正義に縋る少女

「ファルス様」


 いつになくキラキラした顔のプレッサン。ここ三日ほど見かけなかったのに、急に今朝、また顔を出してきた。


「今度こそ聖人アズィズの墓に詣でましょう」

「は、はぁ」

「アズィズは罪びとを罰し、女神の赦しへと導いたお方。ファルス様の身に纏わりついた俗塵を落とすには、彼の庇護を願う以上の方法などありません」

「ちょ、ちょっと待ってください」


 こっちはまだ、朝飯を食ってる最中なのに。


「食事中だから待て、などとおっしゃるのですか」


 ああ、宗教的情熱は、飲食に勝る、と。理屈なんか通じないだろうな。


「いえ、それはありませんが……」


 それにしても、やけに彼の顔がツヤツヤ、テカテカしている。それに不思議と落ち着きがない。


「いきなりどうなされたんですか」

「いきなり?」

「こう、妙に元気といいますか、何かに駆られているような……」

「うぇぉっほん!」


 大きく咳払い。その一瞬、彼の目が泳いだ。


「ここ三日ほど、お見かけしませんでしたが、どちらにおいででした?」

「あ、ああ、ちょっと聖都の外で、仕事を」

「お仕事ですか? でも、僕の案内がお仕事なのでは」

「毎日仕事ばかりじゃないですよ。休暇だって与えられないわけでは」

「休暇?」


 はて?

 話が繋がらない。仕事じゃなかったのか?


「ああ、あああ、そういうことじゃなくてですね」


 妙に焦っている感じがある。なんだ? 触れてはいけない話題だったとか?


「つまり、一つのお仕事だけではないんですよ。聖職者としてですね……」

「はい、まぁ、いいですけど」


 なんとかパンを飲み込む。

 連れて行かれるのは仕方ないが、せめて食事を済ませる時間くらいは、会話で稼ぎたい。


「でも、聖都が理想的な住処なのでは? あなたがた司祭にとっては」

「それはそうです。もちろん、もちろんそうですよ、ただですね……伝道の使命を担う者としては、いつまでも楽園に留まるわけには」

「それで、なぜ今日、聖人の墓所に」

「ですから、それは清めと赦免をいただくために」

「なんだか唐突ですね」

「そうでもありません。私達は常に清浄であるべきなのですから」


 どうにも腑に落ちない感じがするが、まぁいい。

 たまには名所巡りに付き合ってやらないと、彼の立場もないのだろう。


「今日は予定もないので、行ってもいいですが」

「ファルス様、そのような態度はよくありません。いつでもどこでも、熱意をもって聖所を目指すべきだからです。しかし、どうあれ信仰に前向きになるのはよいことです」


 これでノルマが稼げて、うるさく騒がないでいてくれるなら。今となっては貴重な残り時間とはいえ、消費するのもやむを得ない。

 それに、彼を窓口にするしかない現実が、どうしてもある。ずっと男爵に頼りっぱなしというわけにはいかないし、そもそも彼経由の話というのは、この前のノベリク子爵を見てもわかる通り、まず下心ありきだ。

 第一、俺が無茶をやらかせば、男爵に迷惑がかかってしまう。特に、俺はこれから、アイドゥス師に接触して、彼を……脅迫しなければならない。

 脅迫、というと物騒な響きだが、よくよく考えると、そうとしか言えない。この国の枢機卿で、俺の力になってくれそうな人は他にいない。アイドゥスについても、俺を助けるメリットなんかない。彼を動かす理由となる何かがあるとすれば、それは彼の秘密の活動にしかないのだ。

 違法行為に手を染めていましたね、密告できるんですよ、それが嫌なら僕を聖女の廟堂に連れて行ってください……その足がかりにするなら、仮にも顔見知りより、使い捨てられる人間の方が好ましい。


