぎないユミからして、ワノノマ王族の姫巫女候補に武術を習う機会があったほどなのだから。そんな名門の武人が……

 やはりただ事ではない。


「昔、ピュリスにいた冒険者の一人が、ヒシタギ家の家臣の出だったんですよ」

「へぇ、さすがはファルス様、お顔が広い!」


 そして、ワノノマという国のことを、今一度思い起こす。

 あそこは、女神教に最も忠実な国家だ。他の国々が世俗化していく中で、あそこだけは強固に女神と龍神に近い立場を守り続けている。モゥハが今でも人々と共棲しているというし、帝都の女神教の神官戦士団が事実上、機能しなくなった今では、基本的にはワノノマこそが対魔王戦線の急先鋒といっていい。

 だから、マルトゥラターレの故郷も滅ぼした。魔王イーヴォ・ルーの種族である水の民の集落、そして彼らの霊樹は、邪悪な存在、あってはならないものと考えるのだ。


 この時期、この状況でスーディアを訪ねる? これが偶然?

 いや、彼らはワノノマの魔物討伐隊ではないのか。だいたいからして、魔王に仕えるパッシャは彼らの仇敵だ。


「何しに来たのかな」

「行商だって言ってるじゃないですか」

「それだけじゃない気がする」


 会ってみるか。

 彼らが何か、重要な情報を握っている可能性もある。もっとも、素直に話してくれるとも限らないが。

 しかし、どこから聞きつけてやってきたのかはわからないが、こんな遠方にまで。それだけ重大な何かがここで起きようとしていることの証左ではないか。


 それより、先に……


「ふふーん、さすがはファルス様」

「なにが?」

「よくわかりませんが、何かを嗅ぎつけたご様子! このアドラットには気付けない、何か大きな秘密を見出したってところでしょう! いやはや素晴らしい」


 とにかく俺をヨイショするこいつ、アドラット。

 彼も謎の一つだ。まずはこれを処置する。うまくいかないかもしれないが。


「しかしですね、それもこの私、下働きを厭わない、耳聡い私がいればこそですよ。というわけでファルス様、この私を是非! 第一の下僕にしていただければと」

「そうですね」

「いやいや、そうはおっしゃいますけどね、こんな私でも役に立てることが……って今、なんて?」

「そうですね、と」


 ガタッと席を立ち、よろめきながら、アドラットは真顔で俺を見た。


「ほ、ほほほ、本当に?」

「随分と熱心なようですから」

「と、ととと、取り立てていただけるので?」

「それは僕に言われましても。ただ、貴族の方々にお目見えする機会も増えますから、その時に見出していただくのですね」


 すると、じわじわと彼の顔に笑みが広がった。そしてガバッと床に身を投げると、俺の靴にキスしそうな勢いで床に跪いた。


「あ、あああ、ありがとうございます! このアドラット、幸運を決して無駄には致しません!」

「それでは、ちょっとお話をしましょうか。ここではなんですから、僕の部屋で」

「はい!」


 取り立ててもらった小汚い小者がウキウキしながら、身分の高い少年についていく……そんな奇妙な絵図に、テラスの来客からは視線が突き刺さる。だが、俺は構わずその場を去った。


「こちらが僕の部屋です」


 扉を開け、彼に中に入るよう促す。


「おお、上等なお部屋でございますね」

「お入りください」

「は、はい、では遠慮なく」


 都合よく、窓はほぼ締め切ってあった。視界を確保するために、一つだけ半開きにしてあるが……

 アドラットが背中を見せた瞬間、後ろから思い切り蹴飛ばした。


「げぼっ!?」


 体重こそ軽いものの、技量もあり、魔術で筋力も水増ししてある。効かなかったはずがない。

 勢いよく床に叩きつけられた彼に、立ち直る隙を与えるつもりはなかった。素早く室内に入り、後ろ手で扉を閉じて、脇に立てかけた剣を素早く引き抜く。


「何を……っぐ!」


 押さえ込む前に、起き上がりかけた彼の脇腹を思い切り蹴飛ばす。そうして背中を踏みつけて、圧し掛かる。

 後ろから潰れた帽子を撥ね飛ばし、髪を掴んで頭を引っ張りあげる。そして、首筋に剣を押し当てた。


「吐け」

「はっ?」

「全部吐け」

「そ、そんな」


 目を泳がせながら、アドラットは言った。


「鶏肉まで勝手に食べて済みませんでした」

「なに?」

「でも、せっかく食べたのに、もったいないじゃないですか」

「そういう意味じゃない」


 こいつ、わかっているのか?

 死ぬかもしれないのに、冗談を。


「お前は誰だ」

「アドラットです。ガーネットの冒険者アドラット・サーグン、帝都出身、四十八歳未婚独身」

「誰の手引きで動いている」

「誰の……何のことか……あぐぅっ!?」


 手早く『行動阻害』を詠唱して、激痛を与える。


「い、今の、なんですか」

「質問しているのはこっちだ。お前の主人は誰だ」

「それはもちろん、ファルぐあっ!」

「正直に言え。パッシャか。それとも使徒か」

「は?」


 本当に知らないのか?

 いや……


「お前の目的は」

「正直に申し上げますが、それはもちろん、ファルス様を介して身分の高い方々、差し当たっては、とりわけ武勇を愛するスード伯にお目見えすることです。そうすれば私の望みも」

「嘘ばかりだな」

「嘘ではございません」


 精神操作魔術で読み取るか?