「では、早速出かけましょう。歩いて行ける場所にありますから」


 それで俺も席を立ち、彼の後について、宿舎の外に出た。

 その瞬間、状況がガラリと変わってしまった。


「わっ!? たっ! と?」


 出入口を塞いで、プレッサンは立ち尽くしている。これじゃあ前が見えない。


「なななな、なぜこんなところへ、師よ」

「お忙しいところ、申し訳ございません」


 慌てふためくプレッサンに、穏やかな口調で語りかける。その声は……


「今日はどちらへ」

「アズィズの墓所へ」

「それは大変結構です。ですが、ご迷惑でなければ、そのご予定を一日、延ばされることは叶いますでしょうか」


 向けられた敬意によっても、そのへりくだった態度に変化は見られない。


「ももも、もちろんです、は、ファルス様、こ、こちら」


 ようやくプレッサンが体をどける。

 向かいに立っていたのは、緋色の法衣に身を包んだアイドゥス師だった。


「先日ぶりです、ファルス様」

「お会いできて嬉しいです、アイドゥス様」


 彼の背中の向こうには、馬車が待っている。黒塗りの上品なもの。どう考えても貴族のそれだ。


「お忙しいのは重々承知しておりますが、本日、お時間を割いていただくことは可能でしょうか」

「むしろ喜んで」

「ありがとうございます。お詫びといっては何ですが」


 俺に一礼すると、アイドゥスは脇に立っているプレッサンに一枚の書状を差し出した。


「お手数ですが、こちらを関係する窓口に提出していただけますか。ファルス様の滞在許可期間を、あと一年ほど延長するための請願です」


 一年? これはまた。事実上、時間制限がなくなった。長居しないほうがいいと男爵には言われているが。

 さすがは枢機卿。鶴の一声でどうとでもなってしまうのだろう。


「はっ、はいっ」

「では、参りましょう」


 御者が後部座席の扉を開けて待っている。俺は先にアイドゥスを、と身振りで促したが、彼はあくまで俺にもへりくだり、先に馬車へと導いた。


「本日はどちらへ」

「ファルス様、申し訳ございません」


 馬の蹄が小気味良い音をたてる中、ほのかな笑みを浮かべたまま、アイドゥスは言った。


「私はノベリク子爵のご息女ソフィア様の教師でもありまして、本日はお宅にお伺いするところでした」

「では」

「閣下が是非にとファルス様を招かれまして。急なご相談だったのですが、それならと、お伺いするついでに、こうして参った次第です」


 前回、中庭で鉢合わせたから、面識もある。そして聖職者の招きであれば、巡礼である俺は断りにくい。にしても、こんなパシリみたいな用件で動くのか、彼は。


 つまり、あのオッサンはまだ、俺に娘を押し付けるつもりなのか。

 あのファルスという奴は、出世欲に駆られた少年である。ミディアもジェゴスもそう認識しているし、またそれが噂にもなっているのではないか。だとすれば、内心では卑しんでいるのかもしれない。

 とはいえ、だ。娘のほうは余計だとしても、これは好機だ。他に邪魔の入らない形で、俺は枢機卿の一人とパイプを持てる。

 しかし、ここでその話をするわけにはいかない。目の前には御者がいる。こいつはトリエリクの下僕だ。秘密は秘密だから脅迫に使えるのであって、広まってしまったのでは意味がない。


 一時間後、俺はあの、花々に彩られたガラスのドームの下で、退屈な話を披露しなければならなくなっていた。同席しているのは、トリエリクとその妻、娘のソフィア、そしてアイドゥス師だ。


「いやはや、してみるとファルス君の活躍が、王を救ったということになるのではないかな」

「閣下、さすがにそれは」

「いやいや、あそこで逆賊の頭目に手傷を負わせたからこそ、その後動くこともままならず、ひいては王家の勝利に繋がったのですから。素晴らしい」


 出した料理にがっつかれるなら本望だが、人を傷つけた経験を褒められても、嬉しくもなんともない。第一、俺が強いのは努力の結果というより、多くを生まれ持った能力によっている。自慢話をさせられても、苦痛でしかない。

 だが、俺にこんな話をさせる意図ならば、わかっているのだ。


「なぁ、お前。神殿騎士にも、こんな腕前、こんな胆力のがいるものかね」

「あなた、滅多に見かけるものではありませんよ。この若さでこの名誉、それになお学ぼうという向上心……おほほ」


 夫婦揃って俺を持ち上げる。意図的に。

 その横、アイドゥス師と母の間に挟まれたソフィアはというと、むっつりしていた。


 私は見捨てられようとしている。そう直感しているのではないか。

 彼女からすれば、矛盾そのものだ。性的な詩を路上で人に見せて大恥をかいた。ソフィアは穢れた。なら、より清く正しくあるべきなのに、どうしてまた、穢れを招きよせるようなことをするのか。他所の男とテーブルを囲むなんて。

 この状況を解釈するには、こう考えるしかない。もう期待されていないから。いらないから、こういうことをするのだと。


「ソフィア」

「はい、お父様」

「これから私達はアイドゥス師と少しお話がある。お前はその間、ファルス君を裏の庭園に案内してあげなさい。せっかく珍しい花がたくさん咲いているのだから」


 その指示に、彼女はむっと黙ってしまう。


「どうした? 早くなさい」

「あの、閣下」


 彼女のためというより、俺は自分のために口を差し挟んだ。


「僕としては、別にお願いがありまして」

「なにかね」

「せっかくこうして、枢機卿の方とご同席できたのです。この貴重な機会を生かしたく……僅かな時間でもいいので、学びの機会をいただくことはできないかと」

「ああ」


 それで彼は、アイドゥスに目配せした。彼はゆっくりと身を折った。


「私も望むところでございました。ファルス様とは話したりないと思っておりましたので」

「では、後ほど、そのお時間はとりましょう……じゃあ、ソフィア。今はファルス様をご案内しなさい」


 ダメか。諦めてくれない。

 強い口調で言われて、彼女は項垂れた。


「……はい」


 ソフィアが案内してくれたのは、先日に見た庭園の更に奥だった。東側全域が庭園ではあるのだが、特に敷地の中央部分に口が開いていて、そこからが館に囲まれた中庭になる。上から見下ろすと、コの字とかCの字といった間取りになっているのだろう。

 外側の屋内庭園も見事だったが、この中庭は、特に念入りに仕上げられていた。色とりどりの石が様々な形ではめ込まれた床。その中央には、清らかな噴水がある。ウェディングケーキのように、いくつもの段からなっていて、その最上部から水が噴き出しているのだ。頂点でそのシャワーを浴びているのは、銀色の鷹だった。

 その噴水を取り囲むように、扇形の花壇が、いくつも折り重なるようにして配置されていた。真っ赤な花に暗い緑色の茎。喜ぶ少女達のような黄色い花に、淑女のような空色の花。己を誇るかのようにうなじを見せ付ける白い花。

 それらの合間に、やはりというか、立派な出来栄えの彫像が並んでいる。槍を手にした戦士、たおやかな乙女、猛々しいグリフォンまで。

 手の届かない高所にも、ところどころ小さな花壇があり、焦げ茶色の煉瓦の合間に彩りを付け加えている。また、あちこちに光を取り込むための窓も組み込まれている。この壁の最上部にも花壇があるらしく、そこから蔓が伸びて、葉っぱと可憐な花で頭上から潤いを増していた。


 申し分のない庭園だ。これを維持するのにかかっているコストを考えると、眩暈がしそうだが。ここはフォレスティアではない。冬のセリパシアの最北端なのだ。

 しかし、この贅沢を楽しもうにも、ホステス役の機嫌が問題だった。


 俺は素晴らしい空間に目を奪われているふりをして、気まずい空気をごまかしていた。さっきからソフィアは俺に背を向けたまま、一言も話しだそうとしない。

 まいった。どうしよう。どうもしなくていいか。俺は彼女に好かれたいわけではない。ここをやり過ごして、アイドゥスと二人きりになれれば。

 だから俺も、そのうちに気を遣うのをやめて、緑を堪能し始めた。


 ゴトッ、と背後で音がして、気付いた。

 彼女はこの庭園に折りたたみ式の椅子とテーブルを持ち込んでいた。そして、すぐまた引っ込んでしまう。これは、俺のため?