 但し、このままでは効果が薄い。ピュリスの魔法陣でもあれば別だが、そうでもない場合、ノーラのところに引き摺っていったとしても、こいつの高すぎる能力のせいでノイズが混じる。読み取られると予期している人間の心を知るのは、かなり難しい。

 そうなると、アドラットの神通力やスキルを一つ一つ剥ぎ取ってから、ということになる。そんなに時間はかけられない。


「とぼけるな。アーウィンから何を命じられている? 言え」

「何のことだか、さっぱり」

「正直に言わないなら、仕方がない。この場で殺す」


 これは、迷いもありながら、本音でもあった。

 正体を明かさないのなら、殺すべきではないか。これほどの力を有した人物が、何の目的もなく俺の周りをウロウロするはずがないからだ。といって、真実を明かすことができないのであれば、残るのはリスクばかり。放置はできない。

 ただ、本気であることをわからせる必要はあるだろう。首を刈る前に、肩でも切り刻んでやろう。そう思って乱暴に襟を引っ張った。


「ん?」


 彼の右肩に、汚い刀傷のようなものが残っている。小さくない傷跡だ。

 これは一体……


 まあ、いい。

 これだけの戦士なら、傷の一つや二つはあるものだ。


「脅しじゃない。十秒待ってやる。十、九、八……」


 アドラットは目を見開き、俺の目を見返す。

 そして、本気だと悟ったのだろう。逃れようにも、首元にはしっかり刃が当てられている。俺を押し返すより、死ぬほうが早い。

 神通力で何か仕掛けてくるかもしれない。それにも対応できるよう、俺も注意は怠らない。


「五、四、三……」


 抵抗の気配がない?


 逃れられないと知ってか、彼は体の力を抜き、目を閉じたのだ。

 その表情には、初めて顔を合わせた時に感じた、どこか清らかなものがあった。


 まさか、そんなはずは……

 死んだら、何一つ目的を果たせないのに。自分の命を擲って戦う覚悟があっても、無駄死には恐れるものだ。なのにこいつは、力み一つない。

 その事実に、俺の方が戸惑った。戸惑わされた。


「二、一……ゼロ」


 言うくらいなら、死ぬ。

 覚悟を決めている。


 やはり、只者ではない。

 だが、うまく説明できないが、ここで殺してしまっていいようには思われなかった。もし、パッシャとも使徒とも無関係だったら?

 それに、命をここで捨てるほどの秘密、情報を握っているのかもしれない。


 そもそもパッシャが彼を俺の傍にアドラットを置いておくメリットがあるのか? アーウィンがいる。二十四時間いつでも俺のすぐ近くに瞬間移動できるのだ。千里眼もある。神通力のランクは低いが、アグリオ市内にいる限りは、いつでも俺を捕捉できる。こんな男を必要とはしていないはずなのだ。

 いや、それは的外れか? 思い返せば、ジョイスは俺を透視できなかったし、アイドゥスも予知能力で俺の姿を確認はできなかった。となると、彼の千里眼の能力でも、俺を指定して視界を得るのは無理かもしれない。ただ、彼は俺の宿舎を知っているので、そこを指定しての千里眼や瞬間移動ならできる。

 ただ、だからといってアドラットみたいな大駒を俺の横に配置する意味があるのか。他に使い道があるだろうし、何よりやり方が不自然すぎる。


 では、使徒は? これも同じ気がする。何より、俺の身辺を探るなら、もっと地味な人物を使うはずだ。タンディラールの密偵とは違うだろうし、ゴーファトの配下と考えるのも無理がある。


 しくじった、か。

 なんだか、俺は交渉事に強くないらしい。ノーラも説得できず、アドラットを屈服させることもできなかった。


「ふん」


 すぐさま殺し合いになるかも、と思いながら、あえて俺は手を放して立ち上がった。


「合格です」

「は、はい?」

「度胸のない男では、僕の供には相応しくない。そう考えた結果です」

「お、おお」


 死に瀕していた男が、一転して喜色満面、立ち上がると、全身で喜びを爆発させた。


「では、お仕えしてもよいと!」

「こちらが迷惑だと思ったら捨てますよ」

「ええ、ええ! それこそ望み通りです! ぜひそうなさってください!」


 喜んで、前屈みになってガッツポーズをとっている。


「僕の下につきたいと言ったのはあなたです。これから呼び捨てにさせてもらいます」

「もちろんです、ファルス様」

「命令には従うこと。あなたに何を任せるか、知らせるかは、僕が選びます。勝手は許しません」

「はい、はい!」


 とにかく、こんなあからさまに俺に興味を見せている変な奴を野放しにしておくのも怖い。手元においておいたほうがまだマシだ。いざとなったら殺せるし。

 しかし、ああまで命の危険を感じながら、なお俺に抵抗しようとしなかったのはなぜなのか。命懸けで「ダメなやつ」を演じなければいけない理由でもあるのだろうか。死んでしまえばおしまいだろうに……俺はてっきり『具象剣』の神通力でも使って、予測不可能なところからの攻撃が放たれるのかと気を張っていたのだが。


 そこで俺は、わざと背中を見せた。


「では早速、ワノノマの冒険者達の顔を見に行きましょうか」

「はい! ご案内致します」


 ところが彼は、隙だらけの俺の背中を追い越して、前に立って歩き出した。

 本当に、どういうつもりなのだろうか。俺がまだ、彼を疑いの眼差しでみていることもわかっているはず。さっき、俺はパッシャとか使徒といった言葉を口に出してしまった。カマをかけたつもりだったのだが、逆にこれでアドラットは情報を得てしまったのかもしれない。

 こいつはいったい、何が目的なのか。敵か、味方か。


 この課題は持ち越し、か。

 だが、どこかで解決しなくてはならない。そう心に決めて、俺は一歩を踏み出した。

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