 やはりそうだった。すぐまた戻ってくると、コップをトレイに載せて、おぼつかない足取りで近付いてきた。


「ありがとうございます」


 客をもてなそうとしているのであれば、こちらも礼儀を弁えねば。そう思って声をかけたのだが、彼女はビクッと身を震わせて、立ち止まってしまった。そのまま、動き出さない。


「どうしました?」

「……れてください」

「はい?」

「離れてください」


 えっと。これは。

 俺が目を泳がせていると、彼女は付け加えた。


「見知らぬ男と同席する女は、吐息の届くところに立つべからず。聖典の御言葉です」


 ソフィアは清らかでいたいのだ。素行不良の娘なんかであってはならないのだ。だからこうして戒律を持ち出す。

 俺も逆らう理由はないので、無言で後ずさった。すると、ほっと息をついた彼女は、やっとトレイをテーブルの上に置いた。


「では、失礼して」


 お茶を供されたのに、手をつけないのもどうかと思い、俺はテーブルに近付く。その分だけ、彼女も俺から距離を取る。

 なんとも微妙な気分になるが、どうしようもない。


「いただきます」


 一口。清涼感のある香りが突き抜けていく。


「大変おいしいですね」


 しかし、彼女は目を伏せたまま、俺の言葉にいちいち反応しない。


「あの……」


 居心地の悪さが、この空間の素晴らしさをすべて台無しにしてしまう。


「未婚の娘は、男を正視するなかれ。夫を知った女は、なお男を正視するなかれ。聖典の御言葉です」


 そういって、彼女は脇を見る。

 なんなんだ。ハリネズミか、この娘は。


「歓待を受ける客の立場で、失礼ながら」


 少し不快になったし、こいつに嫌われたって何の支障もない。はっきり言ってやろう。


「ろくに話もしないで放り出すというのは、相手に恥をかかせているようなものではないですか? 僕が何をしたっていうんですか」

「何もなさってはおられません」

「では、そもそも僕が穢れているとでも?」

「穢れは、あなたのうちにはありません。穢れとは、あなたのことでも私のことでもなく、あなたと私が近付く時に生じるものです。聖女様はそう教えています」


 なんでもかんでもセリパス教の論理で返してくる。でも俺は、この国に入ってからの一ヶ月半の間に、すっかりこの宗教が嫌いになった。


「そうやってなんでもかんでも、女神や聖女のせいにするんですか」


 すると、彼女はキッと顔をあげ、やっと俺を見た。


「私は正しいことだけをしたいのです!」


 さも当然という表情だ。

 だが、俺は冷淡に言ってやった。


「正しいって、何が正しいんですか」

「聖女様のお導きこそが、正義です」

「じゃあ、この国も正義だと」

「もちろんそうです」


 頭がコチコチだ。この若さで。


「ソフィアさん、聖都を出たことはありますか」

「いいえ」

「ここから四日とかからないところに、村があるんです」

「それがどうかしましたか」


 外の世界を知らなければ、これがすべてだと思い込むのも道理、だが……


「そこに暮らす農民は、とても貧しい暮らしをしていました。ここみたいにお花も咲いていません。少し南にいくと、もっと貧しいところもあります。雪が積もって寒くても、建物の隙間風を防ぐこともできません。薪にさえ不自由するのです。これが正義の結果ですか」

「すべてはモーン・ナーがお決めになったことです」

「オプコットは豊かな街でした。でも、みんな怯えていましたよ。間違えたら、街から追い出されるからです」

「それが正義ではありませんか」


 何かに縋るかのように、彼女はそう言い切った。


「では、あなたも間違えたら、追い出されなければいけないのですね。凍てつく雪原に」


 そう言うと、彼女は唇を噛んだ。


「……もう、間違えません」

「なんですか?」

「間違えないと言ったのです! 私は正しいことだけをします。正しければ、女神様がきっと報いてくださいます。他は何もいりません。考えなくていいのです!」


 俺はジロリと足下から頭の天辺までねめまわして、ボソリと言ってやった。


「手遅れでしょう」

「えっ」

「もう間違えない、ということは、一度は間違えたのでしょう? なのにあなたは、罰を受けていない」


 本当はもう、懲罰を受けている。不当なほどに。

 彼女はそれを埋め合わせようと必死になっているのだろう。だが、そんな都合など、俺の知ったことか。

 なんだか、こいつまで嫌いになってきた。いくら顔立ちがきれいでも、頭の中がこれでは、相手にするのもばかばかしい。まぁ、これだけ嫌われておけば、今後、関わりが生じることもないだろうし、ちょうどいいか。


「罰っ、はっ……」


 俯き、拳を握り締めながら。彼女は肩を震わせた。


「それもっ、私は、自分で……やります」


 不穏な言葉が飛び出した。

 嫌われるのはいいけど、自殺なんかされたら、さすがに困る。俺の発言のせいで、とかは。


 少しトーンダウンした声で尋ねた。


「どうするおつもりですか」

「廟堂に参ります」


 廟堂!?

 俺は思わず、腰を浮かしかけた。


「廟堂に……入れるんですか?」

「いいえ」


 なんだ。期待して損した。


「ただ、聞いた事があるのです」


 だが、彼女は神妙な顔つきで続けた。


「罪があまりに深い……生まれながらに罪を身に帯びた子供達は」

「生まれながら?」

「肉体に罰を刻まれた者達です」


 現代日本出身の俺には、受け入れがたい考え方だ。

 要するに、障害を抱えて生まれてきた人は、既にして罪深いという発想だ。たぶん、今すぐ日本に戻ってこの話をしても、理解してくれる人はほとんどいないだろう。だが、そこから更に一千年前の世界、特に一神教の行き渡った地域であれば、きっとすぐに通用する。

 罪があるから罰があるのではない。罰があるということは、神がそう裁いた結果、つまり罪があるはずなのだ。なぜなら神は無謬だから。

 罪は穢れだから、遠ざけねばならない。昔のおとぎ話の中には、ただ片目だからという理由だけで、王様から刑罰を科されそうになった人の物語だってある。

 絶対神であるモーン・ナーがいる世界では、すべてが完全であるはずで、そこに不完全が混じるのだとすれば、それは人の過ちによるほかない。だから、不幸な人は罪人なのだ。


「……そういう罪びと達は、密かに廟堂にて清めの儀式を受けるといいます」

「儀式、ですか?」

「そこで罪の子らは、新たなる生と使命を得て、正義のために生まれ変わるのだと」


 いまいち要領を得ない。

 生まれつき障害のある赤ん坊が、自分で廟堂を目指すはずもないだろう。ということは、親が持ち込む? 子供を処分するために? あり得なくはない。この土地では、子供の間抜けな失敗でさえ、笑い話にならないのだ。罪の子を産んだ事実自体が好ましくないのだから、そういう穢れは、親としても処分してしまいたいのが普通だろう。

 しかし、産み捨てた子供を……よりによって、立ち入りが厳しく制限された廟堂に?


「そういう教えがどこかにあるんですか?」

「いいえ、あくまで噂のようなものですが」


 やっぱり眉唾物じゃないか。


「正しい心をもってすれば、きっと女神も赦免をくださるはずです。私はそう信じています」


 そう言い切ると、ソフィアは手を組み、頭上の遥か彼方に視線を向けた。


 宗教的情熱だか、親に捨てられたくない子供の執念だか、なんでもいいが、勝手に陶酔してくれていい。とりあえず、俺のせいで首を吊ったりするのでなければ。彼女が俺の人生に大きく関わることなどないだろうし。

 俺は興味をなくすと、ぬるくなり始めた手元のお茶を一気に飲み干した。

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